特定同族会社事業用宅地等を不動産税理士が徹底解説【小規模宅地等の特例】

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】
相続した土地の評価額を大幅に減額することができる特例のひとつに、「小規模宅地等の特例」があります。被相続人(亡くなった方)が住んでいた家の土地などの評価時にこの特例を用いると相続税の評価額を大幅に減らすことができるのは広く知られていますが、実はこの特例は、こういった居住用の土地だけでなく、事業用にも用いることができます。

この、事業用に用いる小規模宅地等の特例が、本日解説する「特定同族会社事業用宅地等の特例」です。

この制度を活用すると、被相続人がその土地を自分が経営する会社などに貸していた場合、相続税の評価額を大幅に下げることができます。

そこで本記事では、特定同族会社事業用宅地等とはどのような特例なのか、またこの特例を使うための要件にはどのようなものがあるのかを明確にした上で、多くの方が疑問に思われる点などをQ&A方式で解説していきます。

特定同族会社事業用宅地等とは?

特定同族会社事業用宅地等とは、上述のように小規模宅地等の特例のひとつで、被相続人(もしくは親族など)の事業の用に供されていた宅地のうち、一定の要件を満たすものに関しては、一定の面積まで評価額を減額することができる制度のことをいいます。

特定同族会社とは?

特定同族会社とは、被相続人やその親族、被相続人と特別な関係(内縁関係者など)のある人などが発行済株式の50%超を有している会社のことをいいます。

ちなみに50%超かどうかの判定は相続開始時の直前で判断するため、亡くなって相続税の申告を行うまでの間に株式を売却するなどして持株比率が50%以下になったとしても、この特例を使うことができます。

なお、「法人税」における特定同族会社の特別税率の判定で用いられる資本金額の多寡は、今回説明している「相続税」における特定同族会社とはまったく関係ありません。したがって、特定同族会社事業用宅地等の特例を用いるケースでは、特定同族会社の資本金額が問われることはありません

事業用とは?

事業用とは、「相続開始の直前に被相続人等が行っていた事業の用」のことで、それに供されていた宅地等を事業用宅地等といいます。ただし、この「事業」には、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業などは含まれません。

特定同族会社事業用宅地等の要件

特定同族会社事業用宅地等の特例を用いるためには、以下の3つの要件を満たさなければなりません。

  • 土地の要件
  • 相続人の要件
  • 手続きの要件

では、それぞれについて、詳しく見てみましょう。

土地の要件

特定同族会社事業用宅地等の特例を使うためには、その対象となる宅地等の上に、建物(および附属設備)、構築物などの減価償却資産が存在しなければなりません。

したがって、土地の上に会社の事務所や工場などが立てられている場合は良いですが、単に資材置き場として用いられている場合やアスファルトなどを敷かずに青空駐車場として利用している場合などはこの特例の対象とすることはできません。

相続人の要件

特定同族会社事業用宅地等の特例を使うためには、土地を相続した相続人が特定同族会社の役員(取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事など。ただし清算人を除く)でなければなりません。

ただし、株主である必要はないため、持株比率などの条件はありません。

手続きの要件

特定同族会社事業用宅地等の特例を使うためには、被相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告書を提出しなければなりません。

特例を使った結果相続税額が0円になった場合であっても、この特例を使うためには申告書の提出が求められるため、注意しておきましょう。

なお、万が一申告期限内に申告書が提出されていない場合は、この特例を使った申告を期限後に行うことはできません。特例を使えば相続税額が0円になるけれど、特例を使わなければ納税額が発生するような場合は、申告書を期限内に提出しなかった結果本来払う必要のない相続税を払わなければならない事態が生じてしまうため、十分に気を付けなければなりません。

関連記事:不動産相続の手続きの流れとは?かかる費用や必要書類・相続税について解説

特定同族会社事業用宅地等の減額割合

では次に、特定同族会社事業用宅地の特例を使った場合、どれくらいの広さの土地がどれだけ減額されるのかを見てみましょう。下図をご覧ください。

相続開始の直前における宅地等の利用区分 要件 限度面積(㎡) 減額される割合
被相続人等の事業の用に供されていた宅地等 貸付事業以外の事業用の宅地等 特定事業用宅地等に該当する宅地等 400 80%
貸付事業用の宅地等 一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業(貸付事業を除きます。)用の宅地等 特定同族会社事業用宅地等に該当する宅地等 400 80%
貸付事業用宅地等に該当する宅地等 200 50%
一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用の宅地等 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 200 50%
被相続人等の貸付事業用の宅地等 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 200 50%

引用元:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm

被相続人が土地を貸し付けていた法人が貸付事業以外の事業を行っていた場合は、400㎡を上限に80%が減額されます。したがって、300㎡の土地(評価額3,000万円)を法人の工場用地として貸し付けていた場合は、この特例を使った土地の評価額は以下のようになります。

300㎡の相続税評価額=評価額3,000万円-(評価額3,000万円×減額割合80%)=600万円

また、当該法人が貸付事業を行っていた場合は特定同族会社事業用宅地等の特例は適用できませんが、貸付事業用宅地等の特例の対象となるため、上記の表のように200㎡までは50%が減額されます。

