小規模宅地等の特例の減額計算やケース別事例を紹介|併用時の計算や注意点も解説

この記事の執筆者 税理士 長谷川 翔

マルイシ税理士法人の税理士です。不動産オーナー様や不動産会社様の、「不動産と相続」の問題解決のサポートに努めております。法人の会計・税務や個人の不動産所得等の確定申告、売却時の譲渡税申告、相続税申告、贈与税申告など多数の申告・相談業務を行っております。

【長谷川税理士の見解】
・小規模宅地等の特例の対象となる土地が複数ある場合、どの土地を選択するかで納税額が大幅に異なるため、綿密なシミュレーションを行って有利選択をするべきである。

・特例の対象となりうる土地を相続した相続人が複数いる場合、遺産分割協議とは別に、小規模宅地等の特例の適用について全員の同意が必要となる。

同意が得られない場合には、小規模宅地等の特例が受けられないため注意する。

マルイシ税理士法人の税理士の長谷川です。

相続税の小規模宅地等の特例は、一定の土地を相続した際に、最大80%の土地の評価減を受けることができる制度です。

一般的に相続が発生した際、相続財産のうち土地の占める割合が最も大きいため、小規模宅地等の特例を適用できると、相続税を大幅に減らすことができます。

要件を満たす土地が複数あるときは併用して適用することも可能ですが、限度面積が定められているため、特例対象地の面積が上限を超える場合には、適用する土地の順番も考慮しないといけません。

本記事では、小規模宅地等の特例の計算方法および、ケース別の適用事例について解説します。

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小規模宅地等の特例について

小規模宅地等の特例は、被相続人(亡くなった人)または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族が相続開始直前において、事業用や居住用として利用していた宅地等を相続した際に適用できる制度です。

特例対象地の相続税評価額を最大80%減額することができるため、1㎡あたりの単価が大きい土地に対して適用するほど節税効果が高くなります。

一方、相続開始直前における宅地等の利用区分によって適用要件は異なり、減額割合や限度面積も利用区分ごとに定められています。

そのため、小規模宅地等の特例を適用する際は、適否判定はもちろんのこと、適用時の計算誤りにも注意しなければなりません。

【小規模宅地等の特例の限度面積・減額割合】

種類 対象地の例 限度面積 減額割合
特定居住用宅地等 自宅の敷地 330㎡ 80%
特定事業用宅地等 事業用の敷地
(貸付用を除く)
400㎡ 80%
特定同族会社事業用宅地等(※) 同族会社の敷地
(貸付業を除く)
400㎡ 80%
貸付事業用宅地等 貸付用の敷地 200㎡ 50%

※内容の詳細は本記事では割愛します。

小規模宅地等の特例を適用する際の控除額の算出方法と適用要件を分かりやすく説明

小規模宅地等の特例の減額割合と限度面積は利用区分ごとに異なるため、それぞれの適用要件の概要と計算方法をご紹介します。

(注)同一生計親族の居住用又は事業用に係る小規模宅地等特例の説明は割愛します。

特定居住用宅地等の減額計算のしかた

特定居住用宅地等は、被相続人が住んでいた自宅の敷地に対して適用できる制度で、減額割合は80%、限度面積は330㎡です。

特定居住用宅地等は取得者によって適用要件が変わる特徴があり、配偶者は対象地を相続するだけで特例を受けられるのに対し、同居親族は居住要件と所有要件を満たす必要があります。

別居親族は、被相続人の配偶者および同居親族がいないケースでしか特定居住用宅地等を適用できないため、同居親族等がいる場合で別居親族が自宅の敷地を相続してしまうと、特定居住用宅地等は適用できません。

敷地面積が330㎡を超える場合、限度面積までの部分は減額補正を適用できますが、超えた部分は減額補正の対象外となります。

自宅の敷地がおおよそ100坪以内であれば、敷地全体に特例を適用できるため、被相続人が自宅の所有者となっていたときは、特定居住用宅地等の適否を確認してください。

【特定居住用宅地等の計算例】
・自宅の敷地面積 500㎡
・土地の相続税評価額 5,000万円
※特例要件はすべて満たしているものとする
<計算式>
5,000万円×(330㎡÷500㎡)×80%=2,640万円(控除額)
5,000万円-2,640万円=2,360万円(控除後の評価額)

