死亡退職金は相続税の課税対象?受取人や非課税枠など税理士が解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】

死亡退職金とは?

死亡退職金について

死亡退職金とは、公務員や民間企業で働く方が死亡した際、勤務先から遺族に支給される退職金のことをいいます。
死亡退職金を支給するかどうかは、公務員の場合、国家公務員退職手当法や地方の条例によって、支給基準が定められています。
これに対して民間企業の場合は、支給するかどうかは自由であり、その支給基準を定めるかどうかも基本的には任意となります。
死亡退職金には、死亡によって退職した際のものと、退職後に死亡した際のものがあります。

死亡によって退職した際の死亡退職金

死亡退職金といえば、一般的には、在職中に死亡した方の遺族に支給される退職金のことを意味します。
つまり、死亡と退職が同時期である退職金のことです。

退職後に死亡した際の死亡退職金

退職後に死亡した方の退職金が、遺族に支給されるケースもあります。
たとえば、退職後すぐに亡くなられてしまったケースや、何らかの事情で、退職金を支給するかどうかの決定に時間がかかってしまったケースなどが考えられます。
こうした退職金のことも「死亡退職金」と呼ぶのは、一般的には馴染みのないことだと思います。
しかし、遺族側に関係する相続の税務においては、こうした退職金のことも死亡退職金と呼ぶことが一般的です。
相続の税務では、死亡後に支給金額が確定した退職金を相続財産とみなし、相続税の課税対象とするルールがあります。
このルールに該当する退職金のことを「死亡退職金」と呼んでおり、これには、一般的な死亡退職金だけでなく、退職後に死亡した方の退職金も該当することがあるのです。
相続の税務上の死亡退職金についての詳しい説明は、後述します。

死亡退職金の受取人は誰になる?

死亡によって退職した場合の受取人

死亡退職による退職金、つまり一般的な死亡退職金の受取人が誰になるかは、勤め先が「退職給付規程」などにおいて、あらかじめ受取人を定めているかどうかで分けて考える必要があります。

死亡退職金の受取人が指定されている場合

勤め先の退職給付規程などの中で、死亡退職金の受取人が指定されている場合、死亡退職金は、指定された受取人に支給されます。
受取人の順位をどう決めるかは勤め先の自由ですが、労働基準法や労災保険法の遺族補償の受給資格者の順位に準じて、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順で指定しているケースが多いようです。

死亡退職金の受取人が指定されていない場合

死亡退職金の受取人が指定されていない場合、死亡退職金は、亡くなった方のご遺族の相続財産となります。
勤め先が相続人を正確に把握できるわけではありませんので、遺族側と連絡を取り合い、相続人に支給されることになると考えられます。

受け取った死亡退職金の取扱いの違い

指定された受取人として死亡退職金を受け取った場合と、相続人として死亡退職金を受け取った場合とでは、相続財産としての取扱いが異なります。
まず、指定された受取人の場合、その死亡退職金は、受取人の固有の財産となります。
つまり、受取人個人の財産として扱われますので、他の相続人と遺産分割をする必要はありませんし、相続放棄をした相続人でも受け取ることができます。
これに対し、相続人に支払われた死亡退職金は、他の相続人との遺産分割の対象になり、相続放棄をすると受け取る権利がなくなります。

退職後に死亡した場合の受取人

生前に退職し、退職金が支給される前に死亡した場合、退職者は「未払いの退職金を請求する権利」という財産を保有したまま亡くなったことになります。
この権利は、相続財産として、退職者の相続人や遺言書で指定された受遺者の方が取得します。
勤め先は、相続人や受遺者からの請求に応じて、未払いの退職金を支払うことになります。

関連記事:相続税とは?基礎控除や計算方法・税率(早見表付き)を不動産税理士が解説

死亡退職金に相続税はかかる?

