自筆証書遺言の検認後の流れや注意点とは?手続きや期限とはについても解説
税理士の見解
「自筆証書遺言の検認のポイント」
・遺言書を勝手に開封するとペナルティもあるため、遺言書を発見したらなるべく早く家庭裁判所に検認の申し立てを行う
・名義等の書き換えには「検認済証明書」が必要
目次
マルイシ税理士法人の税理士の鈴木です。
今後、皆さんも亡くなった方の書いた遺言書を見つけることがあるかも知れません。
その際に、遺言書の中身が気になるからと言って、直ちに開封してはなりません。
家庭裁判所で「検認」という手続きを行う必要があります。
また、遺言書の検認が終わった後は、どのような手続きが待っているのでしょうか。
多くの方にとって、遺言書の検認は馴染みの薄い手続きであり、その後の流れに不安を感じることも少なくありません。
ここでは、自筆証書遺言の検認後の基本的な流れから、身分関係などについて遺言で指定があった場合の特別な手続き、注意点まで、わかりやすく解説します。
遺言書の検認後の基本的な流れ
遺言書の検認が終わったら、その内容を実現するための相続手続に入ります(遺言執行)。
検認済証明書を取得したら、遺産の名義変更を行いましょう。
これらの手続は、相続人自身もしくは指定された遺言執行者で行います。
検認後の基本的な手続の流れは、次の通りです。
検認済証明書の取得
検認済証明書は、遺言書が家庭裁判所で内容を確認し、偽造・変造の防止を行ったことを示す証明書です。
遺言書(公正証書遺言によるもの以外)に基づいて相続手続を進めるときに、提示を求められる書類です。
取得方法は比較的簡単で、検認が終了したときに家庭裁判所へ申請することで入手できます。
必要書類は、申請書と印鑑のみです。
費用は1通につき150円の収入印紙が必要で、通常1週間から2週間程度で発行されます。
遺産の名義変更手続き
検認後に行う遺産の名義変更は、事前の確認から段階的に行う必要があります。
まずは、遺言書の内容を確認し、遺産の状況を正確に把握するよう務めましょう。
詳しい進行方法は次の通りです。
遺言執行者の有無を確認する
遺言執行者は、必ず選任しなければならない者ではありませんが、亡くなった人の意思により遺言書で指定されていることがあります。
指定があれば、遺産の名義変更について、遺言執行者が責任および権利義務を担わなければなりません。
相続財産が全て記載されているか確認する
次に確認したいのは、遺言書に財産目録が付されており、そこに相続財産(負債含む)が記載されているか否かです。
財産目録がないケースや、作成された時期が古い場合、負債の記載がない場合などは、あらためて調査する必要があります。
調査する際は、次のような手段を用います。
・預貯金や有価証券
口座が判明している場合は残高証明書を交付してもらい、口座の有無自体が分からない場合は金融機関による全店照会(名寄せ)から始めます。
・不動産
まずは、自宅にある権利証や固定資産税納税通知書を確認しましょう。
手がかりがない場合は、所有する不動産が所在すると思われる市区町村で、課税台帳の閲覧や名寄帳の取得を行います。
見つかった土地・建物については、登記事項証明書を取り寄せましょう。
・負債の状況
債権者が分かる場合は、残債の証明書を取り寄せます。
債務の存在そのものや債権者が分からない場合は、CIC・JICC・KSCといった信用情報機関に情報開示を依頼することで、全国の金融機関および消費者金融にある残債を確認できます。
通知および財産目録の作成を行う
遺言執行者が選任されているケースでは、遅滞なく相続人に遺言の内容を通知すると共に、財産目録を作成する義務を負います。
財産目録の作成については、先に紹介した方法で相続財産を調査するなどして、漏れがないよう丁寧に行いましょう。
なお、実務上は、遺言執行者自身も相続人である場合や、遺言執行者の指定がない場合は、財産目録の作成を行わないこともあります。
金融機関や法務局で財産の移転を進める(遺言執行)
相続財産や相続権のある人を把握し、検認済証明書つきの遺言書を揃えることが出来た段階で、資産ごとに相続人への所有権移転(名義変更)を進めます。
預貯金なら口座のある銀行で払戻しを申請し、不動産であれば相続を原因とする所有権移転登記(相続登記)を行いましょう。
自動車であれば運輸支局での手続、保険金であれば請求権を行使するための手続が必要です。
上記の手続にあたっては、検認済証明書のほかに、資産の承継人となる人の本人確認書類や住所証明と、戸籍関係書類が求められるのが一般的です。
戸籍関係書類については、法定相続情報証明制度により認証文つきの図面を交付してもらうことで、最初に揃えた1通のみで済むでしょう。
