小規模宅地等の特例の更正の請求ができる・できないをパターン別に紹介

この記事の執筆者 税理士 長谷川 翔

マルイシ税理士法人の税理士です。不動産オーナー様や不動産会社様の、「不動産と相続」の問題解決のサポートに努めております。法人の会計・税務や個人の不動産所得等の確定申告、売却時の譲渡税申告、相続税申告、贈与税申告など多数の申告・相談業務を行っております。

税理士の見解

長谷川 翔

・相続税の期限内申告書に分割見込書を添付し、申告期限後3年以内に分割が完了すれば、更正の請求をする事により、納め過ぎていた相続税が還付されます。
・申告期限後3年以内に分割が完了しなくとも、一定期間内に承認申請書を税務署に提出し、承認を受ければ、3年を経過しても相続税が還付されます。
・更正の請求の期限は、基本的に遺産分割確定から4か月以内と短く、調停や裁判等が終わって安心してしまい、税務手続を忘れてしまうことが多いため注意する

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更正の請求とは、提出した申告書の内容誤りを正すことで納税額が減少する際に行う手続きです。

計算誤りで納め過ぎた相続税は、更正の請求書を提出することで戻ってきますが、小規模宅地等の特例の適用漏れについては、更正の請求ができるケースとできないケースが存在します。

本記事では、パターン別に小規模宅地等の特例に対する、更正の請求の可否判定について解説します。

申告期限後3年以内に遺産分割が確定したら小規模宅地等の特例を適用できる?

相続税の申告書は、遺産分割協議や遺言書の内容に基づいて計算することになり、申告期限までに遺産分割協議がまとまらなかった場合でも、相続人が法定相続分で相続財産を取得したもの(未分割)として、税額計算をしなければなりません。

小規模宅地等の特例を適用する場合、土地の用途に応じた要件を満たすだけでなく、申告期限までに遺産分割が完了していることも必要です。

小規模宅地等の特例を適用できる土地であったとしても、申告期限までに遺産分割が完了していなければ特例は受けられませんが、未分割の申告書を提出する際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付していれば、遺産分割完了後に小規模宅地等の特例を適用することができます。

「申告期限後3年以内の分割見込書」は、相続税の申告期限から3年以内に分割し、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用する際に提出する書類です。

遺産分割協議が完了しましたら、更正の請求書に必要書類を添えて提出すれば、納め過ぎていた部分の相続税が還付されます。

申告期限後から3年以内に遺産分割できなかった場合は?

遺産分割協議は相続人全員の同意が必要なので、相続財産を巡って裁判にまで発展した場合、3年以内に遺産分割がまとまらないことも想定されます。

このように「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出後、申告期限から3年以内に遺産分割協議が完了しないときは、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出することになります。

この承認申請書は、3年以内に遺産分割が完了しないことにやむを得ない事情があるときに提出する書類で、提出期間は申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までです。

この承認申請書は分割見込書とは違い、税務署に承認申請が認められた場合に限り効果を発揮しますので、裁判で係争中であるなど、やむを得ない事情がなければ承認されません。

一方、申請が認められれば、申告期限から3年を経過したとしても、遺産分割が確定してから小規模宅地等の特例を適用する旨の更正の請求書を提出することで、相続税は還付されます。

相続人が1人でも小規模宅地等の特例は適用可能

小規模宅地等の特例を適用する場合、遺産分割協議が完了していることが条件となっていますが、相続人が1人の場合には遺産分割の作成は不要です。

したがって、土地の用途など小規模宅地等の特例の要件を満たしていれば、遺産分割協議書を作成していなくても特例を受けられます。

小規模宅地等の特例には当初申告において特例を適用する旨の記載を要件とする「当初申告要件」がありますが、期限後申告も当初申告の一つです。

限後申告であったとしても、小規模宅地等の特例を適用する旨を記載し、必要書類を添付して提出すれば特例の適用は認められます。

パターン1|未分割申告後に更正の請求書を提出したケース

前提条件

  • 相続税の申告期限までに遺産分割協議が完了せず、未分割の状態で相続税の申告書を提出
  • 当初申告と一緒に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出
  • 申告期限から3年以内に遺産分割協議が完了
  • 遺産分割確定後、4か月以内に小規模宅地等の特例を適用する旨の更正の請求書を提出

特例の適否および解説

パターン1の事例においては更正の請求が認められるため、小規模宅地等の特例を適用することができます。

小規模宅地等の特例は、当初申告の際に特例を適用する旨を記載した申告書を提出しなければならない「当初申告要件」があるため、未分割の状態で特例は受けられません。

しかし、未分割でも「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、遺産分割が完了してから4か月以内に小規模宅地等の特例を適用する旨を記載した更正の請求書を提出した場合には、特例を適用することができます。

パターン2|分割確定から4か月以内に更正の請求をしなかったケース

前提条件

  • 相続税の申告期限までに遺産分割協議が完了せず、未分割の状態で相続税の申告書を提出
  • 当初申告と一緒に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出
  • 申告期限から3年以内に遺産分割協議が完了
  • 遺産分割確定後、4か月を過ぎてから小規模宅地等の特例を適用する旨の更正の請求書を提出

