老人ホーム経営は儲かる?土地活用のメリットや注意点を解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】

老人ホーム経営とは

経営破綻するケースも多い

原因:人手不足

►介護職の採用が困難
厚生労働省の調べによりますと介護人材不足については老人ホームや介護事業所による人材獲得競争が激化しているため採用困難な状況により人手不足を招いている事が原因としています。
ホームを建てたもの人材不足により開業できず廃業、入居希望者があるにも関わらず人員配置を満たしていない場合は入居者を断り経営破綻するケースがあります。
►退職理由が職場の人間関係
ようやく採用したが、辞めてしまうことも多い事も人手不足の原因です。退職理由については「職場の人間関係」や「法人・事業所の理念や運営のあり方」に対する不満が上位をしています。老人ホームの職場では人間関係の再構築や待遇面の改善が急務とされています。

原因:近隣の同業施設との差別化ができない

►提供するサービスが同じ
老人ホームの業務内容は老人福祉法に基づき以下の業務を行う事とされています。

  • 入居者の自立をうながし、日常生活支援や相談を行なうこと。
  • 入居者の見守りや居室への巡回、移乗、食事や排泄、入浴の介助などを行う

►他社と同じようなマーケティングと開発
老人ホームの多い地域では高齢化の高さ、人口の多さ、医療の充実と社会資源が豊富な土地に老人ホームを設置する傾向です。当然他社も同じ土地、近隣に設置をします。しかしサービスが画一的、価格もさほど変わらないため競争原理も働かず、経営破綻やM&Aのケースが近年増えております。

通常の賃貸経営とは違った税の優遇措置や補助金がある

税の優遇措置について

老人ホームは公益性の高い事業のため様々な優遇措置があります。(運営法人格により)

  • 法人税・・・収益事業(駐車場の運営など)については課税対象ですが公益事業(老人ホーム運営等)にはかかりません。
  • 不動産取得税・登録免許税・・・公益事業を行うために取得した不動産には課税されません。
  • 固定資産税・・・公益事業にて保有する不動産には課税されません。
  • その他、所得税、消費税・印紙税、自動車税への優遇措置があります。
  • 民間企業が運営する高齢者専用住宅では賃貸経営にない税の優遇措置があります。
  • サービス付き高齢者向け住宅については固定資産税の他、※不動産取得税について優遇されます。

詳細については別途記載をいたします。
※税制については税務署・税理士へご確認ください。

補助金制度について

補助金について主に建物建築についての補助金制度があります。

  • 地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金制度
  • サービス付き高齢者向け住宅建設費補助
  • 特別養護老人ホーム等の整備に係る補助金

※補助金等についての相談、申請については厚生労働省、国土交通省、都道府県、市町村の各担当課にてご確認ください。

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老人ホームの種類

有料老人ホーム

令和元年度現在、全国14,118か所に539,995名の入居者が利用をしています。(厚生労働省調べ)
居室20室の建設費用については1億7千万円~8千万円となっております。

介護付き

介護サービスについて直接施設から提供される高齢者向けの居住施設。要介護状態となり介護が必要となっても、ホームが提供する介護サービスである「特定施設入居者生活介護」を利用しながら、ホームでの生活を継続することが可能です。

住宅型

住宅型有料老人ホームは、入居者が介護保険サービス利用する時は外部の介護サービス事業所と個別に契約・利用し、介護報酬はサービス利用量に応じて各事業所に支払われます。許認可については都道府県への届出となります。

健康型

食事サービス等が提供される高齢者向けの居住施設。入居者が要介護状態になった場合は契約を解除し、退去する事になり介護付き有料老人ホーム・住宅型有料老人ホームなどへ入居することになります。令和元年度現在 20か所 488名が入居しています。

サービス付き高齢者向け住宅

サービス付き高齢者向け住宅は平成23年10月に国土交通省・厚生労働省が連携したバリアフリー構造等や状況把握・生活相談サービスを備えた「サービス付き高齢者向け住宅」(略称:サ高住)が創設されました。自立した60歳以上から要介護者までが入居の対象となります。国としては団塊世代が後期高齢福祉数のピークを迎える2025年までに60万戸の供給目標としています。令和4年10月現在、全国8,139棟数 278,776戸数。

サービス付き高齢者向け住宅の税制優遇について

令和4年度の税制優遇についての内容です。税制優遇については年度ごとに行われますので最新情報をご確認ください。

►固定資産税
一戸当たり120㎡相当部分につき、5年間 税額について2/3を考慮して1/2以上5/6以下の範囲内において市町村が条例で定める割合を軽減 (一般新築特例は1/2軽減)

►不動産取得税

  • 家屋 課税標準から1200万円控除/戸 (一般新築特例と同じ)
  • 土地 次のいずれか大きい方の金額を税額から控除 (一般新築特例と同じ)
    ア : 4万5,000円(150万円×3%)
    イ : 土地の評価額/㎡× 1/2(特例負担調整措置)×家屋の床面積の2倍(200㎡を限度)×3%