手続を効率的に進める工夫が必要です。
相続手続きの進行
それでは、相続手続の進行は、誰が行うのでしょうか。
遺言執行者が指定されている場合は、その人物が中心となって進めることが可能です。
指定がない場合は、相続人の中から代表者を決め、手続ごとに委任状(代表者に必要な権限を付す旨を記したもの)を作成して進めるのが効率的です。
注意したいのは、相続手続の最後に、相続税の申告が必要となる可能性がある点です。
相続税の申告期限は、相続開始を知った日から10か月以内と定められています。
申告義務は、遺言執行者の有無に関わらず相続人自身が負うものとされ、取得分に応じた税の計算を適切に行う必要があります。
税理士に相談しながら手続を進めていきましょう。
検認後の特別な手続き
遺言書の検認後、その内容によっては、通常の相続手続きに加えて特別な手続きが必要となるケースがあります。
ここでは、認知の届出、未成年後見人の届出、推定相続人の廃除・取消しの申立てという3つの特殊な手続きについて解説します。
認知の届出
認知とは、婚姻外で生まれた子を法律上の子として認めることです。
遺言による認知は手続として認められており、遺言執行者の指定とセットで行うことができます。
そして、認知する旨の遺言記載がある場合は、遺言執行者は遺言者の死亡後10日以内に認知を届け出なくてはなりません。
遺言による認知の届出は、遺言者または認知される子の本籍地、あるいは届出人の所在地の市区町村役場で行います。
必要書類は、下記のように定められています。
- 認知届(市区町村が指定するもの)
- 検認済証明書付きの遺言書
- 子の承諾書(成人している場合)
- 母の承諾書(胎児の場合)
未成年後見人の届出
未成年後見人とは、両親がいない未成年者などについて、監護・養育や財産管理を行う役割を担う人物です。
遺言で指定されていた場合は、指定された本人が、未成年者の本籍地または未成年後見人の所在地を管轄する市区町村役場で、次の書類を提出して手続をする必要があります。
- 未成年者の後見届
- 検認済証明書付きの遺言書
- 未成年者本人の戸籍謄本
- 未成年後見人の戸籍謄本
また、遺言で指定がない場合には、未成年者本人やその親族・その他の利害関係人の申立てにより、未成年後見人を選任してもらえます。
未成年者に関する遺言執行は、選任された後見人が代理して行います。
選任申立により未成年後見人を指定する場合には、未成年者本人の住所を管轄する家庭裁判所で、次の書類を提出する必要があります。
下記以外にも、連絡用の郵便切手代や、手数料(1件800円)の費用がかかる点に注意しましょう。
- 未成年後見人選任申立書
- 未成年者の戸籍謄本+住民票または戸籍附票
- 親権者がいないことを証明する資料(死亡した両親の戸籍謄本など)
- 未成年者の財産に関する資料(登記事項証明書、預貯金の残高証明書など)
- 申立人と未成年者との関係を示す資料(戸籍謄本など)
推定相続人廃除取消しの申立てと効力
推定相続人の廃除とは、被相続人に対する虐待や重大な侮辱など、著しい非行があった相続人の相続権を奪うことです。
遺言による廃除の意思表示は認められており、認知同様に、遺言執行者の指定とセットで行おうことができます。
反対に、生前に行った廃除につき、遺言で取り消すことも可能です。
遺言で廃除の意思表示があった場合、遺言執行者は、遺言者(=被相続人・亡くなった人)の住所を管轄する家庭裁判所で、廃除の申立てをする必要があります。
その際に必要となるのは、下記の書類です。
- 相続廃除申立書
- 検認済証明書つきの遺言書
- 被相続人の戸籍謄本(死亡の記載があるもの)
- 廃除を求める相続人の戸籍謄本
以上の手続は、廃除の取消しが遺言にあった場合も、同様に必要です。
検認手続き後の確認事項
検認手続が完了した遺言書は、その内容や有効性についても検討しなくてはなりません。
場合によっては、遺言は無効であるものとして遺産分割協議による遺産承継を行ったり、遺留分侵害額請求権を行使したりする必要が生じます。
遺言書の内容の確認と解釈
遺言書の有効性は、その内容と解釈に依拠します。
大前提として、形式的要件を満たしていなければなりません。
その次に重要なのが、内容の明確性と公平性です。
遺言の形式的要件
検認を必要とする遺言方式(自筆証書遺言および秘密証書遺言)は、形式につき法律で具体的に定められています。
自筆証書遺言であれば、その全文、日付および氏名を自書(=手書き)し、印を押さなくてはなりません。
訂正にも決まりがあり、変更した旨を付記して署名・押印しなければ、無効とみなされます。
