マイホーム売却時に利用できる5つの特例を不動産税理士が解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】

不動産を売却金額は譲渡所得の対象となり、売却利益が発生している場合には譲渡税(売却による所得税及び住民税。以下同じ)が課税されますが、マイホームを売却した際に適用できる特例を適用することで、譲渡税をゼロにできるケースがあります。

マイホーム特例は5種類あり、売却利益が発生した時だけでなく、売却損失が発生した際に利用できる特例も存在します。

本記事でマイホーム特例の種類と制度内容をご確認ください。

マイホーム売却時に利用できる5種類の特例制度

マイホーム売却時に利用できる特例は、売却利益発生時に3種類、売却損失発生時に2種類の計5種類あります。

マイホーム特例の種類と節税効果

特例の名称 特例適用による節税効果
3,000万円特別控除の特例 売却利益を最大3,000万円控除
所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例 譲渡税の税率を6.105%引き下げ
特定の居住用財産の買換え特例 売却利益を将来に繰り延べ、現時点で課される譲渡税を抑える(ゼロにする)
居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例 売却損失を他の所得と損益通算および、最長3年間繰越可能
居住用財産に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例 ローン残高から売却金額を差し引いた金額を限度として、売却損失を他の所得と損益通算および、最長3年間繰越可能

譲渡益が出た場合に利用可能な特例

譲渡税は売却利益に対して税率を乗じるため、売却利益をゼロにすれば譲渡税は課されません。

3,000万円特別控除の特例の概要

『3,000万円特別控除の特例』は、マイホームを売却して売却利益(譲渡所得)が発生した場合、最大3,000万円までの利益を控除できる制度です。

控除額が大きいため、マイホームを売却した際は最初に利用を検討すべき特例です。

また特例を適用する際、売却した人の所有期間や居住期間の要件がないため、転勤などにより数年しか住んでいなかったマイホームを売却した場合にも適用できます。

関連記事:マイホームを売却した時の居住用3,000万円控除の特例を解説

所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例

『所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例』とは、10年以上所有していたマイホームを売却した場合、軽減税率により譲渡税を算出できるようになる制度です。

長期譲渡所得の税率は、国税15.315%、地方税5%の合計20.315%です。

それに対し、軽減税率の特例は課税譲渡所得(※)6,000万円以下までは国税10.21%、地方税4%の合計14.21%と、6.105%も税率が軽減されます。(6,000万円を超えた部分の税率は20.315%です。)

課税譲渡所得とは3,000万円特別控除の適用がある場合、適用後の譲渡所得をいいます。
不動産の売却金額は高額になりやすく、1,000万円の課税譲渡所得に軽減税率を適用できれば61.05万円の節税効果が見込めます。

特定の居住用財産の買換え特例の概要

『特定の居住用財産の買換え特例』とは、マイホーム売却後に新しくマイホームを購入した際、売却利益に対する課税を将来に繰り延べることができる制度です。

売却金額よりも買い換えたマイホームの購入金額のほうが大きい場合、売却利益が全額繰り延べになるので、特例適用時に譲渡税を支払わずに済みます。

3,000万円を超える売却利益が発生した場合には、3,000万円特別控除の特例を適用しても譲渡税を支払うことになりますが、買換え特例を適用すれば高額な売却利益が出たとしても納税額をゼロにすることも可能です。

なお買い換えたマイホームを将来売却した際は、特例適用により繰り延べた売却利益を精算することになりますので、特例を適用したことを忘れないようにしてください。

関連記事:特定居住用財産の買換え特例とは?不動産税理士がわかりやすく解説

譲渡損が出た場合に利用可能な特例の概要

譲渡税は売却利益に対して課される税金なので、マイホームを売却して損失が発生した場合、譲渡税を支払うことにはなりません。

しかし売却損失時に利用できる特例制度を活用すれば、給与所得などに課されている所得税及び住民税を軽減またはゼロにして、所得税については還付金を受け取ることが可能になります。

居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例の概要

『居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例』とは、売却損失の金額と給与所得などの他の所得を損益通算できる特例です。

マイホームを売却して損失が発生し、ローン付きのマイホームを新たに購入した時に適用できます。

不動産の売却損失は、通常他の所得と損益通算をすることができません。(不動産同士の売却損益の通算は可能です。)

しかし、居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例を適用すれば、他の所得との損益通算は可能ですし、その年に差し引けなかった損失額は最大3年繰り越すことが可能です。

繰越控除のイメージ

  • 売却損失 3,000万円
  • 給与所得 500万円

✱特例適用した年
500万円-3,000万円=△2,500万円(繰越金額)

✱繰越1年目
500万円-2,500万円=△2,000万円(繰越金額)

✱繰越2年目
500万円-2,000万円=△1,500万円(繰越金額)

✱繰越3年目
500万円-1,500万円=0円

※3年目で控除しきれなかった損失額は切り捨てとなります。

居住用財産に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例の概要

『居住用財産に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例』は、売却したマイホームのローンが残っていた場合、売却損失と他の所得とを損益通算できる特例です。

売却金額よりもマイホームのローンが多く残っていた場合に適用できる制度なので、売却代金でローンを完済できる際は特例を適用できません。

また損益通算できる金額は、住宅ローンの残高から売却価額を差し引いた残りの金額です。

売却損失が5,000万円あっても、売却金額を差し引いたローン残高が1,000万円であれば、1,000万円が損益通算の対象金額となります。

関連記事:居住用財産の譲渡損失の損益通算と繰越控除を税理士が解説

マイホーム売却時に利用できる特例は併用できる?