特例の適否および解説

パターン2の事例では更正の請求が認められないため、小規模宅地等の特例は適用できません。

当初申告が未分割の場合には、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで、後から小規模宅地等の特例を適用することができますが、その際には分割確定後4か月以内に更正の請求書を提出することが求められます。

パターン1で小規模宅地等の特例を適用できるのは、遺産分割が確定してから4か月以内に更正の請求書を提出したからです。

「分割確定後4か月以内」は法律で定められた期間ですので、期限を過ぎてから更正の請求をしても小規模宅地等の特例は受けられません。

また、更正の請求は申告期限から5年間は手続きすることができますが、請求が認められるのは、提出した申告書の内容が誤っている場合に限られます。

小規模宅地等の特例を適用するかは納税者の選択なので、当初申告で小規模宅地等の特例を適用していなかった場合、納税者が特例を適用しないことを選択したと判断されます。

そのため、当初申告で特例を適用する旨を記載しないと、更正の請求書を申告期限から5年以内に提出したとしても、小規模宅地等の特例は適用できません。

パターン3|未分割の承認申請書を提出するのを忘れたケース

前提条件

  • 相続税の申告期限までに遺産分割協議が完了せず、未分割の状態で相続税の申告書を提出
  • 当初申告と一緒に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出
  • 申告期限から3年以内に遺産分割協議が完了していない
  • 「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出していない
  • 遺産分割確定後4か月以内に、小規模宅地等の特例を適用する旨の更正の請求書を提出

特例の適否および解説

パターン3の事例においては更正の請求が認められないため、小規模宅地等の特例は適用できません。

申告期限後3年以内に分割が完了していない場合、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出しなければ、分割見込書を提出していたとしても、小規模宅地等の特例は受けられません。

したがって、申告期限から3年以内に遺産分割が完了しないときは、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに承認申請書を提出し、承認を受けてください。

パターン4|遺贈で取得した土地に対して小規模宅地の特例をしなかったケース

前提条件

  • 被相続人が遺言書を残して死亡
  • 遺言書には小規模宅地等の特例を適用できる土地を遺贈する旨が記載
  • 小規模宅地等の特例を適用せず、遺言書に記載されていない財産は未分割の状態で申告書を提出
  • 遺産分割協議が完了後に小規模宅地等の特例を適用する更正の請求書を提出

特例の適否および解説

パターン4の事例においては更正の請求が認められないため、小規模宅地等の特例は適用できません。

小規模宅地等の特例を適用するためには遺産分割協議が完了していることが前提となりますが、遺言書で特例対象地の取得者が決まっている場合、土地の分割は確定していますので、小規模宅地等の特例は適用可能です。

小規模宅地等の特例は当初申告で適用する旨を記載しなければならないため、遺言書で特例対象地を取得することが決まっているのにもかかわらず、特例を適用せずに申告をしてしまうと、小規模宅地等の特例を適用しないことを選択したとみなされます。

小規模宅地等の特例は相続人以外でも適用できるため、遺贈により土地を取得した人がいた場合についても、当初申告で特例を適用する旨の記載が求められます。

なお、遺言書に記載されていた土地に小規模宅地等の特例を適用するための更正の請求は認められませんが、遺産分割が確定したことで取得者が決まった土地に対しては、所定の手続きを行うことで特例を受けることができます。

パターン5|遺留分侵害額請求に伴い更正の請求書を提出したケース

前提条件

  • 被相続人が相続人Aに全財産を相続させる旨の遺言書を作成し死亡
  • 相続人Aは小規模宅地等の特例を適用して相続税の申告書を提出
  • 相続人Bは遺留分侵害額請求により、相続人Aが小規模宅地等の特例を適用した土地を金銭の代物弁済として取得し、相続人Bが小規模宅地等の特例を適用する旨の記載した更正の請求書を提出

特例の適否および解説、遺留分減殺請求と何が違う?

パターン5の事例においては更正の請求が認められないため、小規模宅地等の特例は適用できません。

遺留分侵害額請求は、民法改正で遺留分減殺請求の代わりに設けられた制度で、遺留分を侵害された相続人が請求者となります。

遺留分侵害額請求が認められた場合、侵害額に相当する額を請求者に支払うことになりますが、原則金銭による支払いが必要です。

本事例では、遺留分侵害額の請求を受けて特例の適用対象地の所有権が相続人Aから相続人Bに移転していますが、代物弁済による移転の場合、相続人Bは相続または遺贈で特例対象地を取得したわけではないため、更正の請求は認められません。

まとめ

遺産分割が申告期限に間に合わないときは、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、分割が完了しましたら速やかに更正の請求書を提出してください。

更正の請求書に関連する書類は国税庁ホームページに掲載されていますが、税務署に請求内容が否認されてしまうと納め過ぎた税金は戻ってきませんので、更正の請求書の記載不備や添付書類の不足には気を付けてください。

また、更正事由が発生してから4か月以内であれば、申告期限から5年を経過しても、更正の請求書が提出できるケースがあります。

小規模宅地の特例適用の有無により、納税額が大幅に異なる可能性がありますので、不明点があれば早めに相続税専門の税理士に相談されることをお勧めします。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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