相続税申告の書き方とは?必要書類と申告手順も税理士が徹底解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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相続税は、所得税や贈与税に比べて申告書の書き方が複雑であり、作成するのに時間を要する税金です。
申告書の作成手順を間違えてしまうと、相続税額を正しく算出できませんし、申告書と一緒に提出しなければならない書類もあるなど、申告する際の注意点も多いです。
そこで本記事では、相続税の申告書の書き方と注意すべきポイントについて解説します。

相続税は誰がいつ申告するものなのか?

相続税は、相続が発生した際に課される税金であることは認識されていますが、いつ・誰が・どこに対して手続きすればいいのかは、あまり知られていません。
また相続が発生しても申告が不要なケースもある一方、相続人でなくても相続税の申告をしなければいけないケースもあります。

相続税申告書とは?

相続税申告書とは、相続税を納めるために作成する申告書です。
相続税は申告納税方式を採用しているため、申告する相続人等が自主的に申告書を作成し、税務署に対して申告・納税手続きを行わなければいけません。
相続税の申告期限は相続が発生した翌日から10か月以内と、所得税や贈与税に比べて申告期限までの猶予は比較的長いです。
しかし申告書を作成するためには、亡くなった人の全財産を把握し、財産価値の計算しなければならないため、10か月の申告期間は想像以上に短く感じます。
相続税の申告書の提出先は、亡くなった人の住んでいる場所を管轄する税務署です。
たとえば相続人がA税務署管内に住んでいたとしても、被相続人(亡くなった人)の住所がB税務署の管轄内であれば、相続税の申告書はB税務署に提出することになります。
申告書は相続人全員で1部作成するのが原則ですが、相続財産を巡って係争中などの場合、相続人ごとに申告書を作成して提出することも可能です。
ただし別々に申告書を作成・提出した場合、各申告書の計算内容が異なっていると税務調査を受ける確率が上がりますので、税務調査を回避するために相続人はできるだけ協力し、1つの申告書を作成した方がいいでしょう。

相続税の申告が必要なケース・申告すべき対象者

相続税の申告が必要になるのは、相続税の納税が生じる場合です。
相続税には基礎控除額が存在し、相続財産の総額が基礎控除額よりも少ない場合には、課税対象金額は発生しないので、原則として相続税の申告は不要です。

<相続税の基礎控除額の計算式>3,000万円+600万円×相続人の人数=相続税の基礎控除額

たとえば相続人が3人(配偶者、子2人)の場合、相続税の基礎控除額は4,800万円ですので、4,800万円を超える相続財産があるときは、相続税の申告・納税が必要になります。
また相続税は相続財産を取得した割合に応じて支払うため、全体として相続税が発生する場合でも、相続財産を一切取得していない相続人については、納める相続税はゼロです。
反対に相続人以外の方でも、遺贈などにより相続財産等を取得し、相続税の納税額が発生した場合には、申告・納税手続きが必要です。
遺言で孫へ相続財産を渡す場合や、贈与税の相続時精算課税制度を利用した際は、相続人以外の方でも相続税の申告対象者となる可能性もあるのでご注意ください。

相続税の申告に必要な書類とは?

相続税の申告する際の必要書類は、「相続税の申告書」・「財産評価の書類」・「添付書類」の3点です。

相続税の申告書の種類

相続税の申告書には第1表から第15表まで存在しますが、「第11の2表」や「第11・11の2表の付表1」などの表や付表もありますので、種類としては20以上存在します。
ただ財産の種類や適用する特例制度などによって、使用しない表・付表も多くあります。
そのため相続税の申告書を作成する際は、必要となる申告書の種類を取捨選択しなければいけません。

【主に使用する相続税の申告書の種類】

各種表番号 各表(付表)の名称
第1表 相続税の申告書
第1表(続) 相続税の申告書(続)
第2表 相続税の総額の計算書
第4表 相続税額の加算金額の計算書
第4表の2 暦年課税分の贈与税額控除額の計算書
第5表 配偶者の税額軽減額の計算書
第6表 未成年者控除額・障害者控除額の計算書
第7表 相次相続控除額の計算書
第8表 外国税額控除額・農地等納税猶予税額の計算書
第9表 生命保険金などの明細書
第10表 退職手当金などの明細書
第11表 相続税がかかる財産の明細書(相続時精算課税適用財産を除きます。)
第11・11の2表の付表1 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書
第13表 債務及び葬式費用の明細書
第14表 純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額及び特定贈与財産価額・出資持分の定めのない法人などに遺贈した財産・特定の公益法人などに寄附した相続財産・特定公益信託のために支出した相続財産の明細書
第15表 相続財産の種類別価額表
第15表(続) 相続財産の種類別価額表(続)

