1,000万円特別控除とは?平成21年及び22年に取得した土地に適用できる特例制度について

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】
マルイシ税理士法人の代表税理士の藤井幹久です。

自宅を売却して利益が出たら、マイホーム3,000万円特別控除だと決めつけていませんか?
使えるケースは極めて限られますが、意外と見落としがちな売却時の特例として「1,000万円特別控除」があります。

この1,000万円特別控除は、リーマンショック後の景気対策として創設された特例です。

リーマンショックの翌年から2年間、すなわち平成21年と22年に購入した土地等を売却した場合、その用途を問わず、売却利益から1,000万円を控除するという制度です。
控除額だけ見れば効果は少なく感じますが、不動産税理士からみると、1,000万円特別控除を適用できる物件を見つけたときは「お宝」に感じるほど、メリットが多い特例です。

この記事では、1,000万円特別控除の詳細と、そのメリットや注意点について解説していきます。

藤井税理士の見解

  • リーマンショックの直後に購入したマンションなどを売却した場合、1,000万円特別控除の対象となる可能性がある。
  • マイホームの買換えについては、基本的に売却物件のマイホーム3,000万円特別控除と買換物件の住宅ローン控除の選択適用となるが、売却物件で1,000万円特別控除を適用した場合には、買換物件で住宅ローン控除を併用して適用することができる。住宅ローン控除と併用できる点が、1,000万円控除の大きなメリット
  • 賃貸物件や未利用物件などを売却する場合には、他の特例が適用できるケースがほとんどなく、1,000万円特別控除が唯一の特例となることが多い
不動産と相続についてお悩みの方へ
これまで20,000件超の相談実績を持つ
マルイシ税理士法人に相談してみませんか?

マルイシ税理士法人は、「不動産と相続」の専門税理士として申告関与件数3,000件以上に関与してきました。
記事では書ききれない具体的な事例もございますので、お問い合わせください。

1,000万円特別控除とは?

不動産の売却金額は譲渡所得の対象となり、売却利益に対して譲渡所得税が課されます。
1,000万円特別控除とは、平成21年・22年に取得した国内の土地または土地の上に存する権利(以下「土地等」)を売却した際に適用できる制度です。

平成21年に取得した土地等は平成27年以降、平成22年に取得した土地等は平成28年以降に売却することが前提条件なので、これから売却する際に所有期間が問題になることはありません。
特例要件を満たせば譲渡所得の金額から最大1,000万円控除可能で、1,000万円に満たない場合は譲渡所得の金額が控除額となります。

購入して短期間で売却した際は適用できませんが、居住用や事業用など売却不動産の用途が適用要件となっていることが多い譲渡所得の特例の中で、1,000万円特別控除は未利用の土地に対しても適用できるのが特徴です。

ちなみに、譲渡所得は売却金額から取得費や譲渡費用を差し引いた金額をいいますので、売却金額が平成21年・22年に購入した当時よりも低い金額だった場合、赤字となり譲渡所得は発生しません。

そのため1,000万円特別控除を適用する場合は、最初に売却利益が発生するかを確認し、利益が出る場合に特例を適用するかの判定をしてください。

1,000万円特別控除を適用する場合の譲渡所得の計算式

1,000万円特別控除を適用するための要件・チェックリスト

1,000万円特別控除の適用要件は、土地等を平成21年・22年に購入した以外にも存在し、一つでも適用要件を満たさないと特例は受けられません。

1,000万円特別控除の適用要件・チェックリスト

  • 平成21年1月1日から平成22年12月31日までの間に土地等を取得
  • 平成21年に取得した土地等は平成27年以降に売却、平成22年に取得した土地等は平成28年以降に売却
  • 土地等は親子や夫婦など、特別関係者から取得したものではない
  • 土地等は、相続・遺贈・贈与・交換・代物弁済・所有権移転外リース取引により取得したものではない
  • 譲渡した土地等について、マイホーム3,000万円特別控除や買換えの場合の課税の繰延べなど、他の譲渡所得の特例を受けないこと
    (注)買換えの場合、買換え先の住宅ローン控除との併用は可能です。

特例を適用するための注意点

特例を適用するための注意点を2点解説します。

土地を購入した際の売主との関係性

1,000万円特別控除を適用する際に最も注意すべきは、土地を購入した際の売主との関係性です。
親子や夫婦など親しい人から土地を購入した場合はもちろんのこと、生計を一にする親族や内縁関係にある人、特殊な関係のある法人から購入した土地を売却した際に特例は適用できません。

また特例対象となるのは、不動産業者などから金銭を支払って所有権を得た土地等です。
相続や贈与取得は、金銭を支払って土地の所有者になったわけではありませんし、土地の交換や代物弁済(お金の代わりに物で支払いをすること)も、金銭の支払いによる土地の取得ではありませんので対象外となります。