マイホームを売却した際に適用できる特例は、原則併用適用はできません。

しかし3,000万円特別控除の特例と、所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例は、双方の特例要件を満たしている限り併用適用が認められています。

また住宅ローン控除を適用を検討している方については、令和2年4月1日以後にマイホームを売却し、売却利益に対するマイホーム特例を適用した場合、その年と前2年・後3年の計6年間は住宅ローン控除を適用できません。(令和2年3月31日以前に譲渡した場合は、その年と前2年・後2年の計5年間)

そのため売却利益が少なかった場合は、マイホーム特例を適しないで住宅ローン控除を受けた方が節税になるケースもありますので、どちらの特例を適用するかの判断も重要です。

なお売却損失が発生した際に適用できるマイホーム特例については、住宅ローン控除との併用適用が可能です。

各マイホーム特例を利用できるシチュエーションとは?

ご紹介してきました5種類のマイホーム特例を適用できるケースについて、設例を交えてご紹介します。(特例要件はすべて満たしているものとします。)

設例1:自宅を売却して利益が発生した場合

自宅を売却して利益が発生した場合は、最初に3,000万円特別控除の適用を検討してください。

売却利益が3,000万円以下なら、譲渡税は無税となります。

前提条件

  • 売却金額 5,000万円
  • 取得費  3,000万円

計算式

5,000万円-3,000万円-2,000万円=0円
※3,000万円特別控除は譲渡所得の金額が上限です。

設例2:自宅を売却して3,000万円超の利益が発生した場合

自宅を売却して3,000万円以上の利益が出ましたら、3,000万円特別控除の特例と、所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例の併用適用をご検討ください。

前提条件

  • 売却金額 5,000万円
  • 取得費  1,000万円

計算式

5,000万円-1,000万円-3,000万円=1,000万円
1,000万円×14.21%=142.1万円

3000万円特別控除及び軽減税率を適用しなかった場合

5,000万円-1,000万円=4,000万円
4,000万円×20.315%=812.6万円(通常税率)

★142.1万円(軽減税率)-812.6万円=△670.5万円の節税効果

設例3:売却利益が発生しマイホームを買い替えた場合

自宅の売却利益が3,000万円を超え、新しいマイホームを購入した場合は、特定の居住用財産の買換え特例が適用できます。

前提条件

  • 売却金額 8,000万円
  • 取得費  3,000万円
  • 買換資産 9,000万円

計算式

8,000万円<9,000万円

売却金額よりも買換資産の方が金額が大きいため、譲渡税は発生しません。
買換資産を将来売却した際は、原則として売却利益5,000万円の精算を行います。

設例4:売却損失が発生しマイホームを買い替えた場合

自宅を売却損が発生している状態でローン付きのマイホームを購入した場合、居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例を適用できます。

前提条件

  • 売却金額 3,000万円
  • 取得費  5,000万円
  • 他の所得金額  500万円

計算式

3,000万円-5,000万円=△2,000万円
500万円-2,000万円=0円(所得金額)
※残額1,500万円は最大3年間繰越可能

設例5:売却損失が発生しマイホームのローンが残っている

自宅の売却損が発生し、かつ売却金額よりもローン残高が大きい状態の場合、居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例を適用できます。

前提条件

  • 売却金額 3,000万円
  • 取得費  5,000万円
  • ローン残高 4,000万円

計算式

3,000万円-5,000万円=△2,000万円
5,000万円-4,000万円=1,000万円⇛損益通算可能な金額
500万円-1,000万円=0円(所得金額)
※差額500万円は最大3年間繰越可能

まとめ

マイホーム特例を適用するためには確定申告手続きが必要ですので、特例要件をすべて満たしていても、確定申告をしなければ特例を適用したことになりません。

またマイホーム特例は原則併用適用できませんので、複数の特例を適用できるケース場合は、各特例を適用した際の節税効果を比較することも重要です。

最適な特例を利用しないと、本来支払う必要のない税金を支払うことになりかねませんので、ご自宅を売却した際は不動産に強い税理士と相談して利用する特例を選んでください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

税理士紹介はこちら

  • ページタイトルと
    URLがコピーされました