譲渡所得税とは?計算方法や節税ポイントを不動産税理士が徹底解説
【執筆者:税理士・藤井幹久】
譲渡所得税とは?
個人が所有する不動産を譲渡して発生した利益は、「譲渡所得」に分類されます。
不動産の譲渡所得には、他の所得と分離した上で「譲渡所得税」が課税されます。
譲渡所得とは
「譲渡所得」とは、個人の資産(不動産や動産、権利など)を譲渡した利益から生じる所得のことです。
「譲渡」を「売却」と読み替えるとイメージしやすくなります。
- 不動産(土地、建物)、借地権
- 株式等(株式、投資信託、公社債など)
- 貴金属、骨とう品、書画
- 船舶、機械器具、漁業権、配偶者居住権、ゴルフ会員権、特許権や著作権、鉱業権
など
関連記事:みなし譲渡課税とは?譲渡や限定承認時に注意したい税金について
譲渡所得税とは
「譲渡所得税」とは、不動産の譲渡所得にかかる下記の3つの税金の総称です。
- 所得税
- 復興特別所得税
- 住民税
※「譲渡所得税」は正式な税目ではなく、一般的な呼称にあたります。
不動産の譲渡所得は「分離課税」
譲渡所得は、譲渡する資産によって税金の計算方法が2種類に分かれます。
「総合課税」と「分離課税」です。
不動産の譲渡所得は、「分離課税」になります。
したがって、総合課税の所得や他の分離課税の所得とは別に、不動産の譲渡所得のみから税金を計算します。
なぜ不動産の譲渡所得は分離課税になるのか
「総合課税」に分類される所得は、生活の基盤となる経常的な所得や、日常的な行為から得られる所得です。
たとえば、給料やボーナスから生じる給与所得、不動産の賃貸収入から生じる不動産所得、動産から生じる譲渡所得、懸賞金から生じる一時所得などが該当します。
総合課税の所得には、15%~55%の超過累進税率が適用されることから、たくさん稼ぐ人が多くの税を払うしくみになっています。
これに対して「分離課税」に分類される所得は、総合課税の所得と合算して税金を計算することが好ましくない所得です。
不動産の譲渡所得が分離課税になる理由は、不動産の譲渡によって発生する金額が、高額になりやすいことにあります。
高額な不動産の譲渡所得が他の所得と合算され、超過累進税率で課税されてしまうと、普段の所得に対する税金の負担割合がその年だけものすごく高くなってしまいます。
そのため、不動産の譲渡所得は、普段の所得と分離して、不動産の譲渡所得だけで税金を計算するのです。
ちなみに株式などの譲渡所得も分離課税の譲渡所得になりますが、不動産の譲渡所得は、これらとも合算せず不動産の譲渡所得のみで税金を計算します。
譲渡所得の計算方法とは?
譲渡所得の計算式
不動産の譲渡所得の計算式は、下記のとおりです。
譲渡所得の収入金額とは
不動産の売却代金です。
物や権利で代金を受け取った場合は、受け取った物や権利の時価を収入金額とします。
なお、「譲渡」という言葉には「タダで譲る」という意味もあるのですが、譲渡所得の計算においても、タダで譲ったり非常に安い値段で譲ったりすると、時価で譲渡したとみなされ収入金額に時価が計上されてしまうケースがあります。
代金をもらっていないのに税金が発生するという、注意が必要な行為です。
しかし、代金をきちんともらわずに不動産を手放すことは通常では考えられません。
これから、業者を通じて不動産を手放したいとお考えの方は「譲渡所得=売却益」というイメージをもっていただければ十分です。
心配な方は、この記事の最後で紹介しています。ぜひ最後までお読みください。
譲渡所得の取得費とは
譲渡所得の取得費とは、「買ったときの費用」です。
ただし、建物の取得費は、「買ったときの費用-減価償却費相当額」が取得費になります。
減価償却費相当額とは
「減価償却費相当額」とは、建物の劣化による減額分です。
建物は土地と異なり、時の経過によって劣化(減価)します。
建物の取得費から減価償却費相当額を減額することで、買ったときはまだ新しかった建物の取得費を、譲渡時の価値に近づけています。
「減価償却費相当額」の計算方法は、実際の計算式を見たほうがわかりやすいです。
後ほど、具体例で解説します。
取得費に該当する主な費用は、下記のとおりです。
- 不動産の購入代金(建物の建築代金、土地の造成費用や測量費なども含む)
- 購入時に支払った仲介手数料、登記費用、不動産取得税、印紙税など
- 借主を立ち退かせるために支払った立退料
- 所有権などを確保するために要した訴訟費用
- 借入金の利子(不動産の使用を開始する日までの期間に対応する分のみ※)
- 既に締結している売買契約を解除して、他の物件を取得することとした場合に支出する違約金
- 当初から土地の利用が目的であった場合の建物の取壊し費用
※「不動産の使用を開始する日までの期間」とは、不動産に入居した日までの期間やその不動産で事業を開始した日までの期間となります。
「収入金額×5%」を取得費としてもよい
自身で購入していない不動産(例:相続や贈与などで取得した不動産)の場合、取得費がわからないことがあります。
こうした場合は、「収入金額×5%」を取得費にします。
取得費が判明していても「収入金額×5%」のほうが有利であれば、これを取得費として構いません。
一般的に「収入金額×5%」は取得費としては少ないため、出来るかぎり本当の取得費を特定したほうが譲渡所得税の負担は少なくて済みます。
関連記事:「市街地価格指数」により不動産取得費を計算できるのか!?
