タンス預金は相続税対策に使えない?リスクや注意点を解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

税理士の見解

藤井 幹久

・相続税の取り扱いでは、タンス預金は相続財産になる。

 タンス預金は預金口座から現金を引き出して作られることが多く、タンス預金を相続財産に含めないで申告すると、税務調査において預金口座の出金記録からその存在を指摘される可能性がある。

・上記の税務調査のリスク以外にも、紛失・盗難のリスクや遺産分割争いになるリスクがあるため、できるだけタンス預金は作らない方がいい。

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マルイシ税理士法人の代表税理士の藤井幹久です。

相続対策の相談を受けたり、相続税申告の実務を進める中で、いわゆる「タンス預金」の相談を受けることがあります。

タンス預金は銀行預金のように残高が形式的に把握できるものではなく、相続財産の中でも特にその存在や金額の把握が難しい財産と言われております。

しかし、相続を専門とする税理士の立場からすると、相続対策としてタンス預金を用いるのは非常にリスクが高いと考いと考えます。

本記事では、タンス預金のリスクや注意点を解説します。

タンス預金とは何か?

「タンス預金」という言葉は聞いたことがあると思いますが、世間一般で用いられているタンス預金と、相続税におけるタンス預金の意味は少し違いますので、最初にタンス預金の定義をご紹介します。

定義と基本情報

タンス預金は、広い意味では自宅で保管している現金全般を指す言葉で、銀行などの金融機関に預けているお金と対比して、タンス預金の言葉が用いられることが多いです。

元々の由来はその名の通り、箪笥(たんす)で現金を保管していたことからそのような呼ばれ方をされていましたが、現在では財布にあるお金など、日常的に使用する現金を除く自宅保管のお金をタンス預金と呼んでいます。

相続が発生すると亡くなった人(被相続人)の銀行口座が凍結されるため、葬式費用や生活費を工面できないことも想定されるなど、すぐに使える現金を確保する手段としてタンス預金を用いることがあります。

相続税におけるタンス預金の位置付け

相続税は、被相続人(亡くなった人)の財産すべてが対象となるため、被相続人がタンス預金として現金を管理していた場合、タンス預金も含めて相続税を計算しなければなりません。

タンス預金は銀行預金と違い、取引履歴や残高証明書などが一切残りませんし、相続税の申告書ではタンス預金を現金と記載して申告します。

タンス預金の存在は見つかりにくいため、テレビドラマなどではよく、タンス預金を脱税手段として用いている様子を目にします。

しかし、被相続人のタンス預金の申告漏れを指摘されれば、ペナルティを受けることになりますし、意図的な申告除外は重加算税の対象です。

預貯金に比べるとタンス預金の捕捉は難しいですが、相続税の支払いを逃れるためにタンス預金が用いられることが多いことから、調査担当者は税務調査において必ずタンス預金の存在を確認します。

タンス預金をしてはいけない?リスクを解説

タンス預金として財産を管理する際、下記のリスクがあります。

タンス預金が多額になる場合には、必ず理解しておかなければならない事項です。

物理的リスク:災害や盗難、紛失の可能性

タンス預金をしている方全員に共通するデメリットは、物理的に財産を失うリスクです。

お金を預金していた場合、災害で通帳を失ったとしても、銀行預金をしていれば口座内のお金が消えることはありません。

銀行が盗難事件で被害を受けたとしても個人の預金残高が減ることはなく、ニュースで報道されるような、ゴミ集積場から大量の現金が発見されるような誤廃棄も起きません。

一方、火災事故でタンス預金のお金が燃えてしまうと財産を失うことになりますし、タンス預金の盗難被害にあった場合、被害額を証明するのが難しいです。

銀行にお金を預けていても倒産で失うリスクはありますが、盗難などの被害に遭遇する確率と比較すれば低いため、タンス預金をする際は物理的リスクに気を付けてください。

相続トラブルの火種:隠された財産が原因でトラブルに

相続では亡くなった人の財産すべてを相続人間で分けることになるため、一部の相続人がタンス預金の存在を知らない場合、遺産分割を巡って争いに発展することも考えられます。

タンス預金は性質上、存在を証明することが難しく、タンス預金の存在を知っていた相続人が存在を明らかにしなければ、遺産分割前にお金を抜き取ることやタンス預金を独占することができてしまいます。

タンス預金の存在を知る相続人が保管されていた額を提示したとしても、他の相続人がその額が本当であると納得するとは限らないため、相続トラブルになりやすいです。

また、被相続人以外が知らなかったタンス預金が遺産分割協議後に見つかった場合、再び分割協議が必要となります。

タンス預金が多額だと財産の分け方を巡って揉めることも考えられますので、秘匿にしていた財産は相続トラブルになりやすい点に注意してください。

税務リスク:税務調査で指摘される可能性

税務調査の期間は通常5年(贈与税は6年)、悪質な場合は7年と定められているため、時効となるまでの期間は想像よりも長いです。

タンス預金は財産を隠しやすい側面があることから、相続税の申告書に現金の記載が無い場合や、金額が少ないときはタンス預金を隠していることが疑われます。

相続人が生前贈与でタンス預金の贈与を受けていたとしても、贈与事実を証明できないと贈与自体が否認され、相続財産として課税対象になる可能性があるので注意してください。

