会社分割とは?会社分割の種類やメリット・事業譲渡との違いについて解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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企業グループ内の組織再編や事業の売却等を目的として、会社分割が行われることがあります。会社分割に関するニュースは一般紙にもしばしば登場することがあるだけに、会社分割という言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか?

会社分割というと、何となく会社を分割することだということはお分かりだと思いますが、そもそも分割とはどういうことで、分割するとどうなるのかを詳しくご存知の方はまだまだ多くはないでしょう。

そこで本記事では、会社分割とはどのようなもので、何ができて何ができないのかを整理した上で、最後に税務上の注意すべき点などについてじっくりと解説していきます。

会社分割とは?

冒頭で述べたように、会社分割とは会社を分割させることですが、そもそも会社を分割させるとはどういうことでしょうか?

会社を分割させるとは?

会社を一つの箱にたとえると、その中には、取引先や従業員との契約や事業用の資産・負債などさまざまなものが入っています。この箱を二つに分裂させ、それぞれの箱に中身を仕訳するのが会社分割です。

「本当にそんなことができるのか?」と思われるかもしれませんが、法律上の手続きを踏んで商業登記を行うことで、中身ごと一つの箱を二つの箱に分裂させることができるのです。

分裂させた箱の中に何を入れるのかは、任意で決めることができます。「この契約はこちらに残し、あの契約はあちらに移そう」とか「この売掛金はあちらに移すけれど買掛金はこちらに残そう」という具合に分けて行くわけですが、通常は事業部単位で切り出して移動させます。

企業が行っている一事業部門に関する顧客との取引契約や、その業務に従事する従業員との労働契約、そしてその業務に関わる資産・負債などを切り出して、別の箱に入れるわけですね。

これらを少し難しい言葉で言い換えると、「切り出す元となる事業体の法人格を保ったまま、事業に関する権利義務を承継させる行為」を会社分割といいます。

なぜわざわざ分割をするのか

「会社をわざわざ分割して、中身を仕訳して移動させるなんて面倒くさいことをせずに、新しく会社を作ってそこに契約や財産を一つずつ移していけばOKじゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はそうでもありません。

確かに、取引先も従業員も極めて少ない会社であれば、その方法でも手間はかかりませんが、ある程度事業の規模が大きくなると、会社分割の方が圧倒的に簡単で移動できます。

普通であれば、契約を別の会社に移し替えるためには、取引先1社1社や従業員1人1人と契約を結び直さなければなりません。したがって数が多いと相当の時間や手間が掛かることになります。しかし、会社分割であれば、法で定められた一定の手続きを踏むことで、これらの契約を一括で移すことができます。これを「包括承継」といいます。

会社分割によって切り出される事業に関わる資産・負債だけでなく、その事業に関わる第三者との法的関係も併せて包括的に移転できるからこそ、会社分割が選択されるわけです。

会社分割に至る状況

では、どのような場合に会社分割が行われるのでしょうか?会社分割の目的は、おもに以下の2つです。

  • 抜本的な会社の立て直しを図る
  • 経営のスリム化を図る

抜本的な会社の立て直しを図る

会社分割の目的の一つは、企業の組織再編です。多角化経営によって複数の事業部が乱立し、統率するのが難しくなってしまった場合や、会社の一部門を別法人にして経営効率を良くしようとする場合のように、抜本的な組織再編の一環として会社分割が行われます。

経営のスリム化を図る

会社分割のもう一つの目的が、経営のスリム化です。業績が好調な事業部門にリソースを集中させ、不採算部門を切り離して売却し、資金を得て倒産リスクを回避するとともに経営のスリム化を図る目的で会社分割が行われます。