参考:相続税の申告書等の様式一覧(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/r03.htm

相続税の申告書は全国共通であり、国税庁のホームページまたは全国の税務署で取得することが可能です。
ただし申告書は表ごとに「令和2年4月分以降用」など、相続開始年月日によって使用できる種類が分かれております。
国税庁ホームページには「相続税の申告書等の様式一覧(令和3年分用)」といった形で、相続開始年分ごとに使用する様式が区分されているため、使用する様式の誤りには注意してください。
なお相続税はe-Taxに対応しておりませんので、申告書は税務署の窓口または郵送で提出することになります。

相続財産を評価する際に必要となる書類

相続財産は種類によって評価額の算出方法が違うため、評価する際に準備する書類も異なります。
たとえば土地の評価額を計算する場合、路線価図や評価倍率表は国税庁ホームページで確認することができますが、所有者や持分割合の確認は法務局で登記事項証明書を取得して確認することになります。
また路線価地域にある土地は、形状に応じた画地補正の計算のために公図や測量図が必要になりますし、倍率地域にある土地を評価する際は、市区町村で固定資産税評価証明書は取得しなければなりません。

【主な財産を評価する際の必要書類】

財産種類 必要書類
土地
  • 路線価図(評価倍率表)
  • 固定資産税評価証明書
  • 公図・測量図
  • 登記事項証明書
家屋(建物)
  • 固定資産税評価証明書
  • 登記事項証明書
有価証券
(上場株式)
残高証明書
(相続開始日現在のもの)
生命保険金 生命保険金支払通知書
預金・貯金 残高証明書
(相続開始日現在のもの)
債務 相続開始日現在の債務残高が確認できる書類
葬式費用 領収書等
(お布施代など、領収書がないものは申告書に支払先の名称・住所、支払日を記載)

相続税の申告書に添付する書類

相続税の申告書に添付する書類には、「法定書類」と「任意書類」があります。
法定書類は、法律で申告書への添付が義務付けられている書類をいい、「小規模宅地等の特例」など特例制度を適用する場合は、必要となる法定書類も忘れずに提出しなければいけません。
任意書類は、提出するかどうかは相続人に委ねられている書類であり、登記事項証明書や残高証明書など、相続財産を評価した際に用いた書類などが任意書類に該当します。
任意書類は提出しなくても罰則はありませんが、税務署は評価額を算出した根拠を確認できる書類がないと、税務調査により実態解明を行うこともあります。
したがって余計な調査を受けないためにも、任意書類は必要に応じて添付するのが望ましいです。

【相続税の主な法定書類】
►一般の相続税の申告書に添付する書類

  • 被相続人のすべての相続人を明らかにする戸籍の謄本
  • 遺言書の写しまたは、遺産分割協議書の写し
    (特例を適用しない場合、添付は任意)

►配偶者の税額軽減を適用する際の必要書類

  • 被相続人のすべての相続人を明らかにする戸籍の謄本
  • 遺言書の写しまたは、遺産分割協議書の写し
  • 相続人全員の印鑑証明書
    (遺産分割協議書に押印したもの)

►小規模宅地等の特例を適用する際の必要書類

  • 被相続人のすべての相続人を明らかにする戸籍の謄本
  • 遺言書の写しまたは、遺産分割協議書の写し
  • 相続人全員の印鑑証明書
    (遺産分割協議書に押印したもの)
  • 適用する制度に応じた必要書類

相続税の申告書の書き方および記載手順

相続税の申告書は、第1表から書き始めるわけではありません。
以下の手順①から手順④に従い、必要となる表・付表のみを記載して申告書を完成させます。

<一般的な相続税の申告書の記載手順>

記載手順 作成する表(付表)
手順①
  • 第9表
  • 第10表
  • 第11・11の2表の付表1
手順②
  • 第11表
  • 第13表
  • 第14表
  • 第15表
手順③
  • 第1表
  • 第2表
手順④
  • 第4表
  • 第4表の2
  • 第5表
  • 第6表
  • 第7表
  • 第8表
  • 第1表

