教育資金贈与の特例はいつまで適用できる?要件と手続き方法を不動産税理士が解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】
別居している祖父母などから教育費を支援してもらった場合、そのお金は贈与税の課税対象となります。
しかし「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度」を活用すれば、最大1,500万円まで贈与税は非課税です。
本記事では教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度の活用方法と、手続きする際の注意点について解説します。

教育資金贈与の特例とは?

教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度(通称:教育資金贈与の特例)は、平成25年4月1日から令和8年3月31日までの間で行われた贈与に対して適用できる、期間限定の制度です。

教育資金贈与の特例の概要

教育資金贈与の特例は、30歳未満の受贈者(財産をもらった人)が父母や祖父母など受贈者の直系尊属から教育資金に充てるために、信託受益権または金銭等の贈与を受けた際、最大1,500万円まで非課税になる制度です。
信託受益権の贈与については、金融機関等との契約に基づき権利を取得、金銭等については書面での贈与により取得した金銭を銀行等に預入するか、取得した金銭等で有価証券を購入することが条件です。

適用するには

特例を適用するためには申告手続きが必要であり、取扱金融機関の営業所等を経由して教育資金非課税申告書を提出します。
特例対象の贈与財産は教育資金として使用しなければならず、受贈者の年齢が30歳に到達する時点で教育資金の残額があった場合、その残額は贈与税の課税対象です。

ポイント

贈与財産を教育資金以外の目的で贈与財産を使った際も、非課税対象から除かれるため、特例を適用する際は教育資金として使用する分だけ贈与するのがポイントとなります。

令和5年(2023年)度税制改正による変更点

教育資金贈与の特例は期間限定の特例であり、令和5年度の税制改正により適用期間が3年延長され、令和8年3月31日までの贈与に対して特例を適用することができます。
また、税制改正では適用期間延長だけでなく制度内容も一部変更されました。
令和4年度改正の時点では、贈与者が亡くなった時点の教育資金の残額がある場合、令和3年4月1日以後の贈与からは受贈者が23歳未満である場合や学校等に在学している場合等の一定の要件を満たさない限り、相続財産に加算しなければならなくなっておりました。
しかし、令和5年度の改正では、上記のような一定の要件を満たす場合でも、贈与者の死亡時の財産が5億円を超える場合には、管理残額に対して相続税が課税されることとなりました。
※管理残額とは、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額をいいます。

つまり、死亡時に使いきれなかった教育資金の残額のことです。
また、30歳までに贈与資金が使いきれなかった場合に、残額には贈与税が課税されますが、ここで適用される税率が年齢に関係なくすべて「一般税率」とされました。1,500万円の非課税枠があるからと、必要以上に贈与を行い、贈与税が課税されてしまうケースもありますので、計画的に贈与を行うようにしましょう。

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教育資金贈与の特例で非課税対象となる資金使途の範囲

教育資金贈与の特例は、贈与を受けた金銭等を教育資金として使わなければ贈与税が非課税にはなりません。
教育資金の範囲は「学校等へ支払われる金銭」と、「学校等以外へ支払われる金銭」に区分され、「学校等以外へ支払われる金銭」に対する非課税限度額は500万円となりますのでご注意ください。

学校等へ支払われる金銭に該当する教育資金の範囲

学校等に対して直接支払われる金銭に該当する教育資金は、次のようなものが該当します。
「学校等」とは、学校教育法で定められた幼稚園、小・中学校、高等学校、大学・大学院、専修学校および各種学校、一定の外国の教育施設、認定こども園または保育所などをいいます。

<学校等へ支払われる金銭の範囲>

  • 入学金、授業料
  • 入園料、保育料
  • 学用品の購入費
  • 修学旅行費、学校給食費
  • 学校等における教育に必要な費用
  • 施設設備費、入学(園)試験の検定料
  • など

学校等以外へ支払われる金銭の教育資金の範囲

学校等以外に対して直接支払われる金銭は、次のような教育を受けるために支払われるものとして、社会通念上相当と認められるものをいいます。

<学校等以外へ支払われる金銭の範囲>

  • 学習塾、そろばんなど、教育に関する役務の提供の対価や施設の使用料など(※)
  • 水泳、野球などのスポーツ、ピアノ、絵画などの文化芸術に関する活動、その他教養の向上のための活動に係る指導への対価など(※)
  • 上記の役務の提供または、指導で使用する物品の購入に要する金銭(※)
  • 学用品の購入費、修学旅行費や学校給食費など学校等における教育に伴って必要な費用などに充てるための金銭で、学生等の全部または大部分が支払うべきものと学校等が認めたもの
  • 通学定期券代、留学のための渡航費などの交通費

※令和元年7月1日以後に支払われる金銭で、受贈者が23歳に達した日の翌日以後に支払われるものについては、教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講するための費用に限ります。

教育資金贈与の特例を適用する際の注意点

教育資金贈与の特例は、受贈者の年齢以外にも適用要件があり、申告書の提出以外にもやるべき手続きがあります。

受贈者の所得条件

平成31年4月1日以後に信託受益権または金銭等を取得する場合、受贈者は取得した日の属する年の前年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下であることが要件です。
合計所得金額が1,000万円を超えた受贈者については、特例制度を適用できません。

