相続放棄の手続きの流れとは?申請期限や必要書類まとめ

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

不動産に強い税理士をお探しの方へ
不動産税務に特化している税理士事務所
マルイシ税理士法人に相談してみませんか?

相続が発生して相続税申告が必要な方について、マルイシ税理士法人では面談相談(初回無料)を行っています。
累計1万件以上の相談実績のある相続専門の税理士が、個別の案件ごとに見解やアドバイスをお伝えします。
記事では書ききれないような、具体的な実務上の取り扱いなどもお話しできますので、お気軽にお問合せください。

相続放棄の手続きを行う前に知っておきたい前提知識

相続放棄とは、被相続人(亡くなった人)の財産を相続する権利をすべて放棄することをいいます。

相続放棄をした方が良いケース

相続では、被相続人のプラスの財産(例:現金預金、不動産、有価証券など)だけでなくマイナスの財産(例:ローン、借金、連帯債務などの負債)も承継しなければなりません。
プラスの財産よりもマイナスの財産のほうが多ければ、一般的には相続放棄をすべきケースになります。

相続放棄のメリット

マイナスの財産を相続しなくて良い

相続放棄の最大のメリットは、被相続人の負債を承継しなくて良いことにあります。
被相続人の債権者から求められても、相続放棄をすれば返済義務はありません。
「限定承認」という手続きをすることでも、被相続人の負債によって苦しむ事態は回避できますが、この場合、相続財産を換価して債権者に弁済する手続きは残ってしまいます。
相続放棄をすれば、最初から相続人でなかったことになりますので、こうした手続きに関わる必要もなくなります。

遺産分割協議に参加しなくてよい

さまざまな理由から、他の相続人と関わりたくない人もいます。
相続放棄の手続きをすれば、相続人から外れることができますので、相続人同士の遺産分割協議に参加する必要がなくなります。

相続放棄のデメリット

プラスの財産も相続できなくなる

相続放棄をすると、被相続人のプラスの財産も相続できなくなります。
財産と負債のどちらが多いかはっきりしない場合や手放したくない特別な財産がある場合は、限定承認など他の方法を検討しましょう。

相続放棄の手続きには期限がある

相続放棄の手続きには、法律で定められた期限があります。
期限を過ぎると、自動的に単純承認(財産と負債のすべてを相続することの承認)をしたものとみなされてしまいます。

相続放棄の手続きの期限とは

相続放棄の手続きの期限は、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」です。
自分が相続人になったことを知った日(例:被相続人の死亡日など)から3か月を過ぎると、原則、相続放棄はできません。
ただし例外もあります。こちらの記事もご覧ください。

相続放棄の手続きの流れ

STEP1:相続放棄をするかどうか判断する

被相続人にどのような財産や負債があるのかを調査し、相続放棄をするかどうかを判断します。

STEP2:役所で必要書類を収集する

相続放棄の手続きには、被相続人や相続放棄をする人に関する書類(戸籍謄本など)が必要です。
役所の窓口に出向いて直接交付してもらう方法や、郵送やオンラインで交付申請する方法があります。
必要書類は、「相続放棄手続きに必要な書類とは?」を参考にしてください。

STEP3:手続きを行う家庭裁判所を確認する

相続放棄の手続きは、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。
家庭裁判所や支部名、その管轄区域は、裁判所のホームページで確認できます。
【参考】裁判所HP:裁判所の管轄区域
https://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/kankatu/index.html
【参考】裁判所HP:各地の裁判所の所在地・電話番号等一覧
https://www.courts.go.jp/courthouse/map_tel/index.html

STEP4:収入印紙・郵便切手を用意する

収入印紙と郵便切手を準備します。
収入印紙は、相続放棄の手続きにおいて家庭裁判所に提出する「相続放棄申述書」に貼り付けるものです。金額は一律800円になります。
郵便切手は、家庭裁判所が相続放棄の手続きをする人に対する連絡用のもので、必要な枚数を用意しなければなりません。
「84円5枚、10円5枚(計:470円)」と指定する場合が多いようですが、家庭裁判所によって異なる場合があるため、ご自身が手続きをする家庭裁判所のホームページ等でご確認ください。

STEP5:相続放棄申述書を作成する

「相続放棄申述書」を作成します。
作成したら、1枚目の右上にSTEP4の収入印紙を貼り付けます。
相続放棄をする人が未成年者の場合は、法定代理人が作成します。

STEP6:家庭裁判所に書類を提出する

家庭裁判所に、STEP5の相続放棄申述書、STEP2の書類、STEP4の郵便切手を提出します。
提出方法は、家庭裁判所に直接持ち込む方法でも郵送する方法でも構いません。
郵送の場合は、到着が確認できる方法を選びましょう。(書留やレターパックなど)

