みなし譲渡課税とは?譲渡や限定承認時に注意したい税金について

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】

みなし譲渡課税とは?

みなし譲渡課税は、資産を無償または低額譲渡した場合、時価で売却したとみなして課税する制度であり、関係する税目は所得税と消費税です。

所得税における「みなし譲渡」

所得区分の一つである譲渡所得は、資産を売却した金額を収入金額として、譲渡所得の計算を行います。

譲渡所得税は、売却金額から取得金額を差し引いた差額に対して課される税金です。

たとえば700万円で購入した不動産を1,000万円で売却した場合、利益300万円に対して譲渡所得税が課されます。

1,000万円で購入した不動産を700万円で売却した際は、300万円の赤字となりますので、譲渡所得税は発生しません。

しかし、みなし譲渡課税の対象になると、譲渡所得の計算上は実際の売却金額ではなく、時価を収入金額とします。

売却金額700万円がみなし譲渡と判断された場合、時価が3,000万円であれば利益2,000万円に対して譲渡所得税が課されます。

関連記事:譲渡所得税とは?計算方法や節税ポイントを不動産税理士が徹底解説

消費税における「みなし譲渡」

消費税の課税対象となる取引は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等および、外国貨物の引取りです。

資産の譲渡とは、売買等の契約で資産を他人へ移転させることをいい、商品や製品の販売以外にも、特許権や商標権などの無体財産権の譲渡も消費税の課税対象です。

対価を得ない取引について消費税は原則されませんが、個人事業者の自家消費や、法人が役員へ資産を贈与または著しく低い価額で譲渡した場合には、みなし譲渡課税の対象となります。

みなし譲渡課税に該当した際は所得税と同様、時価を対価の額とみなして課税されますので、消費税の納税額が増える可能性があります。

みなし譲渡として所得税が課税されるケース

みなし譲渡として所得税が課税されるケースは3つあります。

1.個人が法人へ無償で財産を渡した場合

個人から法人へ資産を渡した際、有償であれば実際の売却金額で譲渡所得の計算を行いますが、無償の場合には時価で資産を売ったとみなして譲渡所得税の計算を行います。

譲渡の対価があれば、売却代金を譲渡所得税の納税資金として充てることが可能です。

しかし無償譲渡においては売却代金が存在しませんので、納税資金の負担が一層重くなります。

2.個人が法人へ著しく低い金額で財産を渡した場合

「著しく低い金額」とは、時価の2分の1未満の金額をいいます。

個人から個人へ売却した場合、時価により譲渡所得の計算を行うことはありませんが、赤字はなかったものとして取り扱われますのでご注意ください。

3.限定承認により財産を相続した場合

限定承認とは、相続財産を取得する方法の一つで、相続するプラスの財産を限度としてマイナス財産(借金)を引き継ぐ制度です。

相続により不動産などの資産を取得した場合、通常は譲渡所得の対象になりません。

しかし限定承認により相続した際は、相続時点で譲渡があったものとみなし、譲渡所得の計算を行うことになります。

限定承認により相続する際に注意すべき「みなし譲渡」のポイント

限定承認する際のみなし譲渡は、見落としやすいので要注意です。

相続財産の取得方法には、「単純相続」・「限定承認」・「相続放棄」の3種類あり、相続の際にみなし譲渡の規定が適用されるのは限定承認だけです。

限定承認によるみなし譲渡は、相続開始時点の時価で売ったとみなして計算するため、購入時よりも資産価値が上がっている場合は、譲渡所得税を納税することになります。

一方で、相続開始時点で資産価値が下がっている場合には、譲渡所得の申告は不要です。

また限定承認で相続した資産を売却する場合、単純相続した際と計算過程が異なります。

単純相続では、先代の購入金額と取得期間を引き継ぎますが、
限定承認では相続時点で取得したとみなされます。

購入金額は譲渡所得の損益を計算する際に影響しますし、所有期間によって譲渡所得の課税区分は「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」に分かれます。

短期譲渡所得の税率は39.63%と、長期譲渡所得の税率20.315%の倍近くになりますので、同じ値上がり益でも譲渡所得の区分が違うだけで納税額が変わるので要注意です。

限定承認による譲渡所得の申告(準確定申告)は、相続人の方が亡くなった人の代わりに手続きしなければなりません。

所得税の確定申告は、通常翌年2月16日から3月15日の1か月間ですが、準確定申告の申告期間は相続開始日の翌日から4か月以内です。

所得税の準確定申告の手続き方法は一般的な確定申告と基本的に同じなので、譲渡所得の必要書類に加えて、会社員であれば給与所得の源泉徴収票、年金受給者なら年金の源泉徴収票などを揃える必要があります。

相続財産に譲渡資産が含まれている場合、譲渡所得税の申告漏れや計算誤りが起こりやすいため、限定承認で相続する際は税理士へご相談することをオススメします。

みなし譲渡として消費税が課税されるケース

消費税において、みなし譲渡の規定が適用されるケースは3つ存在します。

1.法人が購入した資産を役員へ無償で渡した場合

法人が役員へ資産を贈与(無償譲渡)した場合には、時価で売却したとみなし、時価相当額を課税標準として消費税の計算を行うことになります。

2.法人が購入した資産を役員へ著しく低い金額で渡した場合

役員への無償譲渡と同様、著しく低い金額で渡した場合もみなし譲渡の対象で、時価の2分の1未満の金額での売却は、「著しく低い金額」による譲渡とみなされます。

3.個人事業主が事業用資産を自家消費した場合

「自家消費(家事消費)」とは、事業用資産を自分や家族のために使用・消費したりすることをいい、友人などへ商品をあげる行為も自家消費に該当します。

消費税は対価の額を得て行う取引を対象とするため、対価がないケースは本来消費税の課税対象にはなりません。

しかし個人事業者の自家消費は、自家消費した時点の資産の価額を課税標準として消費税が課税されます。

なお棚卸資産の自家消費については、棚卸資産の仕入価額以上の金額かつ、販売価額のおおむね50%相当以上の金額で売却したとして確定申告することが認められています。

まとめ

資産を無償で渡した場合でも、受け取る相手が個人であれば時価で譲渡所得の計算をする必要がありませんし、時価より低い金額で売却しても、売却代金が時価の2分の1以上であればみなし譲渡課税の対象外です。

限定承認でみなし譲渡課税の対象になったとしても、相続時点の時価より資産を購入した当時の価額の方が高ければ、譲渡所得税は発生しません。

みなし譲渡課税は事前に対策を講じることで回避することは可能ですが、これらの判断を一般の方や相続人が行うのは難しく、税務署から指摘されれば余分に税金を納めることになりかねません。

マルイシ税理士法人は、不動産と相続に関する税金を専門としている税理士事務所です。

法人へ贈与(低額譲渡)する場合や、限定承認により財産を取得する際の税金問題につきましては、マルイシ税理士法人にお任せください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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