要件につきましては参考情報にてご確認ください。

参考情報
国土交通省:令和4年度サービス付き高齢者向け住宅供給促進税制の概要について
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001603393.pdf
※税制優遇についても記載があります。

公的老人ホーム

特養

 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)は要介護状態にある入居者が24時間、365日安心した快適な日々の暮らしが続けられるような介護サービスを提供する公的な施設です。入居者についてはおおむね要介護度3になります。令和2年度現在、10,040か所(内:地域密着型2,380か所)運営主体については社会福祉法人など公益法人になります。70名程度の入居者を想定した事業費は約10億円(施設整備7億・設備費2億5千円・運転資金5千万)

老健

介護老人保健施設(老人保健施設)は要介護状態にある介護を必要とする高齢者の自立した日常生活が過ごせるよう支援を行い在宅生活への復帰を目指として、医学による管理に基づき看護・介護の体調管理・食事、入浴、排せつの介助、理学療法士や作業療法士からのリハビリ、栄養管理など医療・介護を総合的に提供する施設になります。運営主体は主に医療法人が約74%になります。医療法人は社会福祉法人と同様な税制優遇や補助金があります。

その他

グループホーム

認知症グループホーム(認知症対応型共同生活介護)とは認知症の高齢者が少人数(5人~9人)の住居に共同で生活し、入浴、排せつ、食事等の介護、その他の日常生活上の世話、機能訓練を受けることができます。令和2年度現在、13,945か所。

►グループホームの不動産取得税について
公益法人以外の法人ではグループホーム運営のための土地・建物を取得した場合の不動産取得税は課税されますが都道府県にて減免措置があります。

参考情報東京都:不動産取得税の減免措置。
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/shitsumon/tozei/index_s.html#s16

ショートスティ

ショートステイ(短期入所生活介護)とは、1日単位による短期間、施設・事業者に入居をしながら介護サービスを受けます。主に同居家族の介護疲れの休息や冠婚葬祭、週末は施設で過ごす一人暮らしの要介護者など様々な理由にて利用ができます。運営方法については単独型・併設型に分かれます。民間企業でも運営が可能です。税制優遇については運営する法人により異なります。

老人ホーム経営のメリット・デメリット

メリット

長期的安定収益 

一般的な賃貸経営では普通借家契約を約2年間が多く、新年度時の退去による空室のリスクを伴いますが、老人ホームの場合は介護運営事業者に長期契約で建物を貸出せば安定した収入を得ることができます。また自らが老人ホームの経営を行うことで長期的にわたりすべての収入を得ることができます。さらに老人ホームに付随する食事提供サービスやリネンなどを外部ではなく、親族による経営をしているケースもあります。

✔参考情報
❋老人ホームの主な収入項目について
・入居金収入:0~数億円と幅があります。
・家賃収入:地域性などもありますが4万円~30万円後半の相場です。
・食費収入:軽減税率の対象条件として1食640円以下、1日の食費が1920円以内にて設定されます。
・管理費収入:施設の設備の状況によりますが2万~20万円後半が主になります。
・介護報酬料収入:特定施設(有料老人ホーム)での1ヶ月の限度額です。
収入を得るためには国保連合会へ請求を行います。収入額が単位数に×10円となります。(地域区分により誤差あり)
要介護1 16,355単位×10=163550円 
要介護2 18,362単位×10=183620円
要介護3 20,490単位×10=204900円
要介護4 22,435単位×10=224350円
要介護5 24,533単位×10=245330円

補助金や建設協力金で初期費用を抑えられる

老人ホームについていくつかの補助金制度があります。

►有料老人ホーム
地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金とは、介護施設等における防災・減災対策の改修や整備等に対して予算の範囲内で補助を行うものです。

►サービス付き高齢者向け住宅
❋建設費補助
サービス付き高齢者向け住宅の建設・改修費に対し、国が民間事業者・社会福祉法人・医療法人等に直接補助を実施しています。

建設費補助

  • 新築住宅の場合: 1/10(上限 70・120・135万円/戸)
  • 住宅改修の場合: 1/3 (上限 195万円/戸 等)
  • 高齢者生活支援施設:新築の場合 1/10(上限1,000万円/施設
  • 高齢者生活支援施設:改修の場合 1/3 (上限1,000万円/施設 )

※建設費補助につきましては年度にて区切られますので補助内容が変わりますので最新情報をご確認ください。

参考情報
サービス付き高齢者向け住宅整備事業について
https://www.koreisha.jp/service/

►特養 
特別養護老人ホームの施設整備については一定額が補助されます。(国1/2、地方公共団体1/4)

❋具体例(千葉県の場合)
・施設の種類     基準単価
・特別養護老人ホーム 定員1名あたり 4,500千円
・老人短期入所用居室 定員1名あたり 800千円
・ケアハウス     定員1名あたり 2,536千円
・養護老人ホーム 定員1名あたり 3,000千円

