不動産投資を相続税対策として行うメリット・デメリットとは?有効方法や注意点も解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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相続税対策として不動産投資が役立つ理由

現金2億円を保有して相続を迎えた場合と、生前にその2億円を不動産投資に充てた場合、その相続税は、後者の方が安くなります。
理由は、不動産の「相続税評価額」にあります。

不動産の相続税評価額は低くなりやすい

相続税の課税対象となる金額は、各財産の「相続税評価額」から計算します。
現金の場合は、その額面どおりの価値が相続税評価額となりますが、不動産の相続税評価額は、基本的に購入した額よりも低くなります。
目安としては、土地が購入額の8割、建物が5~6割ほどです。

不動産を賃貸するとさらに低くなる

相続の時、保有する不動産を賃貸している場合、その相続税評価額はさらに下がります。
その上、賃貸物件の敷地や、駐車場業や自動車駐車場業を営んでいる土地であれば、小規模宅地等の特例の「貸付事業用宅地等」にあたる可能性があります。
「貸付事業用宅地等」の要件を満たせば、200㎡の部分まで、土地の評価額は50%になります。
もともと購入額より低くなりやすい不動産の相続税評価額に、賃貸による減額、小規模宅地等の特例による減額が重なることによって、課税対象となる金額が、購入額の4割程度まで下がることもあります。

不動産投資の相続税対策は効果絶大

もし2億円を投資した不動産の相続税評価額を、購入額の半分に抑えることができた場合、不動産投資をしなかった場合と比べて、相続税はどのくらい安くなるでしょうか。
「2億円の現金」を相続した場合と「2億円の不動産」を相続した場合で、他の財産や債務控除がないと仮定し、どのくらい相続税が変わるのかを確認してみましょう。
法定相続人は、長男と長女の2人とします。

【例1】
・2億円の現金を相続した場合
→相続税の総額は3,340万円です。(財産を取得した各人が、その取得分に応じて負担します)

【例2】
・被相続人が生前に2億円を投資した不動産(相続税評価額1億円)を相続した場合
→相続税の総額は770万円になります。(税負担は例1に同じ)

❗【例2】は【例1】の半分の金額から相続税を計算しましたが、その結果、相続税は半分どころか4分の1未満になっています。
これは、相続税の税率が10%~55%の超過累進税率を採用していることが主な理由になります。
超過累進税率では、課税対象のうち金額の低い部分には低い税率が適用されますが、高い部分にはより高い税率が適用されます。
この税率のしくみから、不動産の購入によって相続税評価額を減らし、課税対象を低く抑えることは、効果抜群の相続税対策なのです。

相続税対策に有効な不動産投資

相続税対策に特に有効な不動産投資の例をご紹介します。

地価の高い土地を狙った不動産投資

相続税対策として有効な不動産投資は、売買価格と相続税評価額の差がなるべく大きい不動産を購入することです。
特に大都市圏の中心部など地価の高いエリアにある土地は、土地の相続税評価額を計算するための路線価と、実際の取引価格との差が開きやすい傾向にあります。
路線価とは、宅地の相続税評価額を計算するための価格で、年に一回、地価公示価格(売買の指標になる価格)等の8割程度を目安に、国税庁が決定しています。
このことが、土地の相続税評価額が購入額の8割になる主な理由です。
しかし、地価の高いエリアでは、取引価格が高騰しやすく、投資額と相続税評価額との差が通常よりも大きくなることがあります。

借入れを受けて実行する不動産投資

銀行などから融資を受けて行う不動産投資は、特に有効な相続税対策です。
相続税の計算では、被相続人(亡くなられた人)の借金などマイナスの財産を相続すると、そのマイナスを、他のプラスの財産から控除できるルールがあります。
これを「債務控除」といいます。
たとえば、相続税評価額1億円の不動産と、借入金7,000万円を相続した場合、相続税の課税対象になるのは、3,000万円(1億円-7,000万円)になります。
他に財産がなければ、相続税の基礎控除額と合わせて、相続税が0円になることもあります。
ただし、借入金を返済しながら資金繰りを悪化させないためには、しっかりとした経営計画が必要になります。