特例対象地の面積が小規模宅地等の特例の限度面積を超える場合には、土地全体の評価額が同額であったとしても、全体に特例を適用できるケースより減額される額は小さくなります。

上記の計算例では、特定居住用宅地等の適用対象となる土地の面積が330㎡を超えるため、330㎡までの評価額は80%減額できますが、330㎡を超えた部分には減額補正は適用されません。

特定事業用宅地等の減額計算のしかた

特定事業用宅地等は、被相続人が事業用(不動産貸付用以外)の敷地として利用していた土地に対して適用できる制度で、減額割合は80%、限度面積は400㎡です。

被相続人の事業内容が不動産貸付業のときは、「貸付事業用宅地等」の対象となりますので、特定事業用宅地等は適用できません。

節税効果は小規模宅地等の特例の中で最も高いですが、特例を適用する相続人は特例対象地を取得後、相続税の申告期限まで所有し、引き続き被相続人の事業を営むことが求められます。

【特定事業用宅地等の計算例】
・事業用の土地面積 500㎡
・土地の相続税評価額 5,000万円
※特例要件はすべて満たしているものとする
<計算式>
5,000万円×(400㎡÷500㎡)×80%=3,200万円(控除額)
5,000万円-3,200万円=1,800万円(控除後の評価額)

事業用の敷地は面積が広いことが多く、特例対象地が限度面積を超えることも珍しくありません。

上記の計算例における特例対象地の面積は500㎡ですので、400㎡までの土地評価額は80%減額、残りの100㎡は減額補正の対象外となります。

貸付事業用宅地等の減額計算のしかた

貸付事業用宅地等は、被相続人が不動産貸付業として利用していた土地に対して適用できる制度です。

被相続人が営んでいた貸付事業を引き継いだ相続人が適用できる制度なので、相続税の申告期限まで特例対象地を所有しているだけでなく、事業を継続することも適用要件となっています。

減額割合は50%、限度面積は200㎡と他の小規模宅地等の特例と比較すると節税効果は低いため、複数の土地が小規模宅地等の特例の要件を満たすときは、適用する優先順位は下がります。

【貸付事業用宅地等の計算例】
・貸付事業用の土地面積 500㎡
・土地の相続税評価額 5,000万円
※特例要件はすべて満たしているものとする
<計算式>
5,000万円×(200㎡÷500㎡)×50%=1,000万円(控除額)
5,000万円-1,000万円=4,000万円(控除後の評価額)

同条件で適用する特定居住用宅地等や特定事業用宅地等に比べると、控除額は小さくなりますが、相続税評価額を1,000万円単位で減額できる制度は希少です。

特例対象地の1㎡あたりの評価額が大きい場合には節税効果も高くなるため、条件次第では貸付事業用宅地等を先に適用した方が節税になるケースもあります。

小規模宅地等の特例を適用する際の計算上の注意点

小規模宅地等の特例の要件をクリアすれば、相続税評価額を大幅に引き下げることができますが、適用する際には次の点に注意してください。

相続税がゼロになったとしても相続税の申告は必要

小規模宅地等の特例を適用したことで遺産総額が相続税の基礎控除額を下回り、相続税が無税になることもありますが、納税額がゼロになったとしても、小規模宅地等の特例を適用する際は必ず相続税の申告書を提出しなければなりません。

小規模宅地等の特例は相続税の申告書に特例を適用する旨を記載し、必要書類を揃えて提出することで、はじめて適用が認められます。

相続税の申告書が未提出の場合、小規模宅地等の特例の要件を満たしていたとしても特例を受けていないのと同じ状態となりますので、特例を適用する際は納税額の有無に関係なく、相続税の申告手続きを行うことになります。

