不動産経営の収入・年収を知りたい〜種類別の実例あり〜

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

不動産経営をするにあたり、「どれくらいの収入・年収が得られるのか知りたい」という人も多いでしょう。本稿では、そもそも不動産収入の仕組みがどうなっているかを前半で解説。その上で実際の収入・年収を物件の種類別に見ていきます。

不動産収入の基本的な仕組みについて

不動産経営をはじめる前段階で、「不動産収入の基本的な考え方」を知ることは大切です。「どれくらい儲かるのか」という表面的な部分だけしか見ていないと、実際に経営をはじめたときに「こんなはずじゃなかった」ということになりがちです。

不動産経営の収入は大きく2種類ある

不動産経営で得られる収入には、インカムゲインと呼ばれる「家賃収入」とキャピタルゲインと呼ばれる「売買差益」の2種類があります。

「家賃収入」は入居者がいる限り、毎月定額が入ってくるもの。コツコツと不労所得がたまっていく魅力があります。不動産経営が「ローリスク・ローリターン」といわれるのは、この家賃収入があるためです。

「売買差益」は、収益物件の購入価格と売却価格の差益を指します。たとえば、4,000万円で購入した収益物件を3,500万円で売却した場合、キャピタルゲインはなかったということになります(500万円の差損)。逆に、4,000万円超で売却できたときのみキャピタルゲインが発生します。

不動産所得は、家賃収入から経費と税金を引いて計算

一般的に不動産経営の年収は、2種類の収入のうち「家賃収入」で考えるのが基本です。なぜなら「売却差益」は、実際に売却してみないとどれくらいの差益が出るのか(または差損が出るのか)が読みにくいからです。

ただし、家賃収入で不動産経営の年収を考える場合でも、家賃収入がそのままリターンになるわけではありません。家賃収入から経費と税金を差し引いた手残りが最終的な不動産所得になります。

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不動産経営での収支と支出の内訳

不動産経営による所得は「収入−経費・税金」で表せます。その内訳を見てみましょう。

不動産経営で得られる収入の項目とは?

不動産経営で得られる収入には、家賃以外のものもあります。礼金と更新料は賃貸物件全般で発生する収入、それ以外は一棟物件で得られる収入です。

  • 礼金(新規の入居者と契約を交わしたときに発生)
  • 更新料(既存の入居者が契約更新したときに発生)
  • 共益費(一棟物件の共有部を維持管理する費用)
  • 駐車場(一棟物件の敷地を駐車場にしたときの収入)
  • その他(敷地内に設置した自販機収入など)

ただし、収入がそのまま手元に残るわけではない

家賃の収支を考える上で欠かせないのは、「家賃がそのまま手元に残るわけではない」ということです。あくまでも家賃などの収入からランニングコスト(毎月・毎年発生する費用)を差し引いて残った分が手取り収入になります。

不動産経営のよくある失敗は、この費用を甘く見てしまうパターンです。「こんなにたくさんの項目があるのか」「こんなに費用がかかるのか」と後で嘆くことのないよう、検討段階で費用に関する知識を備えておきましょう。

不動産経営で発生する費用の項目とは?

では、不動産経営にかかる(経費計上できる)主な費用の項目を見ていきましょう。「意外に数多くの費用があるな、大変そうだな…」と感じる人が多いのではないでしょうか。これらを管理するのは大変ですが、実際には賃貸管理会社や税理士がフォローするのでオーナー自身の手間はそれほどかかりません。

  • 管理委託手数料(管理会社に支払うもの)
  • 広告費(AD)
  • 税金(固定資産税や都市都市計画税など)
  • 減価償却費
  • 管理費や修繕積立金
  • ローン金利
  • 修繕費
  • 損害保険料(該当する年の分に限る)
  • 税理士の報酬
  • その他、不動産経営に必要と思われるもの(業界誌や関連書籍の代金など)

関連記事:アパート経営の経費とは?必要経費の種類や節税対策のポイント・注意点を解説

不動産経営のキャッシュフロー(収入・ 年収)例

不動産経営のキャッシュフローについては数多くのパターンがあるため、一概にいえない面もあります。たとえほぼ同じ物件を購入してもローンを利用しているか、金利や管理費をどれくらい払っているかなどでキャッシュフローは変わります。あくまでも参考としてご覧いただければと思います。

