相次相続控除とは?要件や計算方法など不動産税理士がわかりやすく解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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短期間で立て続けに相続が発生した場合、相続税対策を講じる時間はありませんし、納税資金を確保するのも一苦労です。
しかし1度目の相続において相続税を支払っているときは、2度目の相続税の納税額を軽減する「相次相続控除」を適用することができます。
本記事では、相次相続控除の要件および計算方法と、適用する際に必要な手続きについてわかりやすく解説いたします。

相次相続控除とは?

「相次相続」(そうじそうぞく)とは、相次いで相続が発生することをいい、一般的に1度目の相続を「一次相続」、二度目の相続を「二次相続」と呼びます。

「相次相続控除」とは、二次相続が発生する前10年以内に、二次相続の被相続人(亡くなった人)が相続税を支払っていた場合、被相続人から相続等によって財産を取得した人の相続税額から一定金額を差し引く制度です。
たとえば夫婦と子2人の家族において、一次相続で父、二次相続で母が亡くなった際、母が一次相続で相続税を支払っているときは、二次相続で相続財産を取得する子2人の相続税額を減額することができます。
短期間に相次いで相続税の申告手続きを行うことになった場合、二次相続の課税対象となる財産は一次相続の時点ですでに相続税が課されていることが多いです。

参考:相次相続控除が創設された背景としては、被相続人が一次相続で相続税を納税している状態で二次相続においても課税してしまうと、相続人への税負担が過重となってしまうため、相次相続控除の適用により相続人の税負担を軽減する目的があります。

相次相続控除の仕組みと要件

相次相続控除には3つの適用要件があり、すべて満たした相続人のみが制度を利用することができます。

要件①:被相続人の相続人であること

相次相続控除を適用できるのは、相続人に限られます。
相続財産を取得する権利は相続人にしかありませんが、遺言書を作成するなどして、相続人以外の人に相続財産を渡す(遺贈)することも可能です。
遺言などにより相続人以外の人が相続財産を取得した場合も相続税の課税対象となりますが、相続人以外の人が相次相続控除を適用することはできません。

また元々相続人であった人でも、相続の放棄をした人や、相続権を失った人が遺贈により財産を取得した場合については、相次相続控除の適用対象外となります。
なお、この場合の「相続放棄」とは、家庭裁判所で法的に相続する権利を放棄したことをいいます。
遺産分割協議で何も財産を取得しなかった相続人については、相次相続控除の適用対象外となる相続放棄をしたことになりません。

要件②:一次相続が発生してから10年以内に二次相続が発生

相次相続控除は、相続が相次いで発生した場合に適用できる控除ですが、対象となるのは二次相続の開始前10年以内に開始した一次相続において、被相続人が財産を取得している場合に限られます。
一次相続で相続税を支払っていたとしても、二次相続までの期間が10年を超えるときは、相次相続控除を適用することはできません。

要件③:一次相続で被相続人が相続税を支払っている

相次相続控除として差し引くことができる金額は、二次相続の被相続人が一次相続において相続税を支払っている場合です。
二次相続が発生したのが一次相続から10年以内であったとしても、一次相続で相続税を支払っていなければ相次相続控除は受けられません。
一次相続で父(母)、二次相続で母(父)が亡くなった場合、二次相続の被相続人である母(父)は、配偶者の税額軽減の制度を適用している可能性が高いです。
配偶者の税額軽減は一定金額まで相続税額を非課税にする制度なので、一次相続の際に相続税の申告手続きを行っていたとしても、被相続人が相続税を納めていないことも考えられますのでご注意ください。

相次相続控除の算出方法および計算例

相次相続控除は、一次相続で被相続人が納めた相続税が多いほど控除額が多くなります。
しかし控除額は一次相続から1年経過するごとに10%減少し、10年を経過してしまうと適用できる控除額が無くなります。

相次相続控除額の計算

相次相続控除の算出方法は、次の通りです。
納付すべき相続税額から相次相続控除の税額控除を差し引き、控除しきれない金額が発生した場合、納付すべき相続税額はゼロとなります。