他の特例制度と併用できない

また土地の買換え特例など他の特例制度と、1,000万円特別控除を併用して適用することもできません。
買換え特例とは、土地を売却して新しく土地を購入した場合、譲渡所得が無かったものと取り扱う制度です。
1,000万円を超える多額の売却利益が発生し、かつ新しい不動産を購入する際は、1,000万円特別控除ではなく買換え特例を適用することも検討する必要があります。

関連記事:不動産売却時にかかる譲渡税の仕組み・税金を軽減できる特例を解説

特例を受ける際に考えたい3つのポイント

1,000万円特別控除は自動適用される制度ではありませんので、申請手続きが必要となります。
以下の3つのポイントを抑えておきましょう。

1.特例の適用には確定申告手続が必要

1,000万円特別控除を適用する場合は、必ず確定申告の手続きをしなければなりません。
確定申告期間は、売却した翌年2月16日から3月15日までの1か月間であり、売却した直後に申告手続きは行なえませんのでご注意ください。
確定申告書を提出する際は、1,000万円特別控除を適用する旨を記載し、次の書類を添付する必要があります。

1,000万円特別控除の添付書類

  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]
  • 売却した土地等を平成21年または平成22年に取得したことを証明する書類

譲渡所得の内訳書は、譲渡所得の計算をする際に用いる書類で、国税庁ホームページに公開されています。
取得時期を証明する書類としては、土地等の登記事項証明書や売買契約書の写しなどがあります。
なお提出義務はありませんが、譲渡所得の計算をするために購入時と売却時の売買契約書、仲介手数料などの譲渡費用の金額が確認できる領収書も用意してください。

2.他の譲渡所得の特例制度との兼ね合い

売却した土地に対して、買換えの場合の課税の繰り延べの適用を受ける場合、1,000万円特別控除は適用できません。
また、居住用の特例(マイホーム3,000万円特別控除)や、収用の特例(収用等の5,000万円特別控除)などを重複して適用することもできないため、複数の特例を適用できる状態の場合は、最も節税効果の高い特例を選択して適用することが大事です。

関連記事:特定居住用財産の買換え特例とは?不動産税理士がわかりやすく解説

3.土地と建物をセットで購入した場合に適用できる金額

1,000万円特別控除は土地等に対して適用できる特例であり、建物の売却利益に対して適用することはできません。

建売住宅やマンションなど、土地と建物を一つの契約により取得している場合には、土地と建物の取得金額を区分し、土地に対応する部分にのみ1,000万円特別控除を適用することになります。
土地と建物の区分については、購入時の売買契約書から土地の価額を算出するなどの方法があります。詳細は税理士又は税務署にご確認ください。

よくある質問

最後に、1,000万円特別控除について、よくある質問を確認します。

Q1:1,000万円特別控除はマンションの売却にも適用できますか。

A1:要件を満たせば、マンションの敷地権部分について適用可能です。

Q2:税理士に依頼せず、自分で1,000万円特別控除の譲渡所得の申告をすることはできますか?

A2:不動産を売却した納税者自身で、譲渡所得の申告をすることは可能です。
ただし、1,000万円特別控除はあくまで「土地等」の売却利益についてのみ適用されますので、税務上、適正な土地等と建物の区分計算が必要となります。
また、マイホームの買換えなどの場合には、有利不利の選択のため、複雑な事前シミュレーションが必要になることがあります。
したがって、一度不動産売却をに詳しい税理士に相談することをお勧めします。

Q3:なぜ平成21年、22年だけ特別控除なのか?

A3:1,000万円特別控除は、リーマンショック後の景気対策として創設された特例だからです。

不動産と相続についてお悩みの方へ
これまで20,000件超の相談実績を持つ
マルイシ税理士法人に相談してみませんか?

マルイシ税理士法人は、「不動産と相続」の専門税理士として申告関与件数3,000件以上に関与してきました。
記事では書ききれない具体的な事例もございますので、お問い合わせください。

まとめ

1,000万円特別控除は、平成21年・22年に購入した土地が対象となっているため、それ以外の年に購入した土地等には適用できません。
またマイホームの特例など他の譲渡所得の特例制度との併用適用はできないため、複数の特例を適用できる場合は、最も節税効果の高い特例を選ぶことも重要です。

特にマイホームの買換えについては、売却した際に居住用の3,000特別控除を選択した場合、基本的に買換え先で住宅ローン控除を適用できません。ただし、1,000万円特別控除を選択した場合、買換え先で住宅ローン控除を併用して適用できます。売却利益がそれほど大きくなく、かつ要件を満たす場合には、1,000万円特別控除と住宅ローン控除の併用が最も有利になる可能性があります。

譲渡所得には、1,000万円特別控除やマイホームの特例以外にも多くの特例制度が存在し、特例ごとに適用要件は異なります。
特例の存在を知らないと要件を満たしていても特例を適用できないため、不動産を売却した際は一度不動産に強い税理士に相談し、適用できる特例の種類と適用要件をご確認ください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

税理士紹介はこちら

  • ページタイトルと
    URLがコピーされました