空き室リスクを軽減する不動産投資

不動産投資によって、相続税の節税には成功したとしても、まったく賃貸収入が得られず管理コストばかりかかる不動産では、真の成功とはいえません。
特に、アパートやマンションのような賃貸物件とその敷地は、賃貸割合(独立して賃貸できる部屋の床面積のうち、相続時に賃貸していた面積の割合)が0%(すべて空き室の状態)であれば、賃貸による評価減もありません。
空き室になりにくい、収益性も兼ね備えた不動産投資をする必要があります。

相続税対策として不動産投資を行うメリット・デメリット

相続税対策として不動産投資を行うメリット

不動産は相続税評価額が低い

不動産の相続税評価額は、不動産投資の金額よりも基本的に低くなります。
土地は投資額の約8割、建物は5~6割ほどが目安です。

不動産投資なら節税効果がさらにアップ

自宅として使用する不動産よりも、賃貸している不動産の方が、不動産の相続税評価額をさらに下げることができます。
不動産投資は、不動産の賃貸収入をリターンとする投資法ですから、相続税対策と非常に相性の良い方法といえます。

小規模宅地等の特例でさらに減額も

賃貸物件の敷地や駐車場経営をしている土地は、要件を満たせば、小規模宅地等の特例で200㎡(※)までの部分を50%減額することができます。
(※)特例の対象になる土地が複数あるときは、限度面積の調整が必要になることがあります。

賃貸収入が得られる

不動産投資から得られる賃貸収入によって、さらに財産を増やすことができます。
その分、相続税の負担も増えますが、金銭による収入が増える分には、相続人が納税で困ることもありません。

相続税対策として不動産投資を行うデメリット

不動産投資にはコストがかかる

不動産の購入時には、業者への仲介手数料、不動産取得税、登録免許税などの登記費用がかかります。
また、保有している期間中には、固定資産税、清掃料、火災保険料、修繕費など不動産の維持管理費が発生し続けます。

納税資金不足になりやすい

相続税の納税は、原則、金銭による一括納付で行わなければなりません。
不動産の他に、すぐに現金化できる他の資産が相続できない場合、不動産を相続した人がその相続税を支払えないことがあります。
延納や物納といった代わりの納税手段では、どうしても損をする場合が多いため、安易に選択することは得策ではありません。
不動産投資による相続税対策をする際は、納税資金まで見通し、バランス良く資産を保有することが大切です。

遺産分割でもめやすい

相続財産のほとんどが不動産である場合、複数の相続人で公平に遺産を分けることが難しくなります。
たとえば、相続人が長男と長女の2人で、遺産が、不動産1億円、現金1,000万円の合計1億1,000万円だった場合、これを半分にするのは難しい話です。
もし長男が不動産を1人ですべて相続してしまうと、長女はそれを不公平に感じることでしょう。
遺言によって叶えることもできますが、このケースでは、長男が長女の遺留分を侵害してしまいますので、長女から長男に、遺留分侵害額の金銭請求が行われる可能性があります。
相続人同士で争いにならないよう、前項の納税資金の対策と一緒に、資産全体とのバランスを考えて不動産投資をすることが重要です。
高額な不動産投資は避けたいけれど、不動産による相続税対策のメリットは享受したいという場合は、不動産小口化商品を検討する選択もあります。

投資額を回収できないリスクもある

不動産投資には、当然、投資額を回収できないリスクもあります。
いくら節税になるからといって、よく調査していない不動産に手を出してしまうと、借り手が見つからないまま、借入金の返済や維持費を支払い続ける事態になるかも知れません。
また、不動産の賃貸経営には、入居者の家賃滞納リスク、建物の劣化や家賃下落のリスク、災害リスクなど、不動産独自のリスクがつきまといます。
こうしたリスクをよく理解した、賃貸経営の専門家に相談しながら進めることが重要です。

