田舎の土地活用は太陽光発電がベスト?対策や方法を解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】
山林や耕作していない農地など、田舎に広大な空地をお持ちの方に土地活用の手段としておすすめしたいのが「太陽光発電」の導入です。
2012年の固定価格買取制度(FIT)の導入をきっかけに、ここ10年程で太陽光発電が急速に普及しており、日本全国で屋根上や空地に太陽光パネルを設置した光景が見られるようになりました。
太陽光発電は専門知識が必要で大きな投資が必要なイメージがあり、興味はあっても導入に踏み切れない方も多いと思います。
この記事では、太陽光発電を設置した土地活用の手法と収益化の仕組み、設置するメリットとデメリットなどについて解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

太陽光発電経営とは?

太陽光発電経営は、太陽光パネルを設置して発電した電力を、送電網を介して電力会社に売却することで収益を得る事業です。

太陽光発電の種類

太陽光発電は、大きく分けて「住宅用」と「産業用」の2つに分類されます。

住宅用は出力10 kWh未満と定められており、個人宅の屋根に設置する小型の太陽光発電設備を想定しています。
産業用は10kWh以上の発電出力を持つもので、店舗や工場などの大型施設の屋根や、耕作放棄地などの遊休地や山林などを切り開いて開拓した土地などに設置された大型の太陽光発電設備のことです。
産業用の中でも、1000kWhを超える大型の発電設備は「メガソーラー」と呼ばれます。

発電事業の形態としては「自営方式」と「土地貸し方式」の2種類があります。

自営方式

土地や建物の屋根に太陽光パネルを設置し、売電収入がそのまま事業収益となるのが「自営方式」です。
発電に適した立地を確保し適切な発電設備を設置できれば高利回りが期待できます。
ただし、自営方式ではそれなりの事業投資が必要になりますので、自己資金に余裕がある場合か融資を引き出せる場合に限られます。

土地貸し方式

土地を発電事業者に貸し、その賃料によって収益を上げるのが「土地貸し方式」です。
設備投資も必要とせず、故障や悪天候などの要因による発電量の低下のリスクを負わずに太陽光発電事業を始められますが、収入は発電事業者からの賃料だけになりますので、収益は低くなるのが一般的です。
田舎の遊休地を有効に土地活用したいが事業投資はしたくない場合や、リスクを負いたくない方には土地貸し方式が適していると言えます。

収益化の仕組み

固定価格買取制度による売電収入

太陽光発電は、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)により普及促進が図られてきました。この制度によって、長期にわたり安定した収益を確保できます。

住宅用の太陽光発電は、自宅に設置した太陽光発電で得た電力から家庭内での電力消費を引いた余剰発電分を地域の電力会社に売電する仕組みで、固定価格での買い取りが保証される期間は10年です。
産業用の太陽光発電は、原則として発電した全量を売電します。固定価格での買い取りは20年です。
なお、電力会社が太陽光発電設備からの電力を買い取る原資は「再エネ賦課金」として、毎月の電気料金と併せて全国民に等しく請求されています。

固定価格買取価格の推移

固定価格買取制度(FIT)を利用した太陽光発電設備の買取価格の2012年からの推移は下記のとおりです。

【太陽光発電の固定価格買取制度】

参考:資源エネルギー庁 固定価格買取制度
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/fit_kakaku.html

この表から分かる通り、買取り価格は年々下がっています。
これは、太陽光発電の普及およびコストダウンとともに設置するインセンティブを減らしていった結果です。

固定価格買い取り期間が修了した後は、売電の停止、もしくは地域電力会社との交渉による任意での買取りとなります。任意買取りは極端な安価となることがほとんどです。
そのため、FIT期間終了後にCO2削減目標達成のために再生可能エネルギーの自家消費用途として太陽光発電所を保有したい企業に売却するケースも増えています。

賃料収入

土地貸し方式の場合は、賃料収入による事業収益となります。
田舎の遊休地や耕作放棄地の場合は、賃貸住宅や商業施設を建築できない土地であることが多く、賃料の相場は非常に安価なものとなりますが、少なくとも固定価格買取り期間の10年あるいは20年間の契約を継続でき、土地活用による安定した収益を得る見込みが立ちます。
また、定期的に必要な草刈などの手入れの必要が無くなり、維持に掛かる経費負担が無くなるというメリットもあります。
屋根貸し方式の場合も、他者の投資に依存する分大きな収益は望めませんが、ゼロから収益を生み出すという点では検討する価値が大いにあるでしょう。