STEP7:照会書に回答する

相続放棄申述書などの提出から1~2週間後、家庭裁判所から相続放棄をする人宛てに、相続放棄に関する質問が記載された「照会書」が送られてきます。
添付された「回答書」に記入をし、照会書に記載された期限内に家庭裁判所に返送します。

STEP8:相続放棄申述受理通知書を受け取る

相続放棄が問題なく認められれば、10日ほどで「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。
その後は「相続放棄受理証明書」の交付申請ができるようになりますので、相続放棄をしたことを証明する書類の提出を求められた場合は、家庭裁判所で交付を受けます。(1通あたり150円)

相続放棄手続きに必要な書類とは?

相続放棄手続きに必要な書類一覧

  • 相続放棄申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本等
  • 申述人(相続放棄をする人)の戸籍謄本等
  • 追加で必要となる戸籍謄本等

以下、各書類について解説します。

相続放棄申述書

家庭裁判所の所定の様式です。
家庭裁判所のホームページから印刷するか、家庭裁判所に取りに行くなどして書面で作成します。
800円分の収入印紙の貼付が必要です

被相続人の住民票除票または戸籍附票

被相続人の死亡時の住所地を確認するための書類です。
役所で交付を受けることができます。

被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本等

被相続人の死亡日や本籍などを確認するための書類です。
役所で戸籍謄本(全部事項証明書)または除籍謄本(除籍全部事項証明書)を取得します。

申述人(相続放棄をする人)の戸籍謄本等

相続放棄をする人の戸籍謄本等です。
被相続人と同じ戸籍であれば、重複して用意する必要はありません。

追加で必要となる戸籍謄本等

相続放棄をする人と被相続人の関係などによって、下記の書類が追加で必要になります。

相続順位 相続放棄をする人
(被相続人からみた関係)
追加で必要になる書類
配偶者 特になし
第1順位 【子が相続放棄をする場合】
特になし
【子の代襲相続人(孫など)が相続放棄をする場合】
・本来の相続人(子など)の死亡の記載のある戸籍謄本等
第2順位 直系尊属
(父母、祖父母など)
【A:父母が相続放棄をする場合】
・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本等
【B:父母が死亡しており、祖父母が相続放棄をする場合】
・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本等
・父母の死亡の記載のある戸籍謄本等
【(A・B共通)第1順位の相続人が死亡している場合】
・第1順位の相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本等
第3順位 兄弟姉妹 【A:兄弟姉妹が相続放棄をする場合】
・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本等
・第2順位の相続人の死亡の記載のある戸籍謄本等
【B:兄弟姉妹の代襲相続人(甥・姪)が相続放棄をする場合】
・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本等
・第2順位の相続人の死亡の記載のある戸籍謄本等
・本来の相続人(兄弟姉妹)の死亡の記載のある戸籍謄本等
【(A・B共通)第1順位の相続人が死亡している場合】
・第1順位の相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本等

相続放棄の手続きは自分でできる?

相続放棄の手続きは自分で行うこともできますが、メリットとデメリットがあります。

相続放棄の手続きを自分でするメリット

相続放棄の手続きを自分で行う場合、専門家に対する報酬を支払う必要がありません。
収入印紙や戸籍謄本等の料金など最低限の費用で、相続放棄を行うことができます。

相続放棄の手続きを自分でするデメリット

書類の収集が大変

役所での戸籍謄本等の書類収集を自分で行わなければなりません。
特に出生から死亡までの戸籍謄本等を収集する場合、対象者によってかなりの手間がかかることがあります。

期限が短いためハードスケジュールになりやすい

相続発生後は、死亡届や葬儀の手配、遺産整理など、やらなければならないことがたくさんあります。
そのような中で相続放棄の手続きも進めなければならないため、計画的に行動しなければあっという間に期限を過ぎてしまいます。

書類の不備で相続放棄ができない可能性も

相続放棄に必要な書類を用意できなかったり、記載内容に大きな誤りがあったりすると、書類を受け取ってもらえない可能性があります。

相続放棄の手続きを専門家に任せるべきケース

相続財産の把握に自信がない

相続放棄をすべきかどうかの判断には、被相続人の財産や負債の金額を正確に把握することが不可欠です。
そのためには、財産や負債を調査する知識やノウハウが必要になります。
自信がない場合は、専門家の支援を受けましょう。

相続したい特別な財産がある

相続したい思い入れのある財産がある場合、相続放棄をするとその財産まで手放すことになります。
このような場合は、相続放棄以外の方法を検討すべきですので、専門家に相談しましょう。

