【不動産税理士が解説】不動産オーナーの確定申告の節税方法

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】

「不動産と相続」の専門税理士として業務を行う中で、「賃貸不動産を相続してオーナーになったばかりですが、今後の賃貸業で節税できる方法はありませんか」というご相談をよく受けます。

亡くなった不動産オーナー(被相続人)の確定申告書を見てみると、税理士が作成しているにも関わらず、まったく節税対策をしていないものも少なくありません。
今回は、賃貸不動産を相続した後で、相続人が注意すべき節税のポイントについて、近年の税制改正も踏まえてお話したいと思います。

まずは青色申告の手続をする

被相続人がずっと白色申告をしていたというケースは非常に多いですが、これは非常にもったいない状態を続けていたことになります。
青色申告をすると、白色申告にはない税制上のメリットを受けられるため、賃貸不動産を相続したらすぐに青色申告の手続をしましょう。相続人がもともと青色申告をしていない限り、青色申告承認申請書の提出が必要となりますが、その期限は次のとおりです。

1.被相続人が白色申告をしていた場合

(その年の1月16日以後に)賃貸業を承継した日から2か月以内

2.被相続人が青色申告をしていた場合

相続の開始を知った日(被相続人の死亡の日)の時期により、それぞれ次の期間内に提出が必要になります。

  • ①その死亡の日がその年の1月1日から8月31日までの場合
    ・・・死亡の日から4か月以内
  • ②その死亡の日がその年の9月1日から10月31日までの場合
    ・・・その年の12月31日まで
  • ③その死亡の日がその年の11月1日から12月31日までの場合
    ・・・その年の翌年の2月15日まで

被相続人が死亡した場合には、その死亡の日から4か月以内に準確定申告(被相続人の死亡した年についての確定申告)が必要となりますが、それよりも前に相続人自身の青色申告の手続が必要となることに注意が必要です。

「うちは賃貸の規模が小さいから青色申告できない」と誤解している相続人もいますが、青色申告ができるかどうかについて賃貸の規模はまったく関係なく、1室の賃貸でも青色申告ができます。

また、青色申告は面倒だから白色申告をしているという方もいますが、白色申告にも記帳等の義務はありますので手間も変わりません。

青色申告特別控除により最大65万円を控除

青色申告による一番のメリットは、所得から最大65万円を控除できることです。

65万円控除を受けるためには、複式簿記による記帳をし、貸借対照表を確定申告書に添付することと、事業的規模であることが要件となります(注)。

事業的規模とは、アパートやマンションならおおむね10室以上、貸家などの戸建の場合はおおむね5棟以上であることをいいます。
これらの条件を満たしていない場合には、控除額は10万円となります。賃貸業において経費に計上できるものが少ないため、青色申告特別控除は貴重な節税対策です。

(注)令和2年分以降では、65万円控除が55万円控除に引き下げられます。ただし、次のいずれかの条件を満たした場合のみ65万円控除が受けられます。

  • 電磁的記録の備え付け及び保存をしている場合
  • e-Taxにより電子申告をしている場合

今まで税理士に依頼せず、自分で紙ベースの申告等をしている人はご注意ください。

家族へ青色事業専従者給与を支給

一緒に生活をしている(同一生計)の家族に事業的規模の賃貸業を手伝ってもらって給与を支払った場合、青色申告をしているときは専従者給与として経費に計上することができます。

青色事業専従者となるためには、賃貸業に専従(基本的に他に職業などがない)することなどの要件があります。

また、税法上の具体的な金額の定めはありませんが、給与として経費に計上できる金額は「労務の対価として相当な金額」までとなりますので、根拠のない過大な給与の支給については、税務署に認められない可能性があります。

家族が青色事業専従者になると、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除の対象から除外されます。
ただし、平成30年分の確定申告から、不動産オーナー自身の合計所得金額が1,000万円を超える場合、配偶者の所得に関係なく配偶者控除が適用できなくなりました。

専業主婦の配偶者がいるにもかかわらず、他にも給与所得があるなどして所得が1,000万円を超えてしまい配偶者控除が適用できない不動産オーナーは、積極的に青色事業専従者給与の支給を検討すべきでしょう。

法人化なども含めて不動産に詳しい税理士に相談

アパートやマンションを複数棟相続するなど、青色申告特別控除や青色事業専従者の特例を使っても税金の負担が大きい場合には、賃貸業の法人化など、抜本的な節税対策を検討する必要があります。

被相続人に税理士がついていたとしても、不動産や相続を専門としておらず、適切な対策が取られていないことがほとんどです。相続したらすぐに不動産に詳しい税理士に相談して、我が家の場合には何が適切な対策なのか、具体的に診断してもらうことをお勧めします。

※この記事は、「家主と地主6月号/「相続税で検討したい節税のポイント 第一回 見落とされがちな青色申告によるメリット」に掲載された内容です。

関連記事:不動産所得の確定申告は必要?必要になる基準や税金の計算方法を解説

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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