非課税申告書の提出先は金融機関

贈与税は税務署が管轄している税金ですので、申告書は税務署に直接提出するのが原則です。
しかし教育資金非課税申告書については、取扱金融機関の営業所等を経由して税務署に提出することになるため、教育資金贈与の特例の申告手続きは金融機関で行います。
また通常の贈与税の申告手続きは、贈与を受けた翌年2月1日から3月15日の期間中に行いますが、非課税申告書は贈与を受けたタイミングで手続きしなければ、特例は適用不可となるので注意してください。

教育資金の使途によって限度額が異なる

教育資金贈与の特例で非課税になる金額は、教育資金を使用する目的によって異なります。
学校等に対して支払われる金銭は1,500万円、学校等以外の者に支払われる金銭は500万円が限度額です。

使用した教育資金の領収書は金融機関へ提出する

教育資金口座から出金し、教育資金として金銭等を使用した場合、支払いに充てたことを証明する領収書などの証明書は、期限までに金融機関等へ提出しなければなりません。
教育資金を支払った後、実際に支払った金額を口座から払い出す方法を選択した場合は、領収書等に記載等がされた支払年月日から1年、それ以外の方法を選択した際は領収書等に記載等がされた支払年月日の属する年の翌年3月15日が提出期限です。
教育資金口座の払出方法については、受贈者が教育資金口座の開設等の時に選択することになりますので、手続きする際に金融機関等へご確認ください。

未使用の教育資金は贈与税の課税対象

教育資金目的で贈与を受けたとしても、教育資金口座に係る契約が終了した際に、使っていない教育資金の残額があるときは、贈与税の課税対象となります。
課税対象となった贈与財産が110万円の基礎控除以内であれば、贈与税は課されません。
しかし年間の贈与金額の合計が110万円を超える場合は、翌年2月1日から3月15日の期間に贈与税の申告・納税が必要になります。

贈与者が死亡した際は相続税の2割加算の対象になる

相続税には、相続財産取得者が被相続人の一親等の血族および、配偶者以外の人であるときは、取得者の相続税額に2割上乗せする「2割加算制度」が存在します。
教育資金贈与の特例を適用した受贈者が贈与者の子以外(孫など)の場合、贈与者の死亡により相続税の計算に加算する教育資金も2割加算の対象です。
なお教育資金の2割加算については、令和3年4月1日以後に信託等により取得する、信託受益権等に係る相続税および贈与税から適用されます。

教育資金贈与の特例を活用して節税する方法

大学は高額な入学金と多額の授業料が発生しますので、相続税の節税も兼ねて教育資金贈与の特例を適用することも選択肢となります。
同居している親などの扶養義務者が、子などの被扶養者の生活費や教育費を工面した場合、そのお金は贈与税の非課税規定に該当するため、教育資金贈与の特例を適用しなくても贈与税は課されません。
しかし生活を別にしている祖父母や曾祖父母からの資金援助や、社会人として独立している子への学費の工面は贈与税の課税対象になる可能性がありますので、教育資金贈与の特例はそのような場面で活用することができます。

【注意点】

特例を適用する際の注意点としては、教育資金贈与の特例は贈与を受けた金銭等を教育資金として使用したことで、はじめて非課税になります。
受贈者が30歳になる時点で未使用の教育資金が残っている場合、残額は原則として贈与税の課税対象となりますので、必要となる教育費をシミュレーションしてから贈与する金額を決めてください。

教育資金贈与の特例の手続きの方法

教育資金の贈与特例を適用する際は、受贈者が教育資金非課税申告書をその教育資金非課税申告書に記載した取扱金融機関の営業所等を経由して、預金等の預入をする日までに、受贈者の納税地の税務署へ提出することになります。
したがって特例を適用する際、税務署で直接手続きすることはありません。

教育資金非課税申告書を取扱金融機関に提出し、受理された場合には、受理日が税務署へ提出した日とみなされますが、預入等の預入をする日までに教育資金非課税申告書の提出がない場合、教育資金贈与の特例は適用できません。
特例を適用後、受贈者が教育資金を支払いに充てた場合、その金銭に係る領収書その他の書類でその支払の事実を証するものを、受贈者が選択した方法ごとに定められた方法により、期限までに取扱金融機関へ提出・提供することになります。
教育資金管理契約が終了する時点において、その教育資金管理契約に係る非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額があるときは、その金額は贈与税の課税価格に算入し、計算しなければなりません。

贈与税の課税価格が110万円を超える場合には、贈与税の申告義務が発生しますので、翌年の2月1日から3月15日の間に、贈与税の申告手続きを行います。
なお教育資金管理契約が終了した日において、取扱金融機関に領収書等を提出・提供していないときは、教育資金管理契約が終了する日の属する月の翌月末日までに取扱金融機関へ提出・提供してください。

まとめ

教育資金贈与の特例は、最大1,500万円まで非課税になる制度ですが、贈与財産を教育資金として使用しなければ贈与税の課税対象となりますので、使える分だけの金額を贈与してください。
執筆時点においては、特例の適用期間は令和8年3月31日までとなっており、今後適用期間が延長するかは不明です。
受贈者の年齢が30歳未満であれば、教育資金贈与の特例を適用できる可能性はありますので、制度を利用する際は適用要件も含めて、1度税理士にご相談することをオススメします。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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