自筆証書遺言とは?作成ルールと注意したいポイントを解説
目次
自筆証書遺言とは、いくつかある遺言の方式・種類のうち、代表的なもの。2020年4月に始まった保管制度で人気が高まっている遺言作成の方法です。
自筆証書遺言は手軽に作成でき費用がいらないのが特徴ですが、ちょっとしたことで法的に無効になるリスクもあります。ここで自筆証書遺言の作成ルールや注意したいポイントなどを学び、自ら作成できることを目指しましょう。
自筆証書遺言とは?全文が自筆で書かれているもの
自筆証書遺言とは?
遺言作成で一般的な普通方式の3種類のうちの1つが「自筆証書遺言」です。
遺言者の自筆で全文が書かれているのが大きな特徴です。
遺言にはいくつかの方式と種類がある
遺言にはいくつかの種類があります。遺言を作成するにあたっては「どの種類を選ぶか」が重要です。この選択で間違ってしまうと遺言をゼロから作成し直す手間がかかる、あるいは、相続トラブルの火種になりかねません。
まず、遺言の作成方法には「普通方式」と「特別方式」があり、一般的なのは「普通方式」です。さらに、このうち普通方式には次の3種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
上記のうちの自筆証書遺言とはその名の通り、遺言の全文が自筆で書かれたものです。なお、代筆やパソコンで作成したものは自筆証書遺言として法的に効力を持ちません。
自筆証書遺言を作成するメリットとデメリット
自筆証書遺言には、「立会人がいらない」「手数料がかからない」「遺言の存在を秘密にしておける」などのメリットがあります。一方、デメリットは「変造や差し替えのリスクがある」「処分される恐れがある」「無効になる可能性がある」などです。
自筆証書遺言を作成するメリット
自筆証書遺言を普通方式のほかの2つの種類(公正証書遺言または秘密証書遺言)と比較した場合、次のようなメリットがあります。
立会人がいらない
普通方式のほかの2つの種類では、作成時に証人の立会いが必須です。自筆証書遺言の場合、立会人が不要なので遺言者のタイミングで気兼ねなく作成できます。
手数料がかからない
普通方式のほかの2つの種類では、手数料や公証人が必要です。たとえば、公正証書遺言の場合、数万円以上の費用がかかる ケースが多いです。これに対して、自筆証書遺言は本人の自筆で作成するため手数料が一切かかりません。
遺言の存在を秘密にできる
自筆証書遺言は、作成時に証人の立会いが不要なため、遺言の内容はもちろん、遺言の存在自体を完全に隠しておけます。何らかの理由で遺言の存在を知られたくない場合は、自筆証書遺言の選択がよいでしょう。
自筆証書遺言を作成するデメリット
自筆証書遺言を普通方式のほかの2つの種類(公正証書遺言または秘密証書遺言)と比較した場合、次のようなデメリットがあります。
変造や差し替えのリスクがある
自筆証書遺言は、遺言者が生前の間、または亡くなった後に内容を書き変えられたり、偽物と差し替えられたりするリスクがあります。ただし、これは封印をしておけば家庭裁判所での検認手続きが必要になるため、ある程度のリスク回避ができます(封印をしても遺言の差し替え・処分のリスクはあります)。
処分される恐れがある
自筆証書遺言はその存在を秘密にしておけるのがメリットですが、逆にいえば亡くなった後、周囲に存在がわからないままになるデメリットがあります。あるいは、発見した相続人に不利な内容になっていた場合、処分される恐れもあります。
注意点を守らないと無効になる可能性がある
自筆証書遺言は、文面や書式にある程度の自由度が認められているものの、細かい注意点があり、これを守らないと法的に無効になる可能性があります(注意点については後述)。一例では、日付・署名・押印がないなどです。また、修正箇所がある場合、法律に沿った方法で訂正しないと無効になってしまいます。
新しい制度で上記のデメリットが解消できる
上記のように自筆証書遺言は、変造や処分されたりするリスクがありますが2020年7月から始まった「自筆証書遺言書保管制度」を利用すれば、これらのデメリットは解消されます。
この制度を使えば、遺言者がなくなった後にしか相続人はその内容を知ることができません。保管のための費用は1通につき3,900円で済みます。なお、保管は法務局の本局・支局・出張所などで行えます。
自筆証書遺言の書き方と作成ルール
自筆証書遺言の手順は、4ステップ(道具を用意する、下書きをする、清書する、保管する)です。自筆証書遺言の作成にあたって必要な書類は、通帳や登記簿などです。
自筆証書遺言を書く際のルール
自筆証書遺言では、遺言の内容だけでなく日付や署名など細かい部分も自筆で書く必要があります。合わせて、押印も欠かせません。
ただし、先の法改正によって財産の内容などをまとめた財産目録はパソコンなどによる作成が認められるようになりました。
遺言で定められる項目とは
遺言で定められる内容は「誰に、どの財産を(どれくらい)相続させるか」ということです。