会社分割の種類

会社分割にはいくつかの形態があります。それらを分類するための方法には、おもに以下の2つがあります。

  • 新設分割か吸収分割か
  • 分社型分割か分割型分割か

そこで、これらを正しく理解するために、それぞれの分類方法について解説した上で、会社分割の種類について述べていきます。

新設分割とは

会社から切り出された事業部門などは、別会社に譲渡され、最終的にはその会社の一部となります。この際、会社分割と同時に新しい会社が設立され、その新設会社が切り出された事業を引き継ぐタイプの会社分割を新設分割といいます。

なお、新設分割は、分割にともなう対価を最終的に誰が受け取るのかによって、以下の2つに分類されます。

  • 分社型新設分割
  • 分割型新設分割

分社型新設分割

分社型新設分割とは、新設分割の対価を、事業を切り出した側(分割法人)が受け取るタイプの会社分割です。

受け取った対価が金銭等の場合は、切り出した側の分割法人と受け取る側の分割承継法人の間に資本関係は成立しません。しかし、対価が新設された分割承継法人の株式である場合は、両者の間に資本関係が生じることになります。

ちなみに分社型新設分割は、物的新設分割と呼ばれることもあります。

分割型新設分割

分割型新設分割とは、新設分割の対価を分割法人ではなく分割法人の株主が受け取るタイプの会社分割です。

対価として分割承継法人の株式が支払われる場合は、分割法人と分割承継法人は株主が同じグループ企業同士となります。

ちなみに分割型新設分割は、人的新設分割と呼ばれることもあります。

吸収分割とは

分割法人から切り出された資産や事業などを、既存の会社が承継するタイプの会社分割を吸収分割といいます。

吸収分割も、新設分割の場合と同様に分割の対価を誰が受け取るのかによって、分社型と分割型の2種類に分かれます。

したがって、会社型分割は、以下の4類型に分類されます。

  • 分社型新設分割(物的新設分割)
  • 分割型新設分割(人的新設分割)
  • 分社型吸収分割(物的吸収分割)
  • 分割型新設分割(人的新設分割)

会社分割と事業譲渡の違い

会社の事業の一部や資産などを切り出して他社に譲渡する手法としては、会社分割以外にも事業譲渡があります。

事業譲渡によって事業や資産・負債などを移転させる場合は、顧客等との間で交わした契約や資産・負債、従業員の一人一人などと、移転に伴う契約を個別に結び直さなければなりません。膨大な手間と時間はかかりますが、簿外債務などを引き継いでしまうリスクは回避することができます。

これに対して会社分割の場合は、事業や資産・負債などを単に移転させるだけでなく、それらに関わる第三者との法的な関係まで包括的に移転することになります。したがって、事業譲渡と比べると手間がかからない分だけ、簿外債務などを引き継いでしまうリスクには敏感でなければなりません。

これらの点が、会社分割と事業譲渡では大きく違います。

会社分割を行うメリット・デメリット

ではここで、会社分割のメリットとデメリットについて整理してみます。まずはメリットからです。

会社分割のメリット

会社分割を行う場合のメリットは、おもに以下の3点です。

  • 対価は株式でもOK
  • 倒産リスクの分散が可能
  • 雇用等の契約をそのまま継承できる

対価は株式でもOK

会社分割によって事業などの一部を譲り受けた際に、分割承継法人から分割法人に支払われる対価は、金銭等以外に分割承継法人の発行する株式も認められています。

したがって、組織再編の対価として巨額の資金を用意することなく、自社株を発行するだけで済ませることができます。

倒産リスクの分散が可能

一部事業を切り出して別法人とすることで、万が一の場合のリスクを分散することができます。仮に、切り出した事業部が赤字になってしまったとしても、別法人であるため、倒産リスクを分散し低減させることができます。