手順①:控除・特例制度の記載

相続税の申告書は、最初に生命保険金控除・死亡退職金控除、小規模宅地等の特例の計算内容について記載します。
相続税の課税対象となるのは、これらの控除・特例を適用した後の金額となりますので、先に計算しないと相続税額を正しく算出できません。
なお該当する控除や特例制度がない場合、記載は不要です。

手順②:課税財産等の記載

第11表では課税対象財産、第13表では債務葬式費用について記載し、相続開始直前に相続人等が贈与を受けた場合、第12表の記載も必要になります。
第15表は、各相続人が取得した財産を種類別に記載することになりますが、相続財産を取得した人が複数いる場合、2人目以降が取得した財産については第15表(続)に記載してください。

手順③:課税価格・税額計算の記載

手順②で作成した内容を基に、第1表の「課税価格の計算」へ転記し、第2表において相続税の税額計算を行います。
第1表には、転記すべき表がカッコ書きで表示されていますので、転記元の表を先に作成してください。
(記載する事項がない欄は、空欄で問題ありません。)

手順④:税額控除・相続税額の記載

第4表から第8表までは税額控除に関係する表であり、該当する控除がある場合のみ記載します。
税額控除の記載が完了しましたら、第1表の「各人の納付・還付税額の計算」に転記し、各人の相続税額および相続税の総額を算出します。

税務署へ申告相談をする際の注意点

税務署では相続税の申告相談を無料で行っており、特例制度の要件や添付書類を確認することはできますが、所得税や贈与税の確定申告のように、申告書の作成を補助してくれることは基本的にありません。
また特例制度の適用は任意であることから、税務署に相談しても節税のアドバイスはしてくれませんので、相続税の節税対策や申告書の作成は相続税専門の税理士へ依頼してください。

相続税の申告をしないとどうなる?

相続税の申告義務がある相続人等が申告書を提出・納税を指定ない場合、本税に加えて「加算税」と「延滞税」を納めることになります。

加算税は申告しなかったことに対する罰則

加算税とは、申告期限までに申告をしなかったことに対するペナルティです。
加算税には「無申告加算税」・「過少申告加算税」・「重加算税」の3種類あり、申告内容によって課される種類が異なります。
無申告加算税は、申告期限を過ぎてから申告書を提出した際に課される税金です。
税務調査を受けた場合、本税の15%(20%)を支払うことになります。
過少申告加算税は、本来申告すべき金額よりも少なく申告していた場合に課される税金で、申告漏れとなっていた本税の10%(15%)を支払うことになります。
重加算税は、意図的に申告内容を誤魔化したり財産を隠した場合、本税の35%(40%)を支払うことになる税金で、加算税の中で最も重い罰則です。

延滞税は納税が遅れたことに対する罰則

延滞税とは、申告期限までに相続税を納めなかった場合に課される税金です。
申告期限までに相続税の申告書を提出しても、相続税を支払っていなければ、納税が完了するまでの期間に対し延滞税が発生します。
延滞税は納付期限の翌日から納付した日までの日数に応じて税率が行われるため、納付が遅くなるほど支払う延滞税は多くなります。
また 相続税の滞納期間が2か月を超えた場合、延滞税の利率が高くなりますのでご注意ください。

まとめ

相続税は所得税や法人税などと違い、毎年申告する税金ではありませんので、多くの相続人は相続税の申告書をはじめて作成することになります。
相続税の申告書を作成する難易度は、被相続人が保有している財産の種類や相続人の人数、特例制度の適用の有無によって大きく異なります。
相続財産の種類が多ければ、申告書を作成する際に必要となる時間も書類も増えますし、特例制度を受ける際は適用要件の確認はもちろんのこと、法定書類を申告書と一緒に提出しなければいけません。
申告期限を過ぎてしまうと、加算税・延滞税といった罰金を支払うことになりますので、相続が発生しましたら税理士へご相談していただき、申告の有無や節税方法をご確認ください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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