関連記事:土地活用の目的と種類とは?メリット・デメリットや選び方のポイントを専門家が解説

太陽光発電のメリット・デメリット

太陽光発電のメリットとデメリットについて解説します。

メリット

安定した収益化が可能

第一のメリットとしては、太陽光発電事業は固定価格買取制度のおかげで長期に渡って安定した収益が見込めることです。
発電量は設備のスペックと日射量で決まりますが、これまでの豊富な事例による実証データがあるため、現在では正確な推測が可能となっています。
設備の故障に関しても、損害保険との組み合わせで収益悪化のリスクを回避できます。

集客が不要なので田舎でもOK

遊休地の土地活用の方法として、アパートやマンション、商業施設などの賃貸物件の経営があります。
賃貸物件は立地により大きく収支が左右されますが、田舎の土地の場合は集客に非常に苦労します。いったん空室ができると何年も空室となるリスクがあり、当初の事業計画通りに行かないケースが多くなります。物件が古くなるとさらに客付けが悪くなりますので、定期的な修繕やリフォームに掛ける費用も必要です。
長期サブリースで建設を促す業者もありますが、田舎の物件は空室リスクがある分手数料が高額になり、地主の手元にはほとんど残らないのが実情でしょう。
その点、太陽光発電事業はこのような集客も不要で空室リスクもありません。

市街化調整区域内にある土地でも収益物件にすることが可能

田舎の土地は原則として建築が不可能な「市街化調整区域」であることが多く、そもそも賃貸物件を建設できない場合があります。
そのような土地であっても、送電線さえあれば太陽光発電設備の設置は可能であり、田舎の遊休地の土地活用としても最適と言えます。

専門知識が不要

一般的に、太陽光パネルの耐用年数は30年以上あります。
太陽光パネルはシリコン半導体で構成されている太陽電池セルを強化ガラスでカバーする構造となっており、非常にシンプルな構造です。機械的な動作や電子制御回路を持つものではないため、経年により劣化する部品や回路が少なく、長期間に渡って安定して発電します。
メーカーによる出力保証も25年程度の場合が多く、一度設置してしまえばそれほど手は掛かりません。
定期的な点検やメンテナンスは必要ですが、太陽光発電専門のO&M(オペレーション&メンテナンス)サービス業者が多数存在しており、業務委託をすれば専門知識が無くても運用が可能です。

初期投資の幅が広い

太陽光発電設備を設置する場合のイニシャルコストとしては、太陽光パネル本体、直流電流を交流電流に変換するパワーコンディショナー、設置架台などの資材費と工事費になります。
田舎の遊休地に設置する場合は、土地の整地や造成費用も加算されます。
複数の業者から提案を受けて見積を取得し、十分に比較検討するようにしましょう。
参考に、10kW以上の産業用太陽光発電設備の設置費用(システム費用のみ:土地の造成等は含まず)は、2021年の平均で25万円/kWです。50kW以上に限ると20万円/kW以下に下がります。
固定価格買取制度がスタートした2012年と比較すると半額程度の費用となっており、年々システム費用のコストは下がっています。

参考:経済産業省 調達価格等算定委員会「令和4年度以降の調達価格等に関する意見」について
https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/20220204_report.html

太陽光発電事業は安定した収入を得られますが、リスクが少ない分投資利回りとしては抑えめで、初期費用を回収するのに10年から15年程度かかることが多いようです。

天候や周辺環境で収入が左右される

太陽光の発電量は天候に左右されます。その土地の過去の気象データにより発電量を予測して事業収支を予測しますが、異常気象等で長期間の悪天候が続けば、事業収支は悪化することになります。
また、当初は日照が良く発電に最適な場所であっても、その後に周辺に建物が建つ場合もあります。日射が遮られると発電量が下がり収支を悪化させます。

天災に弱い

太陽光発電設備は野ざらしの屋外にあるため、台風や落雷、雹などの自然災害によってパネルが破損するリスクがあります。
これらを予測することは難しいため、損害保険に加入することは必須と言えます。事業計画を建てる際には、保険料を考慮するようにしましょう。