譲渡所得の譲渡費用とは
譲渡費用とは、「売ったときの費用」です。
不動産を譲渡(売却)するために直接要した費用や、売却価格を増加させるために支出した費用が該当します。
- 譲渡時に支払った仲介手数料、登記費用、印紙税など
- 測量費など土地や建物を売るために直接要した費用
- 貸家を売るため、借家人に建物を明け渡してもらうときに支払った立退料
- 建物を取り壊して土地を売ったときの取壊し費用と建物の損失額
- 既に締結している売買契約を解除して、他に譲渡することとした場合に支出する違約金
- 借地権を譲渡する際、地主の承諾をもらうために支払った名義書換料
譲渡所得の具体的な計算例
不動産を売却したときの譲渡所得の計算方法を、具体例で確認します。
【例1:土地の譲渡所得】
- 不動産(土地)を3,000万円で売却
- 取得費(購入代金1,700万円、購入手数料100万円)
- 譲渡費用(売却手数料200万円)
- 譲渡所得: 3,000万円-(取得費1,800万円+譲渡費用200万円)=1,000万円
⇒1,000万円の譲渡所得に対して譲渡所得税がかかります。
【例2:自宅建物の譲渡所得】
- 不動産(自宅の木造建物、10年前に取得)を2,500万円で売却
- 取得費(購入代金2,900万円、購入手数料100万円、減価償却相当額837万円)
- 譲渡費用(売却手数料200万円)
- 譲渡所得:2,500万円-(取得費2,163万円+200万円)=137万円
⇒137万円の譲渡所得が発生しましたが、「3,000万円の特別控除(マイホーム特例)」を適用すれば譲渡所得は0円(譲渡所得税も0円)になります。
特別控除については、後半で解説します。
業務のために使用されている建物の場合、その減価償却費が減価償却費相当額になります。
(参考)国税庁:減価償却のあらまし
【例2】の減価償却相当額は、こちらで計算します。
非業務用建物の減価償却相当額
=建物の取得価額×0.9×償却率×経過年数(6カ月以上は1年に切り上げ)
→3,000万円×0.9×0.031×10年=837万円
非業務用の建物の償却率は下記をご覧ください。
(参考)国税庁HP:「減価償却費」の計算について
譲渡所得税の計算方法とは?