<相次相続控除額の計算式>A×C÷(B−A)=A´【※】
A´×D÷C×(10−E)÷10=各相続人の相次相続控除額
  • A:二次相続の被相続人が一次相続の際に課せられた相続税額
  • B:二次相続の被相続人が一次相続の際に取得した純資産価額
  • C:二次相続において、相続または遺贈、相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得したすべての人の純資産価額の合計額
  • D:二次相続のその相続人の純資産価額
  • E:一次相続から二次相続までの期間
     (1年未満の期間は切り捨て)
  • A´:求めた割合が100/100を超える場合、100/100として計算

►「二次相続の被相続人が一次相続の際に課された相続税額」は、相続時精算課税分の贈与税額控除後の金額をいいます。
被相続人が納税猶予の適用を受けていた場合の免除された相続税額や延滞税、利子税および加算税の額は、相次相続控除額の計算する際に含まれません。

相次相続控除の計算例

一次相続で祖父、二次相続で父が亡くなった際、子が父の相続において相続財産を取得した場合の相次相続控除の計算例です。

【設問】
・一次相続で父が純資産価額1億5,000万円を相続し、相続税額1,000万円を納税
・二次相続の相続税の純資産価額は1億8,000万円
・二次相続で子が相続する純資産価額は9,000万円、相続税額は950万円
・一次相続から二次相続までの経過年数は4年11か月

<相次相続控除の計算>
1,000万円×1億8,000万円÷(1億5,000万円−1,000万円)=1,285万7,143円
1,000万円<1,285万7,143円
⇒求めた割合が100/100を超えるため、1,000万円で計算。

1,000万円×9,000万円÷1億8,000万円×(10年−4年(※))÷10=300万円(相次相続控除額)
※相続経過年数は4年11か月ですが、1年未満は切り捨てます。

相次相続控除の申告手続きと添付書類

相次相続控除は、確定申告書に適用する旨を記載してはじめて適用される控除です。
適用要件をすべて満たしていても、確定申告書に相次相続控除について記載していなければ、控除したことにはなりません。

相続税の申告手続き

相続税の申告は、相続が発生した翌日から10か月以内です。
申告書は第1表から第15表まであり、相続財産の種類や適用する制度等によって使用する様式は異なり、相次相続控除で用いる申告書は第7表(相次相続控除額の計算書)です。
また相次相続控除額は、各相続人が取得した財産の割合に応じて振り分けられますので、計算誤りに注意してください。

添付書類

相次相続控除を適用する際に必要となる書類は、通常の相続税の申告で必要になる書類に加えて、一次相続の際に提出した申告書の控えを添付することになります。

【相次相続控除を適用する際の必要書類】
〇一次相続で提出した申告書の控え

  • 相続税の申告書第1表(相続税の申告書)
  • 相続税の申告書第11表(相続税がかかる財産の明細書)
  • 相続税の申告書第11の2表(相続時精算課税適用財産の明細書)【※】
  • 相続税の申告書第14表(純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額の明細書)【※】
  • 相続税の申告書第15表(相続財産の種類別価額表)
  • ※一次相続の際に提出していた場合に限り、添付することになります。

相続人の手元に一次相続の際に提出した相続税の申告書が無いときや、一次相続で二次相続の被相続人が納めた相続税額が不明の場合、税務署へ「申告書等閲覧サービス」の申請をすることで提出した相続税の申告書を確認する方法もあります。
申告書等閲覧サービスは、税務署が保管している提出した申告書を閲覧できる手続きで、納税者等および代理人が申請することが可能です。
ただ申告書等閲覧サービスの手続き方法は複雑であり、申請する際に必要となる書類も多いです。
また申請した当日に相続税の申告書を確認できるケースはほとんどありませんので、相続税の申告書の控えが無い場合には、早めに申請手続きを行ってください。

相次相続控除を適用する際の注意点

相次相続控除は珍しい制度ですので、適用する際にいくつか注意点があります。

相次相続控除の適用の有無は任意

相次相続控除の適用は、相続人の任意です。
控除を受けられる場合でも、相続税の申告書に適用する旨を記載しなければ、適用したことにはなりません。
また一次相続の被相続人が祖父(祖母)、二次相続の被相続人が父(母)の場合、二次相続の相続人である子は、一次相続に携わっていない可能性が高いです。
父(母)が一次相続で相続税を支払っていたか不明な場合、控除できる相次相続控除額を算出できませんので、適用の有無に関わらず、一次相続で相続税の申告をしていたか確認してください。