「誰に相続させるか」の部分では、身近な家族であれば「長男太郎」のように端的な記載がわかりやすいでしょう。それ以外の受遺者が対象の場合、姓名、生年月日、その人の本籍などを記載すると明確です。
「どの財産を」の部分では、不動産であれば登記記録を示した上で「誰に相続させるか」を示すと勘違いがありません。また、預貯金であれば、金融機関名・支店名・口座番号などを記載するとわかりやすいでしょう。
自筆証書遺言の作成の手順
自筆証書遺言を作成するにあたっては、次の手順例を参考にするとスムーズです。
手順1:道具を用意する
「誰に、どの財産を(どれくらい)相続させるか」を整理できたら、自筆証書遺言の作成に使う道具を用意します。といっても、自筆証書遺言の作成で使うのは用紙や筆記用具くらいで、どのようなものを選ぶかは自由です。
ただ、用紙については、相続手続きの際などにコピーをとったりほかの書類と整理したりするケースもあるため、A4サイズ(またはB5サイズ )が無難です。筆記用具は他者に修正されるリスクのある鉛筆やにじみやすい水性ボールペンなどは避けたほうがよいです。
手順2:下書きをする
自筆証書遺言は作成した後に修正することもできますが、いきなり作成するのではなく下書きをしてから清書するのが効率的です。可能であれば、下書きの段階で専門家(弁護士や司法書士など)に書式や内容をチェックしてもらうのが安全です。
手順3:清書する
自筆証書遺言には、「押印する」「日付を入れる」などの注意点があります。それを守りながら清書しましょう(作成時の注意点については後述)。
手順4:保管する
作成した遺言書をどのような状態・場所で保管するかは自由です。ただ汚損の防止や秘密の保持を考えると、封筒に入れて保管するのが望ましいでしょう。また、前出の「自筆証書遺言書保管制度」を利用すれば変造や処分されるリスクがなくなります。
なお、自筆証書遺言の場合、遺言者が亡くなったときに発見者や保管者などが家庭裁判所に提出して検認手続きをとることが義務付けられています。また、封印された遺言書は、すべての相続人が立ち会わなければ開封できない決まりになっています。
自筆証書遺言の作成に必要な書類
遺言書に財産内容を記載したり、財産目録を作成したりするためには、次のような書類が必要です。
- 預貯金関連:通帳(金融機関名、支店名、口座番号など)
- 不動産関連:登記簿(全部事項証明書)
- 株式やFX関連:証券会社、保有銘柄、取引状況などがわかるもの
- 会員権関連:ゴルフ会員権やリゾート会員権などの証書
- その他:生命保険の証書や絵画の鑑定書 など
自筆証書遺言は無効になりやすい?作成時の注意点
前述の通り、自筆証書遺言には「無効になりやすい」というデメリットがあります。無効になれば遺言者の意思が反映されない相続になるため、作成する段階で注意点を意識することが大事です。
注意点1:全文を自筆で書く
遺言の全文を自筆で書くことは、自筆証書遺言の絶対条件です。「字が下手だから」「面倒だから」といった理由で代筆やパソコンで自筆証書遺言を作成することは法的に認められていません。どうしても自筆による作成が難しいなら、他の種類を選ぶべきでしょう。
注意点2:日付と署名を入れる
ほかの部分が完璧でも「日付と署名」が抜ければ、自筆証書遺言としては法的に無効になってしまいます。日付と署名については「遺言者の自筆で書かれていること」もポイントです。スタンプなどで代用することはできません。
注意点3:押印する
押印も自筆証書遺言に必須の要素です。この押印は実印以外でも認められていて、認印や拇印などでも構いません。
注意点4:決まった方法で加除訂正する
いったん作成し終わった自筆証書遺言を加筆・削除・訂正(加除訂正という)する場合、「場所を示す、付記する、署名する」などを行うことが民法で定められています。 この決まりを守らず加除訂正を行うと「その変更はなかったもの」として取り扱われるため注意が必要です。一般的に望ましいとされる加除訂正の方法は次の通りです。
加除訂正の内容 | 方法 |
---|---|
加筆 | 加筆したい箇所に吹き出しを入れて加筆内容を記載、押印する |
削除 | 削除したい箇所を二重線で消し押印する |
訂正 | 訂正したい箇所を二重線で消し変更内容を記載、押印する |
上記に加えて、たとえば加筆をした場合は「この行2字加入」といった具合に付記したうえで署名します。
まとめ
自筆証書遺言のこれまでの専門家の一般的な見解は、変造や処分されるリスクがあるため公正証書遺言の方が好ましいというものでした。しかし、2020年7月より始まった「自筆証書遺言書保管制度」によってこれらのリスクがなくなり人気が高まっています。日本経済新聞によると、制度導入から9ヶ月間で1万6,655件も導入されている人気ぶりです。
一方、自筆証書遺言は作成時の注意点を守らないと、法的に無効になるリスクがあることには変わりありません。弁護士や行政書士などの専門家にチェックしてもらったうえで保管制度を利用することを推奨いたします。