贈与行為が否認されないためには、贈与契約書を作成したり、贈与税の申告書を提出するなどの対策が必要です。

タンス預金を把握される税務署の税務調査手法とは

タンス預金自体は取引履歴などが残りませんが、タンス預金は税務調査で指摘されることが多い財産なので気を付けてください。

預貯金の口座履歴は10年分調査される

税務署職員には強力な権限が付与されており、税務調査で必要であれば金融機関を調査することが認められています。

金融機関は顧客の取引履歴を一定期間保管していますので、税務署は過去の取引履歴を調べ、申告から除外されている財産の有無を確認します。

タンス預金自体は金融機関の取引履歴に反映されませんが、多額の出金があった場合、税務署は預金口座の取引履歴の出金記録から、その先のお金の使い道を調べます。

税務署が解明できなった使途不明金は税務調査で質問されますし、相続人が存在を知らなかったタンス預金が調査担当者からの指摘で判明することもあります。

納税者情報の一元管理(KSKシステム)

国税組織は納税者情報を管理するシステムとして、KSK(国税総合管理)システムを導入しています。

KSKシステムでは納税者に関するあらゆる情報が蓄積されていますので、過去の申告状況や税務調査の有無は調査前に把握されています。

被相続人に多額の所得があったにもかかわらず、相続税の申告書に記載された預貯金が少ない場合、申告漏れや除外した財産の存在が疑われますし、疑問を解消するために調査が実施されることも少なくありません。

相続が発生する数年前に不動産譲渡が行われ、売却代金で新たな不動産を購入していないときは、売却代金の使途について尋ねられることもあるので気を付けてください。

法定調書を通じた財産情報の取得

被相続人や相続人に関する情報は、法定調書として収集されていることもあります。

法定調書は、法律で提出することが義務付けられている書類をいい、不動産会社や金融機関などは法律で定められた調書を税務署に提出しています。

たとえば不動産売買時には取引内容が法定調書として提出されますし、国外への送金や国外からの入金額が100万円超となる場合には、法定調書として情報が税務署に伝わります。

税務署は色々な手段で情報を得ていますので、税務署に見つからないことを前提に行動するのは危険です。

相続税と贈与税の申告漏れによるペナルティは?

税務調査で申告漏れを指摘された場合、本税に加えて加算税・延滞税を支払わなければなりません。

加算税は期限までに正しい申告をしなかったことに対するペナルティで、「無申告加算税」・「過少申告加算税」・「重加算税」の3種類あります。

脱税行為を指摘された場合、本税の40%が重加算税として課される可能性もあるので注意してください。

延滞税は、期限までに納税が完了していないことに対するペナルティで、納税が遅れた日数に応じて延滞税が課されます。

相続税と贈与税で課されるペナルティの種類は同じですが、適用される加算税の種類は申告状況や脱税行為の有無によって異なります。

延滞税の額も、納税が完了するまでの日数によって変わりますので、申告誤りに気が付きましたら、調査が入る前に修正申告書を提出し、差額の本税を納めてください。

銀行に預けるのではなくタンス預金をする意味とメリット

タンス預金については、秘匿にしておきたいお金や、非常時に使えるお金を手元に用意しておきたい心理的事情が、タンスに現金を保管する方法が広まった要因の一つと考えられます。

「へそくり」は、家庭内のお金を管理している人が家計とは別で貯めている個人資産をいいますが、タンス預金はへそくりを隠す場所として用いられていました。

専業主婦の場合、自身でお金を稼ぐことが難しいことから、個人資産を確保するためにへそくりを行うようになり、その延長線上でタンス預金も増えたと推察されます。

現在では銀行にお金を預けることが一般化し、電子マネーの普及で現金を使用する機会も減少してきましたが、災害等でお金を引き出せなくなる状況や、通信障害等で電子マネーを使用できない場面に遭遇することもあります。

インターネット取引をしていない人は、預金を引き出すためにATMまたは銀行窓口に行かなければなりませんが、高齢者などATM等に毎回足を運ぶのが難しい方は、ある程度の生活費をまかなえる現金を自宅で管理しているケースも多いです。

上述したリスクがあるにもかかわらず、多くの人がタンス預金をしているのは、タンス預金自体に相応のメリットを感じているからです。

随時アクセス可能:いつでも好きな時にお金を使える?タンス預金の使い道

タンス預金は現金としてお金を管理していますので、どのようなタイミングでも、すぐにお金を用意できます。

銀行にお金を預けている場合、銀行窓口やATMでお金を引き出さないといけませんし、コンビニATMや休日で引き出す際には手数料が発生します。

銀行の利息は微々たるものですので、お金を預けていても資産はほとんど増えないばかりか、手数料分だけ損をする結果になります。

最近では電子マネーが流通するようになっていますが、使えない分野もまだまだ多く、使用額に上限が定められていることから、大金を扱うことも難しいです。

その点、タンス預金は大金を準備することもできますし、自宅でお金を管理しますので管理コストもかかりません。

銀行破綻のリスク回避:自己の資産を守る

銀行に預けているお金は、銀行が倒産しない限り無くなる心配はありません。

万が一銀行が破綻した場合でも、預金保険制度が適用されることで、預けていたお金がすぐにゼロになることはないです。

預金保険制度は、預金者等の保護や資金決済の履行の確保を図ることで信用秩序を維持することを目的とした制度で、金融機関が破綻する事態になったとしても、預金保険制度の対象の預金等は保護されます。