こうした形式に沿うことが、遺言が有効となるための前提条件になります。
遺言の内容の解釈
遺言の内容については、財産の分配方法、受遺者の指定、遺言執行者の有無などを精査します。
不明確な点がある場合は、遺言者の生前の言動や家族関係などを考慮して解釈を試みましょう。
それでも意味を理解できない部分については、無効となる可能性があります。
解釈のジャッジについては、家族間でのトラブルを回避するためにも、弁護士や税理士などの専門家に相談するのが適切です。
遺言に基づく異議申し立て
遺言の内容に不服がある相続人は、異議を申し立てることができます。
主な異議申立ての根拠には、遺言の無効や遺留分侵害があり、後者に関しては、原則として相続開始を知った日から1年以内に行う必要があります。
遺言無効確認訴訟
遺言無効確認の訴えは、遺言の方式や遺言者の意思能力に問題がある場合に行います。
例えば、遺言書の日付や署名が偽造されている疑いがある場合や、遺言者が認知症などにより正常な判断能力を欠いていた可能性がある場合などが該当します。
無効確認が認められた場合、遺言書はなかったものとして扱い、遺産分割協議によって相続財産の承継を行います。
遺留分侵害額請求
遺留分侵害額請求権は、配偶者・子・直系尊属が行使できる権利であり、遺留分と呼ばれる最低限の取り分が確保されていない場合に行使されます。
遺言による遺留分侵害があったケースでは、遺言で特定の財産を分割せずに単独で受け継いだ親族など、遺留分侵害の原因となった相手方に対し、原則金銭での支払いを求めることになります。
よくある質問と注意点
遺言書の検認手続きは、多くの人にとって馴染みの薄い手続きであり、さまざまな疑問や誤解が生じやすい分野です。
とくに、検認の期限や手続の意義、必要書類については、しっかりと理解しておきたいところです。
以下のよくある質問を確認して、検認およびその後の相続手続をスムーズに進めましょう。
Q.検認手続きに期限はありますか?
A.遺言書の検認にあたって、法律による明確な期限の定めはありませんが、条文によれば「遅滞なく」行うべきとされています。実務上は、相続開始を知った日から1ヶ月以内に行うことが推奨されています。
「遅滞なく」の定義は状況によって異なりますが、検認手続をあまりに遅らせるのは考えものです。検認済証明書がなければ、預貯金の払戻しも不動産の登記も行えません。そうするうちに、資産活用の計画に遅れが生じ、それだけでなく、生前の被相続人に生計を頼っていた相続人が経済的に困窮する事態も招いてしまいます。
検認手続で間違えやすいポイント
検認手続には、いくつかの誤解や間違いやすいポイントがあります。
第一に、検認は遺言の有効性を確認する手続きではありません。
検認は遺言の存在と内容を確認するだけで、有効性の判断は別途行う必要があります。
第二に、相続人全員の出席は必須ではありません。
申立人は必ず出席する必要がありますが、他の相続人の出席は任意です。
なお、複数の遺言書が見つかった場合は、全ての遺言書を検認する必要があります。
最新のものだけでなく、過去の遺言書も含めて全て提出しましょう。
最後に、検認と遺産分割協議は別の手続きです。
遺言書があっても、記載されていない財産については遺産分割協議が必要になる場合があります。
検認手続での必要書類と費用
検認手続きにあたっては、下記の書類および費用が必要です。事前に準備しておくと、スムーズに手続きを進めることができます。
検認の長期化により遺言執行に遅れを生じさせないためにも、書類収集は慎重に行いましょう。
・検認申立書
家庭裁判所所定の様式を使用します。
・遺言者の戸籍謄本
遺言者(=被相続人・亡くなった人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要です。
・相続人全員の戸籍謄本
遺言者かつ被相続人である人と、相続人との間にある、相続関係を確認するために必要です。
・遺言書原本
封をしたままの状態で提出します。
・手数料(収入印紙)
申立てには800円分の収入印紙が必要です。
まとめ
遺言書の検認後の手続きは、一見複雑に感じるかもしれません。
しかし、検認済証明書の取得から始まり、遺産の名義変更、そして必要に応じて特別な手続きを行うという基本的な流れを理解することで、より円滑に進めることができます。
重要なのは、遺言書の内容を正確に理解し、必要に応じて専門家に相談しながら、慎重かつ迅速に対応することです。
まずは、遺言書を発見したらしっかりと検認の手続きを行い、検認手続の期限や必要書類にも注意を払いながら、相続人全員で協力して進めることが大切です。