不動産と相続に強い税理士インタビュー/代表税理士 藤井幹久
目次
不動産・相続のエキスパートを目指すこととなったきっかけは?
「不動産と相続」の専門税理士を目指すことになった理由は3つあります。
1つ目は、私自身が20代の時に税理士試験の受験予備校の講師を経験しており、その時の担当科目が所得税法であったため、個人の不動産の売却や賃貸などの案件で自分の得意とする税法知識を生かせるのではないかと考えたからです。結果として不動産税務に必要な知識は、受験知識よりも実務を通じて習得するものの方が圧倒的に多かったですが、不動産税務に対して全く抵抗感がなく取り組むことができたのは良かったと思います。
2つ目は、不動産税務は参入障壁が高く、他の税理士との差別化になると考えたからです。当然ですが、不動産税務という科目は税理士試験にはなく、実務を通じてしか習得することはできません。不動産税務は相続税や所得税だけでなく、法人税、消費税、不動産取得税、登録免許税、固定資産税、印紙税などを体系的に理解しなければならず、いかに多くの案件をこなすかがポイントとなるため、経験と時間を必要とします。他の税理士にはない専門性を高めることで、税理士業界のマーケットの中で特別なポジションを確立できると考えました。
3つ目は、税理士業界のAI化やグローバル化が進む中で、「不動産と相続」の分野はこれらの影響を受けづらい分野であると考えたからです。AI化やグローバル化により、画一化された作業の部分については税理士の仕事がなくなるといわれていますが、不動産や相続の分野は、業務を画一化することは難しく、様々な要素を加味しながら提案をする、コンサルティングの要素が必要です。これから10年、20年先を考えて税理士として生き残るためには、税理士にしかできない専門的な分野で勝負すべきと考えました。
印象に残っているお仕事は?
「不動産と相続」の専門税理士として印象に残っている仕事は、税理士になりたてのころに担当した、有名な地主の方の相続対策・不動産法人化の案件です。現在もお付き合いさせて頂いているのですが、規模も大きく、難易度の高かった案件のため苦労したのを覚えております。
この地主の方には顧問税理士がいたのですが、法人化には反対しており、毎年数千万円の税金を個人で負担しておりました。また、相続対策にも消極的で、遺言書も作成されておらず、将来の相続税もいくらかかるかわからないという状況で、相続人となるお子様が不安となり、ある金融機関の方からご紹介頂きました。
まずは相続診断と不動産法人化シミュレーションを行い、現状把握と相続対策のご提案をするとともに、法人化した場合の節税効果を検証しました。次に、ご希望の遺産分割に沿ったシミュレーションを再作成し、ご家族会議に同席してご確認頂き、また出てきた意見をシミュレーションに反映させて、というのを何度も繰り返しました。
最終的には、お子様がお二人いらっしゃったので、不動産を大きく2つに分け、弁護士も入って公正証書遺言の作成を行いました。また、それぞれのお子様が代表者となる不動産管理会社を2社設立して、上記の不動産をそれぞれ法人化しました。これらと並行して、生前贈与、不動産の組み換え、生命保険の加入などを行い、大幅な相続税の節税を行いました。
この地主の方は昨年亡くなられたのですが、相続対策や不動産法人化によりトータルで約1億円の節税ができており、納税資金も準備できていたため相続税も無事納付できました。何より遺言があったことで、特に争うこともなく、お子様お二人に円滑に不動産を承継できたことが大きかったと思います。
当時の私はここまで大きな規模の案件を担当したことがなく、業務を効率的に進めることができず膨大な時間を要しました。また、依頼者の方のご希望をまとめて形にすることの難しさをこれほど痛感したことはありませんでした。
大変な案件でしたが、当時の上司で現在のパートナー税理士である石渡の助言と手厚いサポートにより、何とかやり遂げることができました。この案件がコンサルティングの感覚を身に着けるきっかけになったと思います。この経験は私の税理士人生にとって大きな転機となりました。
税務関連の業務以外で行っている不動産ならではの業務は?