被相続人が一次相続で相続税を納めていないと適用できない

相次相続控除は、前回の相続において被相続人が納めた相続税がある場合に適用できる制度であり、二次相続の相続人が一次相続で相続税を納めていたかは関係ありません。
また二次相続で被相続人(母)が、一次相続で配偶者の税額軽減を適用したことで相続税の納税額が発生しなかった場合、二次相続で相次相続控除は受けられませんのでご注意ください。

財産取得者が兄弟姉妹でも適用できる場合がある

相次相続控除は相続により財産を取得した人を対象としているため、被相続人の兄弟姉妹が相続人の場合には相次相続控除を適用できます。
被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になるケースとしては、一次相続で母(父はすでに他界)が亡くなった後、被相続人(子がいない)の相続が発生した場合などがあります。

未分割でも相次相続控除は適用可能

小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などの制度は、遺産分割協議が完了していなければ適用することはできませんが、相次相続控除は未分割状態でも受けられます。
また当初申告において相次相続控除を適用しなかった場合でも、申告期限から5年以内であれば更正の請求により、相次相続控除を適用することが可能です。

譲渡所得の取得費加算の特例を適用する場合

相続税の申告期限から3年以内に相続した株式や不動産を売却した場合、取得する際に支払った相続税を譲渡所得の取得費に加算できる特例制度があります。
取得費加算の特例は、相続税を支払った場合にのみ適用できる制度です。
相続税が発生しないときは適用できませんし、相次相続控除を受けて相続税の納税額がゼロになる場合も、取得費加算の特例の適用はありません。
また取得費加算の特例を適用する際、相続税で相次相続控除を受けていた場合には、「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」および、付表(贈与税額控除又は相次相続控除を受けている場合の相続税額)の記載が必要になります。

相次相続控除以外の相続税の税額控除

相続税の税額控除は、相次相続控除含め6種類あります。
税額控除は、算出された相続税額から直接差し引くことができる控除であり、いずれの税額控除も適用するかは任意です。

【相続税の税額控除の種類】

  • 配偶者の税額軽減
  • 未成年者控除
  • 障害者控除
  • 外国税額控除
  • 贈与税額控除
  • 相次相続控除

「配偶者の税額軽減」は、配偶者が相続財産を取得した場合に適用できる控除です。
配偶者の取得財産が1億6千万円以下であれば、全額相続税を控除できますし、1億6千万円を超える場合でも、法定相続分に応じた取得金額に対する相続税額は控除できます。

「未成年者控除」は、相続人が未成年者だった場合に適用できる控除です。
相続開始時点の年齢から、成人に達するまでの年数に応じて税額控除を適用できます。

「障害者控除」は、相続人が85歳未満の障害者であった場合に適用できる控除です。
相続開始時点の年齢から85歳に達するまでの年数に応じて税額控除を適用することが可能で、特別障害者控除の対象となる相続人については、控除額が増額されます。

「外国税額控除」は、海外で日本の相続税のような税金を支払っている場合に適用できる控除です。

「贈与税額控除」は、相続税の課税価格に加算した贈与財産に係る贈与税の税額を相続税から差し引くことができる控除です。
控除額は贈与税を納めた相続人の相続税額が上限なので、相続税額以上に贈与税を納めていたとしても、還付されることはありません。

まとめ

相次相続控除は、前回の相続税の申告で納税している場合に受けられますが、適用するかは任意となっているため、適用漏れが多い制度となっています。
一次相続から二次相続までの期間に応じて相次相続控除額は変わりますし、控除額を算出するためには一次相続で提出した相続税の申告書の控えが必須です。
手元に一次相続で提出した相続税の申告書が無い方は、「申告書等閲覧サービス」を利用して、税務署に提出した相続税の申告書を確認する方法もあります。
相続税には相次相続控除以外にも節税手段がありますので、相続税の納税額を少しでも抑えたい場合には、相続税専門の税理士事務所へご相談ください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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