書類を準備する時間がない

相続放棄の手続きには期限があります。
特に第2順位・第3順位の相続人(被相続人の親や兄弟姉妹)が相続放棄の手続きをする場合、必要書類がかなりあります。
仕事などで忙しい場合は、専門家に任せましょう。

債権者から接触がある

相続放棄の前に、被相続人の債権者から弁済を求められたり、借金額などで揉めたりして困っている方もいらっしゃることでしょう。
安易な対応や約束はせず、弁護士等に相談するべきです。

相続放棄の期限が間近である(あるいは過ぎている)

相続放棄の手続き期限が間近に迫っている場合、提出書類の準備に手間取らないよう、最初から専門家に任せて確実に相続放棄をするべきです。
また、3か月を過ぎていても相続放棄が認められる可能性が全く無いわけではありませんので、専門家に相談してみましょう。

相続手続きを行う際に知っておきたい注意点

相続開始前は相続放棄ができない

相続放棄ができるのは、相続開始後です。
被相続人の生前に相続放棄の意思表示をしたとしても、法的な効果はありません。

未成年者は特別代理人が必要になることがある

相続放棄をする人が未成年者である場合、その法定代理人(一般的には親)が相続放棄の手続きを行います。
しかし、法定代理人も相続人である場合や、複数の未成年者がいる場合は、特別代理人を選任して相続放棄の手続きを進めなければならないことがあります。

相続放棄は撤回できない

相続放棄は、裁判所に一度認められると撤回することができません。
過去には、相続放棄の判断について事実の錯誤があったことから取り消しが認められた例もあるのですが、かなりのレアケースです。
相続放棄を本当にすべきかどうか判断できない場合は、専門家への相談や期限の伸長手続きを早めに検討しましょう。

財産を使ったり借金を返済したりしてはならない

民法では、相続放棄と同様に「相続の承認」もまた、撤回することのできない行為として定められています。
「相続の承認」には、単純承認(財産と負債のすべてを相続することの承認)と限定承認(財産の範囲内で負債を相続することの承認)があって、被相続人に多額の借金がある場合に単純承認をすると大変なことになってしまいます。

ところが、相続放棄や限定承認には手続きが必要であることに対し、単純承認は、特別なアクションをしなくても成立する場合があります。
その1つが、相続財産の全部または一部を処分してしまった場合です。
たとえば、被相続人の預貯金を自分のために勝手に引き出して使ってしまったり、被相続人の借金の一部を返済してしまったりすると単純承認が成立したとみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性があります。

財産をごまかして相続放棄をした場合も単純承認の扱いに

「借金だけを放棄して、財産だけもらえないだろうか」ということは誰もが考えることですが、法律上それはできません。
たとえば、財産を隠したり自分のために使ったりして相続放棄をした場合、その事実が発覚すれば、単純承認をしたものとみなされます。

相続放棄をしても受け取れる財産がある

相続放棄によって権利を失う財産は、あくまで被相続人の財産です。
相続人の固有財産は、相続放棄をしても受け取ることができます。
たとえば、遺族を受取人に指定している生命保険金や死亡退職金などは、受取人に指定された人物の固有財産にあたります。

ただし、被相続人が生前に積み立てた保険の解約返戻金などは一般的に被相続人の財産ですので、受け取ると単純承認が成立する可能性があります。
被相続人の相続財産なのか、それとも受取人の固有財産なのかは、その財産の性質や給付規程などを確認する必要があります。
迷ったときは専門家にご相談ください。

賃貸不動産がある場合

被相続人が賃貸不動産を所有している場合、負債の中身が、不動産投資のために組んだローンであることがあります。
不動産はかなり高額ですから、不動産投資の経験のない方はその負債の金額に驚いてしまい、相続を不安に感じることでしょう。
しかしこの場合は、負債が多いからといって相続放棄をしようとするのは早計です。
被相続人が作成した帳簿や決算書などから、不動産賃貸の業績をきちんと把握した上で判断する必要があります。

まとめ

相続放棄の手続きについて、手続きの流れ、手続きに必要な書類、相続放棄の手続きを自分でやることのメリットとデメリット、注意点などを解説しました。
相続放棄の手続きにおいて最も大切なことは、期限内に相続放棄をすべきかどうかの判断を正しく行うことにあります。
相続財産に不動産がある場合や、相続放棄の判断に不安がある場合は、不動産と相続に強いマルイシ税理士法人にご相談ください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

税理士紹介はこちら

  • ページタイトルと
    URLがコピーされました