死亡退職金は「みなし相続財産」に

相続財産とは、被相続人(亡くなった人)が死亡時に保有していた財産や債務のことです。
たとえば、生前に退職金を受け取った人が、その退職金を使い切る前に亡くなられた場合、その退職金は被相続人の「本来の相続財産」として、他の財産とともに相続人などが取得し、相続税を納めます。
それでは、死亡後、遺族に支給される死亡退職金はどうでしょうか。
死亡退職金のうち、被相続人の死亡後に支給が確定したものは、被相続人が死亡時に保有していた財産とはいえません。
つまり、 死亡後に支給が確定した死亡退職金は、「本来の相続財産」に含まれないのです。
しかし、時期のズレによって、同じ退職金が、相続税のかかるものとかからないものに分かれてしまうことは不公平といえます。
そのため、 相続の税務では、「死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金」を「みなし相続財産」として、相続税の課税対象にすることとしています。

死亡退職金の課税範囲

みなし相続財産に該当する死亡退職金の課税範囲は、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものに限られます。
支給の確定時期が判定基準となるため、死亡退職だけでなく、生前に退職していても、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定している退職金であれば、みなし相続財産としての死亡退職金に該当します。
みなし相続財産にあたる死亡退職金を中心に、支給が確定した時期に分けて整理すると、退職金・死亡退職金にかかる税金は、下記のようになります。

退職金の支給確定時期 退職金にかかる税金
死亡前(生前) 被相続人の所得税(退職所得)
※相続発生時、遺族の相続税(本来の相続財産)
死亡後3年以内) 遺族の相続税(みなし相続財産)
死亡から3年経過後 遺族の所得税(一時所得)

支給の確定時期が死亡から3年を経過している場合、遺族の所得税(一時所得)になります。
一時所得は、特別控除(最大50万円)を差し引いた後、2分の1を乗じた額が、総合課税の所得として課税の対象になります。
ただし、このケースはあまりないと考えられますので、「死亡退職金は基本的には相続税の対象になる」と考えて良いでしょう。

「死亡後3年以内に支給が確定したもの」とは

「死亡後3年以内に支給が確定したもの」について、国税庁は、「被相続人に支給されるべきであった退職手当金等の額が被相続人の死亡後3年以内に確定したもの」としています。
支給されることは確定していても「金額」が確定していなければ、支給が確定したことにならない点に注意が必要です。

死亡退職金の受取人

死亡退職金の受取人については前述のとおりですが、みなし相続財産に該当する死亡退職金の場合、次の人が、相続や遺贈によって死亡退職金を取得した受取人として扱われます。
►退職給付規程などで受取人が具体的に定められている場合
その受取人

►退職給付規程などで受取人が具体的に定められていない場合または被相続人がその退職給付規程などの適用を受けない者である場合
相続税申告書の提出時までに死亡退職金を実際に取得した人がいれば、その人
遺産分割協議によって死亡退職金の受取人を定めた場合は、その受取人
ア・イ以外 相続人全員

死亡退職金に課される相続税の計算方法

死亡退職金には、どのように相続税が計算されるのでしょうか。
死亡退職金の課税価格(相続税の課税対象になる金額のこと)を、仮に500万円として、相続税の計算過程を見てみましょう。
【例】
・法定相続人:被相続人の長男・長女・二女の計3人
・相続税の課税価格:1億5,000万円

(内訳)
 不動産 1億円
 現金預金 2,500万円
 有価証券 2,000万円
 死亡退職金 500万円

【計算式】
・1億5,000万円-4,800万円(基礎控除額)=1億200万円
・1億200万円×3分の1(各人の法定相続分)=3,400万円
・3,400万円×20%-200万円(※)=480万円
相続税の総額:1,440万円
この1,440万円を実際に取得した財産額に応じて相続人や受遺者が負担します。
納税額は、各人の2割加算や控除の適用後に決まります。
(※)国税庁HP:相続税の税率
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm

死亡退職金の非課税枠とは?