小規模宅地等の特例を控除した後の相続税の計算

小規模宅地等の特例は土地の相続税評価額を一定割合減額する制度なので、残った部分の相続税評価額は通常どおり課税の対象となります。

400㎡の土地(1㎡あたり10万円)に対して特定居住用宅地等を適用する場合、330㎡までの部分は80%減額補正の対象となるため、土地単価は2万円まで下がります。

減額補正が適用されない70㎡部分は1㎡あたり10万円の単価で計算し、特例適用後の評価額と他の財産の合計額が相続税の基礎控除額を超えるか確認してください。

遺産総額が基礎控除額以内に収まれば相続税は課されませんが、基礎控除額を超える場合には、超過部分に対して相続税が課されることになります。

小規模宅地等の特例を併用適用する際の計算例

小規模宅地等の特例の要件を満たしていれば、複数の土地に対して適用することもできますが、限度面積の計算方法は併用適用する土地の利用区分によって変わります。

特定居住用宅地と貸付事業用宅地を併用する場合

適用する小規模宅地等の特例に貸付事業用宅地等が含まれている場合、次の計算式で限度面積を算出します。

【貸付事業用宅地等を適用する場合の計算式】

適用する特例制度の種類 限度面積の計算式
①特定居住用宅地等
②特定事業用宅地等
③特定同族会社事業用宅地等
④貸付事業用宅地等
①×200/330 +(②+③)×200/400+④≦200㎡

特定居住用宅地と貸付事業用宅地を併用適用する場合でも、特定居住用宅地等として適用できる面積の上限は同じですが、限度面積の計算方法が複雑になります。

たとえば、貸付事業用宅地等の土地100㎡を先に適用する場合、特定居住用宅地等として適用できる限度面積は165㎡です。

【貸付事業用宅地等(100㎡)を先に適用した場合の特定居住用宅地等の限度面積】A(特定居住用宅地等)×200/330+100㎡(貸付事業用宅地等)≦200㎡
⇒A≦165㎡(特定居住用宅地等の限度面積)

特定居住用宅地等の対象となる土地の面積が200㎡あったとしても、貸付事業用宅地等を先に適用してしまうと、35㎡(200㎡-165㎡)部分は減額補正を適用できません。

反対に、特定居住用宅地等(200㎡)を先に適用したときは、貸付事業用宅地等として適用できる面積は78.78㎡となりますので、小規模宅地等の特例を適用する順番によって限度面積が変わる点には注意してください。

【特定居住用宅地等(200㎡)を先に適用した場合の貸付事業用宅地等の限度面積】200㎡(特定居住用宅地等)×200/330+B(貸付事業用宅地等)≦200㎡
⇒B≦78.78㎡(貸付事業用宅地等の限度面積)

特定居住用宅地と特定事業用宅地を併用する場合

小規模宅地等の特例を適用する土地の利用区分に貸付事業用宅地等が含まれていない場合、次の計算式で限度面積を算出します。

【貸付事業用宅地等を適用しない場合の計算式】

適用する特例制度の種類 限度面積の計算式
①特定居住用宅地等
②特定事業用宅地等
③特定同族会社事業用宅地等
①≦330㎡
(②+③)≦400㎡
※限度面積は最大730㎡

特定事業用宅地等と特定同族会社事業用宅地等を適用する面積があるときは、合算した面積を400㎡以内に収めなければなりません。

一方、特定居住用宅地等と特定事業用宅地等を併用適用する際の限度面積は、別々で設けられているため、最大730㎡まで小規模宅地等の特例を適用することが可能です。

なお、貸付事業用宅地等が含まれてしまうと限度面積が引き下がることになることから、貸付事業用宅地等の対象となる土地がある場合には、適用するケースとしないケースをシミュレーションする必要があります。

小規模宅地等の特例を併用適用する際の注意事項

複数の土地に対して小規模宅地等の特例を適用する場合、適用する順番だけでなく、相続人間のトラブルにも気を付けてください。

宅地の相続税評価額をあらかじめ算定すること

小規模宅地等の特例を適用可能な土地が限度面積を超える場合、特例を適用する土地の取捨選択をすることになるため、特例対象地それぞれの相続税評価額を算出してください。

利用区分が同じ土地であれば、減額できる額が高い土地から適用する方法が最も節税になります。

貸付事業用宅地等の減額割合は50%と低いですが、1㎡あたりの単価(路線価)が非常に高い地域の場合、貸付事業用宅地等の要件を満たす土地から適用した方が節税効果を得られるケースもあります。