大型の発電設備は維持管理コストが掛かる

太陽光発電設備を設置する場合には各種の届出が必要となりますが、その規模によって取り扱いが大きく変わります。50kW以上の出力になると、各種届出に対する審査が厳格化し、手続きが煩雑になり時間を要します。
また、50kW以上の発電設備は「自家用電気工作物」扱いとなり、電気主任技術者の選任が必要になる等、維持管理コストが各段に上がることに注意が必要です。
出力50kW未満の太陽光発電設備は「一般電気工作物」として扱われ、その設置工事にあたっては電気工事士法に基づき電気工事士(第一種又は第二種)が作業を行う必要があります。
一般用電気工作物は届出等の手続きは不要ですが、経済産業省令で定める技術基準に適合させる義務があります。

参考:経済産業省HP 太陽電池発電設備を設置する場合の手引き
https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/detail/taiyoudenchi.html

田舎で太陽光発電を行う際の注意点

田舎の遊休地や耕作放棄地の土地活用として太陽光発電を行う際の注意点について説明します。

雪国や日当たりが悪い土地は不向き

太陽光発電事業の収支は日射量に大きく左右されます。そのため、立地が非常に重要になります。
田舎の遊休地の土地活用として検討する場合でも、所在地の日射強度や周辺の環境要因から検討した発電シミュレーションを業者に依頼し、慎重に事業収支を検討する必要があります。
雪国でも設置は可能ですが、太陽光パネルに雪が積もると発電しなくなり、大雪の場合にはパネルの破損の恐れもあるため、発電事業としては不利な条件となります。

太陽光発電が多い地域は出力抑制がかかるケースも

太陽光発電設備の急増により、日中は電気が余り出力抑制(売電停止)が掛かるケースが増えてきました。これは事業採算を悪化させる大きなリスク要因です。
土地活用で太陽光発電事業を検討するときは、周辺の太陽光発電所の立地状況を確認し、出力抑制が掛かるリスクについて系統電力会社に確認しておくとよいでしょう。

遠隔監視でトラブル回避

太陽光発電設備を田舎の土地に設置する場合は、容易に現地確認に行けない場合が多くあります。
太陽光パネルが劣化したり、何らかの原因で損傷した場合は発電能力が落ちます。
そのまま放置しておくと、本来得られるはずの売電収益の機会損失となるのは当然ですが、漏電や発熱により火災を引き起こす恐れがあるため大変危険です。
異常が発生したときにいち早く検知できる遠隔監視システムとメンテナンス体制を構築しておく必要があります。
もっとも確実なのは、日々の発電量をモニタリングする方法です。
モニタリングサイトや発電モニタをマメにチェックし、異常値を発見したら早期にメンテナンスをすることです。
異常値が出た場合に携帯への緊急通報やメールによるアラート通知を設定できる場合もあります。

O&Mサービス会社に委託

モニタリングと定期点検を一括でO&Mサービス会社に委託する方法もあります。
月額の委託費用が発生しますが、専門の会社が遠隔監視で発電設備の主要数値を常時モニタリングしてくれる安心感が得られます。
敷地の草刈りやパネルの清掃なども委託でき、緊急時には現地への駆けつけ確認も対応可能な業者もいますので、遠方に発電所がある場合には積極的に活用しましょう。

まとめ

ここまで、太陽光発電設備の導入による土地活用のメリットとデメリット、導入する際の注意点などについて解説してきました。
太陽光発電事業は、固定価格買取制度(FIT)によって安定した収益を得られる点が最大のメリットです。しかし、買取価格は年々下がり続けているため、これから始めるのであれば初期投資費用を抑えたうえで早期に実行に移す必要があります。

太陽光発電から得られる電力は、発電のために温室効果ガス(主にCO2)を発生しないクリーンで環境にやさしいエネルギーです。
日本では国際合意に基づき、CO2排出量を2030年に2013年と比較して46%削減、2050年に実質排出量ゼロを達成する目標を掲げています。
目標達成に向けてさらなるCO2削減対策が求められているため、今後も太陽光発電の普及にはさまざまな優遇政策が取られることが予想されています。

田舎の土地活用について検討されている方は、この記事を参考に太陽光発電事業の収支シミュレーションを専門業者に依頼されてみてはいかがでしょうか。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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