雇用等の契約をそのまま継承できる

会社分割を行う場合、切り出す事業部門で働く従業員との雇用契約なども改めて契約を結び直すことなく、そのまま分割承継法人に継承することができます。

ただし、従業員を移転する際には労働契約承継法に則り、労働者の保護に関するさまざまな手続きを行わなければなりません。

会社分割を行うデメリット

次はデメリットです。会社分割を行うデメリットは、おもに以下の3点です。

  • 税務や財務の手続きが面倒
  • 業種によっては分社化できない場合もある
  • 債務等も引き継ぐリスク

税務や財務の手続きが面倒

会社の事業や資産・負債などを切り出して他社へ移転させる場合、当然ながら非常に複雑な税務や財務の手続きが必要です。

また、一定の要件を満たした会社分割であれば税制上の優遇措置を受けられますが、こうしたメリットを享受するためには、非常に面倒な手続きが必要となります。

業種によっては分社化できない場合もある

建設業や貸金業のような一部の業種では、単に事業を切り出して他社に移動させるだけでは、事業を行うための許認可を移動できない場合があります。

こうした場合は、会社分割後に事業を行うための許認可を再取得しなければなりません。

債務等も引き継ぐリスク

上述のように、会社分割は事業譲渡とは違い、切り出された事業などを包括的に承継することになります。したがって、簿外債務や訴訟リスクなど、会社分割時には予測できなかったリスク等を引き継いてしまうことがあります。

会社分割の手続きの方法と流れ

では次に、会社分割の手続きの方法とその流れについて解説します。新設分割の場合を例に、会社分割の手続きの方法と流れを確認してみましょう。

  1. 分割計画書を作成する・・・新設分割に関する計画書をまとめた上で、取締役会での承認を得ます
  2. 事前開示書類の備置・・・分割会社の財務諸表などの書類を開示し、閲覧できるようにしておきます
  3. 従業員に会社分割による移転を通知・・・会社分割によって移転する従業員に対し、通知を行います
  4. 反対株主の株式買取請求・・・会社分割に反対する株主が保有する株式を、適正な価格で買い取ります
  5. 債権者保護手続・・・分割法人の債権者に対して官報等で会社分割の旨を通知するとともに、反対する債権者が異議申し立てを行う期間を設けます
  6. 株主総会・・・株主総会を開催し、特別決議によって会社分割の承認を株主から得ます
  7. 登記申請・・・分割会社の登記申請を行うとともに、新設法人設立の登記申請も同時に行います
  8. 事後開示書類を備置・・・新設分割後6ヶ月間、分割法人と分割承継法人に、会社分割に関する書類を備え置きます

会社分割における税務上の留意事項

会社分割は組織再編税制に規定される手法の一つであることから、分割法人から分割承継法人へ承継される事業や資産・負債などは、原則として時価移転で行われます。

したがって、たとえば分割法人から分割承継法人へ含み益を抱える土地を移転させる場合は、会社分割によって含み益が発生し、分割法人に対して巨額な法人税が課税されることになります。

しかし、一定の要件(これを「税制適格要件」といいます)を満たした上で会社分割が行われた場合は時価移転でなく簿価移転となるため、課税関係が生じることはありません。

組織再編によってグループ企業を再編成するにあたり、税金が課税されないのであれば非常にありがたい話なのですが、この要件を満たしているかどうかの判定は極めて難しく、高度に専門的な知識を有している専門家でなければ判断できません。

一歩間違えれば巨額な税金が課税されかねないだけに、税制適格要件を満たしているかどうかを判断するためには、組織再編税制に詳しい税理士にアドバイスを受けながら行うのが良いでしょう。

まとめ

会社分割は、企業グループ内の組織再編や一部事業の子会社化などを行う際に非常によく用いられる手法であり、対価も自社株で行えることから特別に資金を用意する必要もありません。

また、契約や資産・負債などを包括的に移転できることなどから大変便利ではありますが、簿外債務や訴訟リスクに対しては十分に注意しておかなければなりません。

上述のように税制適格要件を満たせば税制上の優遇措置を受けることは出来ますが、これには非常に高度な税務知識に基づく判断が必要になります。

したがって、会社分割によって組織再編を考えている方は、組織再編税制に詳しい税理士に相談することをおすすめします。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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