アパート・マンション経営の大規模修繕とは?費用相場やタイミングを解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

大規模修繕とは?

大規模修繕工事とは、定期的に実施するマンションやアパートの修繕工事のことです。破損した部分をその度に修復する工事とは異なり、複数箇所を修繕することから大規模修繕工事と呼ばれています。マンション・アパートは、建物や設備が経年劣化し、重大な不具合が生じる恐れがあります。大規模修繕工事を定期的に実施することで、重大な不具合による建物の価値低下や空室リスクを抑えられます。

大規模修繕工事は、通常の修繕工事よりも費用が高額で、入居者から積立金を集めて費用に充当することが一般的です。そのため、大規模修繕工事を行うために費用を集めることを事前に通知し、了承を得ておく必要があります。

大規模修繕工事では、修繕だけではなく改修も行います。それぞれの違いは次のとおりです。

  • 修繕……建物や設備の劣化による不具合を解消するために、修理や交換などを行い、当時の状態にまで戻すこと
  • 改修……時代の変化と共にマンション・アパートの性能や居住性の水準が上昇するにあたり、自身の建物の資産価値の低下を防ぐために、性能や居住性をグレードアップさせること

修繕と改修の両方を実施することで、重大な不具合の防止だけではなく、資産価値の向上も期待できます。

大規模修繕を行うメリット

大規模修繕を行うことには、次のようなメリットがあります。

入居者の満足度が向上する

大規模修繕工事で劣化部分の修繕だけではなく、バリアフリー化やセキュリティの充実化、耐震性の向上などを実現すれば、入居者の満足度が向上します。また、経年劣化によって住みづらくなることに対する不安が和らぐでしょう。その結果、契約期間が長くなることが期待できます。

資産価値が高まる

改修によって居住性や性能が向上すれば、資産価値が高まります。改修されていないマンションと比較すると、入居希望者が現れやすくなるでしょう。周りのマンションよりも家賃を高く設定しても満室状態が続き、家賃収入が安定することが期待できます。

大規模修繕を行うべき時期について

大規模修繕工事は、適切な時期に実施することが大切です。一般的に、大規模修繕工事を行う頻度や、行う時期を間違えた際のリスクなどについて詳しくご紹介します。

12年周期で行うことが一般的

マンション・アパートによって大規模修繕工事を行うタイミングは異なります。12年周期で大規模修繕工事を行うことが一般的です。

建物の状態次第で適切なタイミングは変動する

大規模修繕工事を行うタイミングは、建物の状態に応じて変化することに注意が必要です。建物が置かれている環境、災害の頻度、入居者のモラル、日々の管理業務の質などに応じて、建物の劣化具合が変化します。十分に管理ができていない、頻繁に災害が起きて建物がダメージを受けている場合は、12年よりも早い周期で大規模修繕工事を行った方が良いかもしれません。

反対に、劣化スピードが遅くて災害の心配が少ない環境であれば、12年よりも遅い周期で大規模修繕工事を行っても良い場合があります。このように、建物の状態次第で大規模修繕工事を行うべきタイミングが異なることを覚えておきましょう。

時期を誤ることの問題点

大規模修繕工事を行う時期を誤ると、さまざまなトラブルが起こり得ます。行うべき時期よりも早いタイミングで行うと、入居者はより多くの修繕積立金を積み立てることになります。その結果、家計に大きな影響が及び、マンションの売却や退去してしまう恐れがあるのです。

反対に、大規模修繕工事を行うタイミングが遅すぎると、劣化によって不具合が起こるリスクが高まります。大きな不具合が起きた場合、入居者から損害賠償を請求されたり、退去してしまったりする恐れがあります。また、大規模修繕工事を行うよりも多額の費用がかかる可能性も否定できません。

また、一般的に見ると耐震性や性能、居住性などが低くなり、入居者が現れにくくなることも予想されます。このように、大規模修繕工事を適切な時期に実施することは、マンション・アパート経営の成功に必須と言えるでしょう。

大規模修繕の工事項目と費用相場

国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査(平成29年5月~7月調査)」によると、大規模修繕工事の一戸あたりの費用は全体の30.6%が75万~100万円、24.7%が100万~125万円、13.8%が50万~75万円でした。修繕箇所や修繕内容によって費用が大きく異なります。そのため、費用相場を知るには、似た条件で大規模修繕工事をしたオーナーの口コミを調べなければなりません。

また、大規模修繕工事と一言で言っても、さまざまな工事項目があります。どのような工事項目があるのか詳しく見ていきましょう。

仮設工事

仮設工事とは、大規模修繕工事を行うために必要な現場の工事事務所、作業員の待機所、資材置き場、仮設トイレなどを設置する工事です。建物を建てるだけではなく、待機所に電気やインターネットなどを通す必要があります。

また、建物の周りに足場を設置することも仮設工事の1つです。さらに、廃材の飛散を防ぐためのシート、侵入防止フェンス、落下防止柵、養生なども仮設工事に含まれます。

下地補修工事

下地修繕工事とは、目視や打診で天井や壁、床などの状態を調べ、必要に応じて補修することです。例えば、壁のひび割れ、爆裂、欠損といったパターンがあります。補修方法は、破損の状態や素材などで異なります。