みなし相続財産にあたる死亡退職金には、相続人が取得した場合に限り、一定の非課税枠があります。
非課税枠を適用できる場合、下記の金額が相続税の課税価格に算入されます。

みなし相続財産にあたる死亡退職金の課税価格の計算式

【計算式】A-B×A/C

A:その相続人が受け取った死亡退職金の金額
B:非課税限度額
C:すべての相続人が受け取った金の合計額

【非課税限度額】500万円×法定相続人の数

死亡退職金の非課税枠の注意点

相続人が取得したときしか使えない

死亡退職金の非課税枠は、「相続人」が相続や遺贈によって死亡退職金を受け取った場合にしか使えません。
「相続人」とは民法上の相続人のことです。
相続を放棄した人や相続権を失った人は含まれません。

法定相続人の数え方

相続の税務上の「法定相続人」は、戸籍どおりの相続人の数になります。
相続放棄をした人がいても、人数は変わりません。
ただし、養子がいる場合、被相続人に実子がいるときは1人まで、実子がいないときは2人までしか、法定相続人の数に含めることはできません。

本来の相続財産には使えない

みなし相続財産である死亡退職金に該当しない退職金には、非課税限度額の適用はありません。

死亡退職金の非課税枠・課税価格の計算例

【非課税枠の計算例】
・法定相続人:被相続人の長男・長女・二女の計3人
→非課税限度額:500万円×3人=1,500万円

【課税価格の計算例】
・法定相続人:被相続人の長男・長女・二女の計3人
・死亡退職金2,000万円

例1:長男が2,000万円を取得した場合
►相続税の課税価格に算入される死亡退職金の金額は、500万円(2,000万円-1,500万円)になります。

例2:長男が1,000万円、相続放棄をした長女が1,000万円を取得した場合
►相続税の課税価格に算入される死亡退職金の金額は、1,250万円(長男250万円+長女1,000万円)になります。

長男:250万円(1,000万円-1,500万円×1,000万円/2,000万円)
長女:1,000万円(非課税枠なし)

関連記事:相続財産とは?相続税がかかる財産とかからない財産を税理士が解説

死亡退職金の支給時期とは?

死亡退職金の支給時期とは、遺族に死亡退職金が支払われる時期をいいます。
みなし相続財産である死亡退職金に該当するかどうかの判定は、前述のとおり、支給が確定した時期で判定しますので、支給時期は関係ありません。
死亡後3年以内に支給が確定していれば、実際の支給時期が3年を過ぎてしまっていても、みなし相続財産に該当します。

死亡退職金の支給に期限はある?

労働基準法第23条第1項では、「使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。」と定められています。
死亡退職金の請求を遺族がすれば、その勤め先は、原則的には、7日以内に支給しなければなりません。
ただし、勤め先の就業規則に退職金の支給期限を定めている場合は、そちらの期限で支給すればよいため、すべての勤め先が必ずしも7日以内に死亡退職金を支払うわけではありません。

関連記事:相続をするなら不動産と現金のどちらがお得?メリット・デメリットや注意点を解説

弔慰金の相続税の取り扱い

弔慰金とは、亡くなられた方への弔いと遺族への慰めの意味で支払われる金銭のことです。
弔慰金や花輪代、葬祭料などを、親族や知人などから受け取ることがありますが、こうした金銭は、通常は贈与税や相続税の対象になりません。
しかし、死亡による退職の場合、死亡時の勤め先から受け取る弔慰金は、実質的に死亡退職金、つまり生前の勤労の対価である可能性があります。
受け取った弔慰金に含まれる死亡退職金も、相続税の課税対象になります。