※下記はあくまでも減価償却費や所得税等の税金の支払いを含めないキャッシュフローです。

区分マンションのキャッシュフロー例

東京23区の新築マンション(物件価格・約3,500万円)を頭金500万円、金利1.7%・返済期間35年で購入したときのキャッシュフロー例です。

【年間手取り年収:27,468円】
1ヵ月の家賃収入:11万500円※サブリース契約
1ヵ月の支出:10万8,211円
月々の収支: 2,289円
(参照:某不動産投資サイト「新築区分マンションのシミュレーション」)
※ちなみに、この収支例では1年目はプラス収支ですが、2年目以降はマイナス収支となります

補足をすると、わずかなプラス収支、またはマイナス収支というのは区分マンションでよくある収支パターンです。儲からないのに不動産経営をする理由は、ローン完済後に手取り収入が増えるため、将来の私的年金にできるからです。

戸建て住宅のキャッシュフロー例

固定資産税の安い地方都市で戸建て物件を経営した場合のキャッシュフロー例(3棟あたり)です。収益物件を現金で購入しているため、ローン支払いがなく高利回りなのがポイントです。

【年間手取り額:225万6,000円】
1ヵ月の家賃収入:21万円
1ヵ月の支出: 2万2,000円
(税金関連、管理委託料、客付け会社へのお礼などの総計)
月の収支:18万8,000円

一棟アパートのキャッシュフロー例

有名ハウスメーカーで新築アパートを建てた場合のキャッシュフロー(収入)例です。所有する部屋数が多い分、手取り収入が大きいのが魅力です。

【年間手取り額:530万4,900円】
1ヵ月の家賃収入:93万8,083円(礼金含む)
1ヵ月の支出:49万6,008円
(税金関連、共用の水道費など、管理委託料などの総計)
月の収支: 44万2,075円
(参照:某ハウスメーカー「収支計画書の一例」)

関連記事:不動産投資で重要なキャッシュフローとは?計算方法や増やし方7選を解説!

不動産経営の収入以外のメリット

先の例で見たように、不動産経営によるキャッシュフローはさまざまなパターンがあります。キャッシュフローは重要ですが、それ以外のメリットも含めて不動産経営をするべきか否かを判断するべきでしょう。

資産のリスクヘッジになる

不動産経営のメリットの1つに、不景気や経済危機に強いことがあります。たとえば、株式投資などの金融資産は経済危機があると暴落してしまいます。リーマンショックやコロナショックがその代表例です。

このような経済危機下でも、(住宅系の)収益物件の家賃収入はほぼ影響を受けませんでした。不動産投資と金融商品のボラティリティ(値動き)は連動しないため、ポートフォリオに収益物件を組み込んでおくとリスクヘッジになります。

節税効果がある

不動産経営は、相続税の節税効果があります。これは資産家にとって大きなメリットです。相続税では、資産を現金で所有するより不動産で持っていた方が相続税評価額が下がるので相続税の節税が可能です。

インフレ局面で資産価値を維持しやすい

新型コロナ感染の経済危機を乗り越えるため、世界中で国債が発行されました。この影響で今後、「インフレ局面に突入するのでは」という識者は多いです。

インフレになれば、現金や預金の価値は下落するのが一般的です。しかし、現物資産である不動産の価値はインフレとともに上昇する可能性が高いと考えられます。そのため、収益物件にはインフレになっても資産価値を保持しやすいメリットがあると考えられます。

この他、不動産経営には、団体信用生命保険の加入による「生命保険のような効果」もあります。

不動産経営では税金の計算も重要

不動産経営の収支において、税金の計算はとても重要なテーマです。税金計算が誤ったり、節税手法を使わなかったりすると、想定するキャッシュフローがズレてしまいます。

オーナーとして税金の種類や大まかな計算式を知っておくことは必須です。しかし実際の計算となると、手間がかかります。現実的には、税理士に任せるのがスムーズですし精度が高いでしょう。

ただ一つ注意したいのは、税理士であれば「不動産所得の計算に慣れているのだろう」という思い込みです。税理士には、さまざまな専門分野があります。不動産に強い税理士であれば計算に慣れていますが、不動産分野に不慣れな税理士だと間違う可能性も否定できません。やはり、選ぶのであれば不動産に強い税理士でしょう。

関連記事:不動産ビジネスには事前準備が大切?不動産ビジネスの全体像と投資に必要な準備

まとめ

ここでは不動産経営の収入・年収をテーマに解説してきました。冒頭でもお話ししましたが、不動産経営のリターンには、家賃収入(インカムゲイン)と売買差益(キャピタルゲイン)の2種類があります。

不動産経営による収入・年収というと、家賃収入の方に目がいきがちですが、視点を広げて、売買差益を含むトータルの収支を意識することも大切です。その意味では、たとえ収益物件の長期保有を前提にしていても、出口戦略(売却)をイメージしながら収益物件を選ぶ姿勢も必要でしょう。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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