塗装工事

塗装工事には、外壁塗装と鉄部塗装があります。外壁塗装では、劣化した塗膜や錆を除去し、新しく塗料・塗材を塗ります。鉄部塗装は、玄関扉・枠、エレベーターの扉・枠、メーターボックスなどの鉄製パーツを再塗装する工事です。

シーリング工事

シーリング工事とは、外壁の目地をシーリング材で埋め直す工事です。シーリングには、防水性を高めて雨漏りを防いだり、耐震性を高めたりする役割があります。そのため、大規模修繕工事では全面的に埋め直すことが一般的です。外壁だけではなく、サッシの枠の周り、手すりの支柱脚の周りなどにもシーリングが施されています。

防水工事

防水工事とは、雨漏りを防ぐために行う工事のことです。外部に面している廊下や外階段、バルコニーなどに、アスファルト防水やシート防水、塗膜防水などの方法で工事を行います。改修における防水工事には、既存の防水層の上に防水層を新たに作る方法や防水層を新しいものに作り替える方法があります。

防水層の状態や仕様を踏まえ、改修の方法を選ぶことが重要です。

建具・金物工事

玄関扉や階数表示板、住戸名札、郵便受け、金属手すり、宅配ボックスなどの建具・金物を塗り直したり修復したりします。状態が著しく悪い場合は交換も検討しましょう。

設備工事

給水設備やガス設備、電気設備、電話・インターネット設備、排気設備、消化設備などの修繕・改修工事を行います。設備の種類によっては有資格者による施工が必要です。

大規模修繕の費用を抑えるためのポイント

大規模修繕工事は、数千万円以上もの費用がかかるケースもあります。順調に家賃収入を得ていても、定期的に多額のコストがかかることは避けたいところでしょう。入居者から修繕積立金を集めるにしても、全くの支出なく大規模修繕工事を行うことは困難です。そこで、大規模修繕工事の費用を抑えるためのポイントについて詳しくご紹介します。

相見積もりで比較検討する

施工業者を選ぶ際は、相見積もりを取りましょう。相見積もりとは、複数の業者から見積もりを取り、価格競争を引き起こす手法です。多額のコストがかかる大規模修繕工事は相見積もりとの相性が良く、数十万~数百万円も安く依頼できる可能性があります。ただし、価格が安くても、施工の質が悪ければ元も子もありません。短期間で再び修繕が必要になり、トータルコストが上がるリスクがあります。

相見積もりを取る業者は、5~10社程度が目安です。

自分で探した業者に依頼する

管理会社やコンサルティング会社などが紹介した施工業者に依頼すると、マージンが上乗せされます。施工業者を自ら探すのが面倒、忙しくて探す時間がない場合は、施工業者の紹介を依頼してもよいでしょう。ただし、紹介された業者が必ずしも質や信頼性が高いとは限りません。

大規模修繕工事の費用を抑えつつ信頼できる会社に依頼したいのであれば、自ら業者を探すことが大切です。

可能な限りコストが低いプランを作成する

「修繕すべき箇所を全て修繕する」、「資産価値を向上させるために改修する」という2つの方針はぶれないようにしましょう。そのうえで、可能な限りコストが低いプランを作成してみてください。例えば、足場の設置費用を抑えるために、ロープやゴンドラを使用できないか業者に確認してみましょう。足場を設置する場合と比べて、費用を大きく抑えることができます。

建物診断で現状を知る

不必要な修繕・改修を行うと、余計なコストがかかります。そのため、大規模修繕工事の前に、建物の調査を行うことが重要です。無料診断では精度に限界があるため、信頼できる業者に有料で依頼しましょう。必要な箇所を修繕・改修し、無駄なコストを徹底的に削減してください。

適切な頻度で実施する

建物が深刻なダメージを受けてから大規模修繕工事を行うと、より多くのコストがかかります。そのため、環境や建物の劣化具合などを踏まえ、適切な頻度を見極めることが大切です。建物の状態はさまざまな要因で変化するため、定期的に建物の状態を診断してもらう必要があります。

メンテナンスを欠かさない

定期的なメンテナンスで建物の品質をある程度保つことで、大規模修繕工事のコストを抑えられます。簡易的な修繕であれば、オーナー自らが行うことも可能です。大規模修繕工事は、1回あたり数千万円以上もの費用がかかるケースが少なくないため、定期的なメンテナンスで修繕が必要な箇所をできるだけ減らしましょう。

関連記事:アパート経営の修繕費はどのくらい?費用の相場や時期も解説

まとめ

大規模修繕工事は、建物の品質を維持し、資産価値を向上させるために必要なものです。しかし、多額のコストがかかるため、短期間で何度も行えるものではありません。また、修繕積立金の負担も増大するでしょう。大規模修繕工事を適切な頻度で行うことで、入居者の満足度が向上し、空室リスクを抑えられます。

少しでもコストを抑えたいのであれば、相見積もりを取ること、自分で探した業者に依頼することを徹底しましょう。また、定期的なメンテナンスで建物の品質を保つことも重要です。マンション・アパートのオーナーが大規模修繕工事の知識を得ることは必須と言えるでしょう。この機会に大規模修繕工事への理解を深め、リスクが低く安定性に優れたマンション・アパート経営を目指してみてください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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