弔慰金と死亡退職金の判定基準

弔慰金のうち、死亡退職金と判定されるのは、以下の金額部分になります。

A:弔慰金のうち、実質上、死亡退職金に該当すると認められる部分

B:A以外の部分のうち、次に掲げる金額を超える部分

・被相続人の死亡が業務上の死亡であるとき
被相続人の死亡当時の普通給与(※)の3年分に相当する額

・被相続人の死亡が業務上の死亡でないとき
被相続人の死亡当時の普通給与(※)の半年分に相当する額

A:実質上、退職金に該当すると認められる部分とは

勤め先に退職給付規程などがある場合は、その規程の内容から金額を判定し、規程がない場合は、被相続人の地位、功労等を考慮し、類似する事業との相場を勘案して判定することとされています。
弔慰金として課税されない範囲を示す有名な判定基準は次のBですが、たとえば、勤め先の規程で弔慰金の支給額に明確な定めがある場合などは、Aの判定基準に注意する必要があるといえるでしょう。

B:被相続人の死亡当時の普通給与とは

Aに該当する部分がなければ、Bの普通給与による判定を行います。
普通給与とは、俸給、給料、賃金、各種手当の合計額です。
つまり、賞与を含まない給与の額になります。
なお、非常勤役員であるなど、賞与のみの支給を受けていた場合は、直近に受けた賞与の額または類似する事業で同等の地位にある役員の普通給与などから、被相続人が「普通給与+賞与」の形態で給与を受けていたと仮定した場合の普通給与の額を基準にします。

死亡退職金の非課税枠の適用について

死亡後3年以内に支給が確定したものは、みなし相続財産にあたる死亡退職金の扱いとなり、相続人が取得したものは「500万円×法定相続人の数」の非課税の適用を受けることができます。
つまり、Bの判定基準に持ち込める部分については、Bの弔慰金部分と合わせて非課税で死亡退職金を受け取れることになります。

死亡退職金と生命保険について

勤め先は、役員や従業員が死亡した場合、その遺族に保険金が支払われる生命保険に加入している場合があります。
この生命保険金については、①みなし相続財産である死亡退職金にあたるケースと、②みなし相続財産である生命保険金にあたるケースがあります。

①死亡退職金に該当するケース

勤め先が退職給付規程などで、遺族に支給される生命保険金を退職金の代わりとして支給すると定めている場合は、みなし相続財産である死亡退職金となります。

②生命保険金に該当するケース

勤め先が生命保険金を退職金の代わりにすると定めていなければ、この生命保険金は、みなし相続財産である生命保険金になります。
通常、生命保険金がみなし相続財産に該当するかどうかは、被相続人自身が保険料を負担していることが判断のポイントになりますが、上記のような生命保険金について、勤め先が負担する保険料は、被相続人が負担していたものとして扱われます。

非課税枠の適用について

みなし相続財産である死亡退職金と生命保険金には、それぞれに「500万円×法定相続人の数」の非課税の適用があります。
生命保険金についても、相続人が取得しなければ適用できない点は同じです。
非課税枠の計算式が同じであることから、たとえ①と②の区別を誤ったとしても、相続税の金額が変わらないこともあります。
しかし、勤め先からの保険金以外にも、みなし相続財産に該当する生命保険金(例:被相続人が個人で加入している生命保険から支払われるものなど)がある場合、生命保険金の分の「500万円×法定相続人の数」を超えてしまう可能性があります。
したがって、死亡退職金と判定できるものはきちんと判定しましょう。

まとめ

死亡退職金について、受取人や相続税の課税対象になる場合、非課税枠が使える場合などについて解説しました。
ここまでお読みいただいたとおり、死亡退職金に関する税務は、退職金の支払者である勤め先の内部規程からの判断を必要とする場面がたくさんあります。
税理士に依頼すれば、勤め先に対する依頼や判断を、すべて任せることができます。

相続税の申告について気になる方は、「不動産専門の相続税申告サービスを税理士がご紹介いたします」をご一読いただけますと幸いです。

関連記事:相続の相談をすべき専門家は誰?税理士・弁護士・司法書士から選ぶ方法とは?

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

税理士紹介はこちら

  • ページタイトルと
    URLがコピーされました