また、貸付事業用宅地等の有無で限度面積の計算式が変わるため、特例対象地の相続税評価額は計算してから、最も減額できる組み合わせを見つけてください。

相続人が複数の場合は争いに注意

小規模宅地等の特例を適用すれば算出される相続税額も引き下がりますが、特例を適用したことで最も恩恵を享受できるのは、特例対象地を取得した人です。

算出された相続税は、相続財産を取得した割合に応じて納めることになるため、特例を適用することで相続税評価額が圧縮されれば、その相続人が納める相続税額は少なくなります。

全体の相続税の納税額を考えるのであれば、節税効果がより見込める土地から適用することが望ましいです。

しかし、自身が取得した土地に対して特例を適用できれば、相続税の負担額が下がる可能性があることから、特例を適用する土地の種類を巡って争いに発展することも考えられます。

小規模宅地等の特例を適用する場合、小規模宅地等の特例の対象となり得る宅地等を取得した人全員が同意していることが条件となっています。

したがって、特例を適用する土地について意見が対立している状態では、小規模宅地等の特例は適用できませんので注意してください。

小規模宅地等の特例を適用する際に確認すべきポイント

小規模宅地等の特例の適用の仕方を誤ると、相続税を過大に納めることになるため、申告前に手続きのしかた等をチェックしてください。

相続税の申告書に特例を適用する旨を記載すること

小規模宅地等の特例の適用要件の一つに、「当初申告要件」があります。

当初申告要件は、当初申告において特例を適用する旨を記載することを求めるもので、他の適用要件を満たしていたとしても、当初申告で小規模宅地等の特例を適用する旨を記載していないと特例を受けられません。

提出した申告書に計算誤りがあった場合、更正の請求書を提出することで正すことができますが、小規模宅地等の特例の適用漏れは基本的に更正の請求の対象外となるため、小規模宅地等の特例を適用する際は当初申告で適用する旨を記載してください。

遺産分割が完了していること

小規模宅地等の特例の適否判定は取得者ごとに行いますが、遺産分割が完了していることが前提条件としてあります。

相続税の申告期限までに遺産分割が完了しない場合、未分割の状態で申告書を提出することになりますが、要件を満たしていたとしても未分割の状態では小規模宅地等の特例を適用することはできません。

ただし、小規模宅地等の特例を適用する土地の遺産分割が完了していれば特例は適用できますので、相続税を過大に支払うのを避けたいときは、特例を適用する部分だけでも遺産分割協議をまとめることも選択肢です。

なお、未分割で申告する場合でも、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出し、分割完了後に提出する修正申告書や更正の請求書に小規模宅地等の特例を適用する旨を記載すれば、特例を受けられます。

特例の適否判断や計算が難しい場合は専門家に相談すること

小規模宅地等の特例は適否判定が難しく、特例対象地の面積が上限を超える際は適用する順番も重要となります。

税理士でも相続税申告の豊富な経験がある税理士は少数派です。

まして、納税者である相続人自身で申告書を完璧に作成するのは大変なだけでなく、計算誤りや特例の適用誤りがあった場合には税務調査で指摘を受けるリスクも伴います。

したがって、小規模宅地等の特例を確実に、かつ有利になるように適用したい場合には、相続税申告に精通した税理士に相談することをオススメします。

まとめ

小規模宅地等の特例は、自宅の敷地や貸付用として利用していた土地に対して適用できるため、相続財産に土地がある場合は必ず特例の適否をチェックしてください。

相続税の節税を優先的に考える場合には、特例を適用できる人が土地を取得するような遺産分割も必要です。

減額割合や限度面積は利用区分で異なるため、2つ以上の土地に特例を適用する際は、適用する土地の種類や順番をシミュレーションし、最も節税できる方法を見つけることが大切です。

小規模宅地等の特例を適用した申告書を提出した後で、特例を適用する土地の種類を変更することは基本的に認められませんので、申告作業に着手する前に、相続専門の税理士に相談して対策を講じてください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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