「譲渡所得税」の計算式
譲渡所得税は、その譲渡所得が「長期譲渡所得」にあたるか「短期譲渡所得」にあたるかによって、税率が変わります。
所得の種類 | 保有期間 | 譲渡所得税 |
---|---|---|
長期譲渡所得 | 譲渡した年の1月1日おいて、保有期間が5年を超える不動産 | 20.315% |
短期譲渡所得 | 譲渡した年の1月1日おいて、保有期間が5年以下である不動産 | 39.63% |
※保有期間の判定は譲渡した日ではなく、譲渡した年の1月1日である点に注意してください。
▷長期譲渡所得にあたる場合
譲渡所得税:1,000万円×20.315%=203万1,500円
▷短期譲渡所得にあたる場合
譲渡所得税:1,000万円×39.63%=396万3,000円
短期譲渡所得は長期譲渡所得に比べておよそ2倍の譲渡所得税がかかります。
譲渡するタイミングには十分に注意しなければなりません。
【譲渡所得税の内訳】
- 20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)
- 39.63%(所得税及び復興特別所得税30.63%、住民税9%)
(※)復興特別所得税は、所得税の2.1%です。2037年末まで発生します。
譲渡所得税を減らす節税対策とポイント
不動産の譲渡所得のうちマイホームの売却によって発生したものには、譲渡所得税の負担を減らすためのさまざまな特例があります。
ただし、譲渡する年を含む過去3年内にすでに何らかの特例を適用している場合、対象外になることがありますのでご注意ください。
3000万円の特別控除(マイホーム特例)
マイホームを売却したときの譲渡所得から、最大3,000万円を控除できる特例です。
適用できるのはマイホーム(建物)の所有者で、住まなくなった日から3年後の年の12月31日までの売却が対象になります。
マイホームの保有期間について特に条件はありませんが、もしマイホームの保有期間が売却した年の1月1日において10年を超えていれば、軽減税率の特例も併用できる可能性があります。
マイホーム特例のメリット
- 居住期間に関係なく適用できる(この特例のためだけに入居した場合は対象外)
- マイホーム(建物)が夫婦などの共有名義である場合、各人が特別控除3,000万円を適用できる
マイホーム特例のデメリットや注意点
- 特殊関係にある個人や法人への売却には適用できない(例:親族、自身や親族の同族会社など)
- 住宅ローン控除と併用できない
詳しい適用要件は、こちらをご確認ください。
(参考)(参考)国税庁HP:マイホームを売ったときの特例
買い替え特例
マイホームの買い換えで発生した旧マイホームの譲渡所得の課税時期を、新マイホームの譲渡時まで繰り延べることができる特例です。
たとえば、旧マイホームの譲渡所得4,000万円が発生した際に適用すると、この時点では4,000万円に譲渡所得税はかからず、新マイホームを譲渡するタイミングで新マイホームの譲渡所得と一緒に課税されます。
あくまで課税時期を将来にずらす特例ですので、3,000万円の特別控除を選択したほうが良い場合もあります。
買い換え特例のメリット
- 課税時期を将来に延ばすことができる
買い換え特例のデメリット・注意点
- 譲渡所得への課税がなくなるわけではない
- 住宅ローン控除と併用できない
買い換え特例の詳しい適用要件は、こちらをご確認ください。
なお、上記の扱いは旧マイホームを売った金額よりも高いマイホームに買い替えた場合のものです。
安いマイホームに買い替えた場合の扱いは別になります。
(参考)国税庁:売った金額より少ない金額でマイホームを買い換えたとき
譲渡損失の際の損益通算・繰越控除の特例
マイホームを買い替えて譲渡損失が生じた場合や、住宅ローンのあるマイホームを住宅ローンの残高を下回る価額で売却して譲渡損失が生じた場合に、その損失を他の総合課税などの所得(例:給与所得や事業所得など)と損益通算することができる特例です。
控除しきれなかった損失があれば、翌年以降3年間繰り越すことができます。
譲渡損失の際の損益通算・繰越控除の特例のメリット
- 他の所得が多い人ほど節税効果が高くなる
- 住宅ローン控除と併用できる
譲渡損失の際の損益通算・繰越控除の特例のデメリットや注意点
- 所得がない人にとっては節税効果がない
詳しい適用要件は、こちらをご確認ください。
(参考)国税庁:マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき
(参考)国税庁:住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき
まとめ
譲渡所得や譲渡所得税について、それぞれの計算方法や譲渡所得税の負担を減らすことのできる特例について解説しました。
特例の適用要件は、非常に多く複雑です。
要件を満たしていないのに適用できると思い込んでしまい確定申告をすると、後に多くの税金を追徴されるおそれがあります。
また、特例を適用するには、ただ確定申告をするだけではダメで、定められた計算明細書や必要書類を添付して提出しなければなりません。
そして、譲渡所得には、売却代金をもらっていなくても収入金額が発生するケースがあります。
個人から法人への不動産の無償譲渡や時価2分の1未満の譲渡、そして、離婚時の財産分与において相手に不動産を分与した場合などです。
これらの場合、不動産を「時価」で譲渡したものとみなされ、金銭を受け取っていなくても譲渡した側に譲渡所得が発生します。
このように不動産の譲渡所得には、複雑な特例があるだけでなく、一般常識では納得しづらい税務も存在します。
不動産の譲渡所得や譲渡所得税の計算、不動産の譲渡所得の確定申告は、マルイシ税理士法人にご相談ください。