相続税対策として不動産投資を行う際の注意点

不動産投資は、節税効果の高い相続税対策です。
しかし、明らかに相続税の支払いを逃れるために行った租税回避行為がある場合や、相続税評価額と実際の取引価格との差があまりに大きい場合は、税務調査によって、相続税評価額に基づく相続税の計算が認められないことがあります。
節税効果など都合の良い部分だけを前面に押し出した情報を鵜呑みにしたり、不動産の税務リスクに関する情報のアップデートをしていない相手からのアドバイスを信じてしまったりすると、こうした落とし穴にはまる可能性があると思いますので、注意してください。
それでは、なぜ不動産の相続税評価額による税計算が認められないことがあるのか、以下でご説明します。

財産評価通達6項「この通達の定めにより難い場合の評価」とは

相続した不動産は、建物であれば固定資産税評価額、宅地であれば路線価方式か倍率方式で評価します。
これは、国税庁の「財産評価通達」において、このように評価するよう定められているからです。
「財産評価通達」とは、相続などで取得した財産の評価方法を定めた、国税庁によるルールブックになります。
世の中にまったく同じ不動産は存在しませんが、それを1つ1つ鑑定するのは大変なので、ある程度、画一的に評価できる方法を示してくれていることが特徴です。
そして、「財産評価通達」で評価すると実際の価値と大きくかけ離れてしまうような想定外のケースが出てきた場合には、それに包括的に対応するためのルールとして、財産評価通達の6項があります。
6項では、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と定めています。

6項で否認される可能性のあるケースとは

相続税評価額と実際の取引価格との乖離があまりに大きい場合、6項によって、相続税評価額による税計算を否認されることがあります。
かつて、富裕層の相続税対策としてよく紹介されていたタワマン税制も、この6項で否認されたケースがあります。
また、相続の前後の短い期間で不動産の売買をすると租税回避行為とみなされ、6項で否認される可能性があります。
過去には、売買契約をする能力のない被相続人の名義を使用して不動産を購入し、相続開始後すぐにその不動産を売却したケースについて、「相続開始日前後の短期間に一時的に財産の所有形態が不動産であったに過ぎない」とされ、不動産の相続税評価額が認められなかった裁決事例があります。

【参考】国税不服審判所:平成23年7月1日裁決事例の要旨等
https://www.kfs.go.jp/

不動産投資以外に活用できる相続税対策

不動産投資以外の、効果的な節税対策もご紹介いたします。

生前贈与

相続税の課税対象になる財産を、お子さんなどに贈与し,生前のうちに課税対象を減らす方法です。
暦年課税の基礎控除額、住宅取得等資金の贈与、教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金の一括贈与など、贈与税が非課税になる方法で贈与することがポイントになります。

生命保険

被相続人が保険料を支払っていた生命保険から、被相続人の死亡による死亡保険金が支払われた場合、その保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象になります。
しかし、受取人が相続人である場合、「法定相続人の数×500万円」まで非課税で受け取ることができます。
そのままだと相続税の課税対象になってしまう現金や預貯金などから保険料を支払い、死亡保険金の原資にすることで、課税財産を非課税財産に振り替えるイメージです。

養子縁組

相続税は、法定相続人の数によって相続税がかからない金額が増えるしくみになっています。
このしくみを利用すれば、孫などと養子縁組をすることで法定相続人を増やし、相続税のかからない金額を増やすことが可能です。
ただし、相続税の計算において法定相続人に加えることのできる養子の人数には上限があります。

まとめ

正しい知識で行う不動産投資は、相続税対策として非常に効果が高く、安定した収入源をお子さんなどに残すこともできる最良の選択です。
不動産投資を始めるには、不動産と税務の両方に精通した専門家に相談しながら対策を進めていくことがもっとも安全といえます。
どのように不動産投資をしたらいいか迷った時は、不動産と税務の両方に精通した専門家にご相談ください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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