ただ預金等の種類によって保護される範囲が異なり、たとえば利息の付く普通預金や定期預金で保護されるのは、金融機関ごとに預金者1人当たり元本1,000万円(上限)および、破綻日までの利息等です。

普通預金で1,000万円を超える額を預けていた場合、その金融機関が破綻したしてしまうと1,000万円までしか保護されないため、銀行にお金を預けていたとしても財産を失うリスクが存在します。

それに対し、タンス預金は自身で財産を守ることができますので、社会情勢等が大きく変化した場合には、銀行に預けるよりも安全な場合があります。

相続時の処理の容易さ:口座凍結の影響を受けない

夫婦の一方の名義で預金していた場合、名義人の相続が発生するとお金を引き出すことが難しくなるため、突然相続が発生したときの対策としてタンス預金を用いるのも選択肢です。

相続が発生すると被相続人の銀行口座は凍結され、口座を相続する人が決まらない限り、原則口座内のお金を自由に出し入れすることはできなくなります。

葬儀費用は数百万円かかることも珍しくありませんし、遺産分割協議が難航すれば被相続人のお金で生活していた家族は生活費を捻出するのも大変です。

タンス預金も相続財産の一つですが、相続人が葬儀費用を捻出できないなどの緊急時においては、タンス預金で費用をまかなうことができます。

匿名性の保持:政府に資産が把握されない

タンス預金は、秘匿性の高い財産管理方法です。

税務署は、条件が揃えば銀行口座を簡単に調べることができるため、金融機関に預けている財産を隠すのは困難です。

また、個人番号(マイナンバー)が各人に付番されたことで、国や地方自治体は個人の財産を把握しやすくなっています。

行政機関が個人の資産を勝手に管理・使用することはありませんが、心情的に財産を把握されていることに不快感を覚える方は、タンス預金として財産を管理するのも選択肢です。

秘密の維持:家族に知られずに貯蓄が可能

特定の人しか存在を知らない財産を有したい場合も、タンス預金が有効です。

家族の干渉が強い家庭では、財産管理を強制されてしまうことや、お金の使い道を制限されることも考えられますが、タンス預金であれば他者に知られないで貯蓄することができます。

相続人間の金銭トラブルは長期化するだけでなく、遺産分割がまとまらない要因となりますので、お金に関するリスクを避けるためにタンス預金として財産を形成する方法もあります。

タンス預金の管理とリスク回避

タンス預金は適切に管理すれば、上述したリスクを抑えつつメリットを享受することもできます。

タンス預金をする際のポイントをご紹介します。

いくらまでタンス預金する?適切な金額の設定

緊急で現金が必要になった場合、すぐにお金が用意できないと色々な問題が発生することも考えられますが、銀行でお金を引き出す時間が無いほど緊急でお金を要する機会は限られます。

タンス預金として多額のお金を保管するのは、災害や盗難被害を受けた際の損害額が大きくなるため、必要となる金額分だけタンス預金として管理してください。

新札発行とキャッシュレス化の影響

令和6年(2024年)7月に新札が発行されましたので、現在タンス預金をしている現金はすべて旧札となります。

新札が発行された後でも旧札は使用できますが、世の中の自動販売機やATMが新札に対応すれば、将来的にそれらの機械で旧札が使用できなくなることが考えられます。

タンス預金の旧札を新札に交換するのは大変ですし、多額の紙幣を交換したことが税務署に把握されれば、タンス預金の存在も知られてしまいます。

税務署は意外な場所から情報を仕入れるだけでなく、仕入れた情報をもとに調査対象者を選定していることもあるので注意が必要です。

キャッシュレス化の影響で、新札発行は今回が最後になるとの噂もあり、将来的にタンス預金がしにくくなることも考えられます。

タンス預金として管理すべき金額は人によって違いますので、時代の流れに応じて管理する量を調整してください。

まとめ

相続税法で認められている手段で節税することに問題はなく、税務署も適切な手段による節税は否認できませんが、違法な手段で税金を回避したとみなされれば、税務調査で指摘されることになります。

タンス預金自体に節税効果はありませんし、タンス預金を相続税の申告書に記載しないのは、脱税とみなされる可能性がある大変危険な行為です。

税務署も、タンス預金が一般的に相続税逃れの手段として用いられていることは十分認識しているため、税務調査では必ずタンス預金の有無を確認します。

相続税の節税対策をしたい方は、相続税において適法と認められるやり方で、正攻法で進めるべきです。

最適な相続税対策の手段は、相続財産の種類や家族構成などによって違いますので、効果のある対策を講じたい方は、相続専門の税理士に相談していただき、アドバイスを受けるのがよいでしょう。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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