参考情報
千葉県特別養護老人ホーム等の整備に係る補助金について
https://www.pref.chiba.lg.jp/koufuku/shisetsuseibi/hojokoufukin/
youkou/tokuyouhojokin.html

►グループホーム・ショートスティ
グループホーム、ショートスティについては高齢者施設の施設整備費補助制度があります。

参考情報
東京都の場合:高齢者施設の施設整備費補助制度説明会
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kourei/shisetu/03seibihisetsumeikai.html

建設協力金

家主が土地の有効活用するため老人ホームを建築する時に資金が不足している場合、テナントとして介護事業を運営する法人等から建築費用の融資を受ける建築協力金があります。基本は無利子です。
家主側には土地の有効活用や節税効果、事業者では老人ホームに適した場所で安定した介護事業運営が行える双方にとっても有効な協力金です。
目標60万戸としているサービス付き高齢者向け住宅についてこの建設協力金を有効に活用しているケースが増えております。

税制優遇がある

 
老人ホームの税制優遇についてまとめてみました。

  • 有料老人ホーム・・・、固定資産税・相続税
  • サービス付き高齢者向け住宅・・・固定資産税・不動産取得税
  • 特別養護老人ホーム・・・法人税、固定資産税、寄付税など。

契約などにて、建物内部設備の修繕費については介護運営事業者が負担することになるため、ランニングコストを抑える事が出来ます。

デメリット

事業者や人員探しが難しい

介護事業者探しについては近年介護M&Aについて行うコンサルティング会社が台頭しておりますので情報は得やすくなりましたが、都心部での情報が主なため地方ではまだまだ探しにくい状態です。人員については施設が完成したものの、人員が集まらないため開業ができなくなる事がありますので、人員探しの計画を立て、効果的な人員確保を行う事です。人材派遣や紹介会社を活用することも必要ですが、今後はホームページに人材募集ページを作成、人材募集動画の作成、SNSの活用を最大限に生かした自己採用力を上げる事です。

空きを埋めづらい

部屋の空きが埋めづらい原因にも冒頭お伝えいたしました人手不足が原因の一つです。
老人ホームや介護事業所運営については人員基準がありますので、人員基準に満たしていない場合は入居者を募集することができません。需要があるのに入居を断るというジレンマが生まれます。

利益が出づらい

 
主要な売上は介護報酬の公費となります。税金や保険料が主な財源ですので、報酬の限度額があります。要介護5で区分支給限度額は36万2千円とアッパーが決まっています。また家賃や食費については他の同程度の老人ホームとの大幅な差がつけにくいため、売上を安定し、上げるには満室に近い入居率の維持、自主事業などで収益を上げるなどの経営方針が重要です。

老人ホーム経営の注意点

業界に詳しい不動産業者とテナント契約をする

賃貸経営から老人ホーム経営へ ある家主のケース
長年、賃貸経営を行っていた家主が老人ホームの経営に興味がありなじみの不動産会社に相談するも「介護事業に関わったことので」「不動産会社にも得手不得手の分野がある」と断れたケースがあります。老人ホーム経営では建物も重要ですが、一番は介護運営事業者の選定がポイントになります。介護事業に詳しい不動産会社にテナント契約の仲介について依頼をした所、10年間ほぼ満床経営にて現在はM&Aにて介護施設を買収し、2つの施設を経営しています。

きちんとした介護事業者を見つける

介護事業者を見つけるポイントについて

►介護サービス情報の公表制度・WAMネットの活用
介護サービス事業所のサービス内容などの詳細情報などが掲載されています。
事業所の規模・理念・チャートなどの情報により客観的な視点にて介護事業者を探すことができます。またWAMネットでは第三者機関による評価を掲載されておりますので、事業者探しに有効です。

参考情報

►不動産会社からの情報
介護事業を取り扱った事のある不動産会社や有料老人ホーム紹介サービス会社から生の情報得ることが大変重要です。情報を集め、実際に介護事業者と契約後、思ったような運営をしていない!とならないように客観的な情報、不動産会社からの主観的・事実を集約してください。

まとめ

団塊の世代が75歳になる2025年に大きな高齢者増加のピークを迎えます。高齢者人口も令和4年現在3627万人、高齢者率は29.1%。3人1人が高齢者となります。また介護保険施行して22年が経ち、そのころでは考えなかった企業も老人ホームビジネスに参入しています。同時に大きな資本を持つ企業や法人の前には小規模・中規模の老人ホームを運営会社がM&Aをされていく件数も年々増加しています。

差別化の表面化が難しい老人ホームの運営。今後の老人ホーム運営は地域との密着性がポイントと言われています。地域の活動に参加して、自治会や民生委員、地元企業などのネットワークを通じた介護職の確保や入居者の紹介、またボランティア団体との繋がりにより老人ホームでのイベントの充実など地域との結び合いで安定した運営が理想的と思います。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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