当事務所のお客様は、不動産を所有している個人と法人に限定しております。通常の法人顧問や確定申告、不動産売却の申告や相続税の申告といった業務のほかに、不動産・相続対策コンサルティングに関する業務を行っております。
不動産を所有していると税金以外にも様々な問題が生じるため、当事務所では他士業やコンサルタントとともに、お客様の「不動産と相続」に関する問題解決のサポートをしております。下記は当事務所のサービスの一例です。
不動産サポート
不動産の売却、購入、有効活用、リフォームなどの相談について、「士業御用達」の不動産コンサルタントが対応できるようにしております。
不動産法人化シミュレーション
不動産賃貸業を法人化すべきか、法人化した場合にはどれくらい節税になるかをシミュレーションして検討します。
相続診断・対策
相続について分割・節税・納税・承継の4つの観点で、税理士がオーダーメイドで対策・診断を行います。
資産運用
プライベートFPが独立・中立的な立場から資産運用のアドバイスを行います。
認知症対策
認知症により資産が凍結されて困らないように、家族信託などを用いた対策を行います。
セカンドオピニオン
「不動産と相続」の専門税理士として、ご相談頂いたお客様に見解をお話しします。
もちろん、実際に問題解決を行うのは当事者のお客様となります。当事務所では、専門知識と経験を用いて「判断材料となる資料の作成」や「法的に数字的に根拠のあるアドバイス」で、お客様がご自身で問題解決の判断をできるように努めています。
したがって、お客様のお悩みやご希望をヒアリングするための面談相談は欠かせません。通常の税理士事務所では申告書作成などの「作業」が主たる業務となりますが、当事務所では「面談」が業務の中心となっているのも大きな特徴です。
不動産・相続に力をいれたことで増えた人脈は?
当事務所の不動産・相続対策コンサルティング業務には、弁護士・司法書士・不動産鑑定士などの他士業や、不動産コンサルタント・FPなどの専門家との連携が欠かせません。ただし、当事務所及びグループ内に、これらの他士業の有資格者、不動産会社や保険会社などは存在しておりません。お客様からの相談業務において独立性・中立性を重視しているためです。お客様にご紹介するのは、外部の独立した実績のある他士業やコンサルタントとしております。
その他の提携として、大手不動産会社や大手金融機関において、営業マン向けの全国規模の税務研修やe-ラーニング研修などを行っております。これらの研修を受けた営業マンの方から、不動産を所有するお客様をご紹介頂くという関係性が出来上がっています。
また、大手不動産会社などが主催する相続対策や不動産承継、法人化などのセミナーで、過去300回以上講師を務めております。研修もセミナーも、ご依頼者様のコンセプトに沿って毎回オーダーメイドで対応しているため、一度ご依頼頂いた場合、次回以降も継続してご依頼いただくということがほとんどです。
軌道に乗るまでに苦労したことは?
独立開業した直後から現在まで、営業らしい営業をしたことがないのですが、ありがたいことに仕事がない状態を経験したことがありません。毎日新規のお客様から「不動産と相続」に関するご相談を頂き、そのほとんどが案件の受託につながっているため、事務所全体の売上も当初の予想を大幅に超えて伸びております。
知人の税理士からも、何故そんなに多くの案件が集まってくるのかよく聞かれるのですが、専門性の高さはもとより、当事務所では開業当初より経営と実務を分離していることが理由の一つと考えております。当事務所は、パートナー税理士の石渡が経営の意思決定、マーケティング、業務提携、社内管理などのいわゆる社長業を行っており、税務相談や税務申告などの税理士業務やコンサルティング業務については、私が中心となって行っております。経営と実務の異なる視点をもって事務所が運営されることで、新しいマーケットとサービスが生まれる好循環ができていると思います。
苦労したことは、独立開業当初はご紹介の案件だけで業務がいっぱいになってしまい、開業から1年間はホームページを開設することができなかったことです。独立前から知り合いだった方が久々に連絡を取ろうとしたところ連絡先が分からず、行方不明のような状態になってしまい、ご迷惑をお掛けしてしまったと思います。現在ではホームページも開設され、ホームページからのお問合せのみで平均して1日1件は案件の受託につながっております。
当事務所では年間を通じてどんどん案件が入ってくるため、年中が繁忙期のような状態です。したがって、どうやったら業務を効率化できるか、スタッフを含めて事務所の全員で考え、使えそうなITツールやシステムなどがあれば、積極的にどんどん取り入れるようにしています。
これからの展望は?
現状では、不動産や相続の問題について、誰に相談したらいいかわからないという方がほとんどだと思います。誰にも相談せずに一人で決めてしまったり、周りから間違ったアドバイスを受けて実行してしまったりして、大きな損害を受けている方をたくさん見てきました。
まずは、「不動産と相続」の専門税理士の存在を、世間一般に認知させたいと考えております。そして、これらの問題については、専門の税理士に相談するのが当たり前という世の中になり、一人でも多くの方が不動産や相続についての悩みを解決できるような環境を作ることが目標です。
税理士業界全体の元気がなくなっているといわれて久しいですが、税理士は税務だけでなく、コンサルタントになることもできる魅力的な資格であることを、今後の業務を通じて少しでも伝えていくことができましたら幸いです。
※このインタビューは、「税経通信2020:1」P137~P140に掲載された内容です。