したがって、仮に駐車場経営を行う法人に300㎡(評価額3,000万円)を貸し付けていた場合は、貸付事業用宅地等として土地の評価額は以下のようになります。

  • 限度面積分・・・3,000万円×200㎡÷300㎡×50%=1,000万円
  • 超過面積分・・・3,000万円×100㎡÷300㎡=1,000万円
  • 合計評価額・・・限度面積分+超過面積分=1,000万円+1,000万円=2,000万円

特定同族会社事業用宅地等の申告に必要な添付書類

次に、特定同族会社事業用宅地等の特例を受けるために、申告の際に必要な添付書類について解説します。

この特例を受けるために必要な添付書類は、以下の6つです。

  • 特定同族会社の定款の写し
  • 特定同族会社の株主名簿
  • 遺言書写しもしくは遺産分割協議書の写し
  • 相続人全員の印鑑証明書(遺言書の場合は不要)
  • 相続人が誰なのかを特定するための戸籍謄本(相続開始から10日経った日以後に発行されたもの)
  • 被相続人及び被相続人の親族等が特定同族会社の発行済株式等を50%超所有していたことを証明する書類

これら以外にも、申告書の提出時には、相続人のマイナンバーが確認できる書類(マイナンバーカードの写しなど)や身元確認書類(運転免許証の写しなど)が必要となります。

特定同族会社事業用宅地等に関わるよくある質問(Q&A)

最後に、特定同族会社事業用宅地等に関して多くの方が疑問に思われる点を、Q&A方式で解説していきます。

貸していた土地が社宅として使われていたケース

Q 被相続人が貸していた土地が、自身が経営していた会社の社宅として使われていた場合は特定同族会社事業用宅地等の特例を受けることはできますか?

A できます。

社宅の土地として利用されていた場合も事業の用に供されているとみなされるため、特例を受けることができます。ただし、その社宅を使っていたのが被相続人の親族のみであった場合などは特例を使うことが認められないため、実態がどのようであったのかは確認しておかなければならないでしょう。

貸していた土地が医療法人の敷地として使われていたケース

Q 被相続人が貸していた土地が、親族が経営する医療法人の敷地として使われていた場合は、特定同族会社事業用宅地等の特例を受けることはできますか?

A ケースバイケースです。

当該土地を貸していた医療法人が出資持分のある医療法人であれば、特定同族会社事業用宅地等の特例を使うことが出来ます。しかし、出資持分のない医療法人であればこの特例を使うことはできません。

また、MS(メディカル・サービス)法人に貸し付けた場合も同様に対象となりますが、MS法人が不動産貸付業を営んでいた場合は対象となりません。

被相続人や親族等が特定同族会社の役員でないケース

Q 被相続人や親族などが、土地を貸し付けていた特定同族会社の役員でない場合、特定同族会社事業用宅地等の特例を受けることはできますか?

A できます。

特定同族会社事業用宅地等の特例の要件には、被相続人や親族等が当該法人の役員であることは含まれていません。したがって、役員である・なしに関係なく、特例を受けることができます。

ただし、土地を相続した相続人は、相続税の申告期限までその法人の役員であり、その宅地等を申告期限まで保有していなければなりません。

自分の経営する会社に相場より安い値段で貸していたケース

Q 被相続人が経営していた会社に相場と比べると明らかに安い値段で貸していた場合は、特定同族会社事業用宅地等の特例を受ける際に何か影響しますか?

A 大きく影響します

特定同族会社事業用宅地等の特例は、相続人の生活を支えている土地に対して課税する相続税を軽減し、相続人の生活を保護することにあります。したがって、相場と比べて安い値段(無償で貸していた場合も含む)で貸していた場合はその保護が必要ないとみなされるため、この特例を使うことはできません。

被相続人が不動産貸付業を営んでいたケース

Q 被相続人が経営していたのが不動産貸付業だった場合は、特定同族会社事業用宅地等の特例は使えませんよね?

A 使えませんが、別の特例が使えます。

被相続人が営んでいたのが不動産貸付業だった場合、そこに対して事業の用の供する土地を貸していたとしても特定同族会社事業用宅地等の特例を受けることはできません。

しかし、上述の表にも記載してあるように、不動産貸付業だった場合には「貸付事業用宅地等の特例」の対象となります。したがって、200㎡までの部分の土地の評価額が50%減額できます。

まとめ

特定同族会社事業用宅地等の特例を使うと、被相続人やその親族が経営している法人に貸していた土地の評価額を大幅に下げることが出来ます。ただし、その事業が不動産貸付業であった場合はこの特例が使えませんが、本記事で紹介したように別の方法を使って評価額を下げることが出来ます。

このように、特例を使って評価額を下げる方法は適用するために求められる要件が複雑な上に、申告期限までに申告しなければならない点には十分に気を付けておきましょう。

もし、特例が使えるかどうか知りたい場合や、申告書の作成に自信がない場合は、マルイシ税理士法人までお気軽にお問い合わせください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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