相続手続きは代理人でも可能?委任状の書き方について
目次
はじめに、タイトルの問い「相続手続きは代理人でも可能?」に対する回答からです。
結論は「相続手続きは代理人でも可能」です。
前提としては、法律に関する手続きや役所窓口で行う手続きは、本人の意思で行うのが原則です。
しかし、本人から頼まれたことを証明する「委任状」があるときは、代理人でも手続きを進められます。
相続手続きを委任される代理人は、親族や士業の人(例:税理士、弁護士、司法書士など)が考えられます。
相続手続きで重要な「委任状」の書き方、相続手続き別のポイント、注意点についてくわしく解説します。
委任状とは?
委任状とは「本人しか行使できない権限」をほかの人(代理人)に与えるための書類です。
委任状の体裁について細かい規定はないものの「必要事項がきちんと記載されているか」が重要です。
なお、手書きで作成した委任状でも有効です。
相続手続きは代理人でも可能?
委任状があれば、代理人が各種手続きを行えます。
相続手続きを代理人に委任するケースとしては、相続税の申告や不動産の相続登記などが挙げられます。
相続手続きを代理人に委任するケース
相続手続きを代理人に委任するケースは数多くあります。一例は次の通りです。
- 相続税の申告
- 不動産の相続登記
- 戸籍謄本など公的書類の取得
- 遺言書の検認手続き
- 相続放棄の申し立て
- 預金口座の名義変更や引き出し
- 預金口座の残高証明書の申請
- 自動車の名義変更
など
これらを「誰に委任するか」は手続きの内容によるでしょう。
相続税の申告であれば税理士、相続登記であれば司法書士などの専門家にお願いするケースが多いです。
公的書類の取得の簡単な手続きであれば、親族に代理人をお願いすることもあります。
委任状が不要なケースもある
ただし、親権者、未成年後見人、成年後見人は、法律行為の代理人を「委任状なし」で行うことが認められています。
委任状の書式と記載内容とは?
委任状の基本的な書式例
はじめに、委任状の基本的な書式例を見てみましょう。下記は、法務局が「委任状の様式」として示しているものです。
引用(法務局):委任状
委任状に必要な構成
上記の委任状は、次の項目から構成されています。行き違いや悪用がないよう、すべての項目を網羅することが大切です。
- 代理人の住所、氏名
- 代理人を定めることの意思表示
- 委任する内容
- 委任状の作成年月日
- 委任者の住所、氏名、押印
など
場合によっては、代理人と委任者の電話番号を記載することもあります。
なお、押印は提出先によって、必ずしも必要でない場合もあります。押印をするときはシャチハタよりも認印などが望ましいでしょう。
また、相続手続きをする役所ごとに、委任状のひな形をダウンロードできることもあります。
公式サイトなどでひな形を用意していることが多いため、はじめから作成するのが面倒な人はデータを流用するのがよいでしょう。
手続き別!委任状作成時のポイント
次に、相続手続き別の委任状のポイントを確認してみましょう。
- 役所の相続手続きで使う委任状
- 金融機関の相続手続きで使う委任状
- 不動産の相続登記で使う委任状
役所の相続手続きで使う委任状のポイント
役所の代表的な相続手続きには「被相続人の戸籍謄本の取得」があります。
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を集めることで、家族関係が明らかになります。
それによって相続人が確定し、遺産分割協議などを進めることが可能になります。
被相続人の戸籍謄本は本籍地の役所で取得できますが、本籍地が遠方などの場合は代理人に依頼することもあります。このときに委任状が必要になります。
役所の手続きで使う委任状の記載事項(例)は次の通りです。
- 代理人の住所、氏名
- 取得する証明書の種類
- 取得する証明書の数
- 委任状の作成年月日
- 委任者の住所、氏名、押印
役所の相続手続きで使う委任状のポイントは「取得する証明書の種類」に加えて「数」も記載することです。これにより、代理人に必要以上の数の証明書を取得されるリスクがなくなります。
金融機関の相続手続きで使う委任状のポイント
金融機関の代表的な相続手続きは「預金口座の解約や残高証明書の取得」などです。
たいていの場合、被相続人はいくつもの預金口座を持っているため、数多くの金融機関の窓口で相続手続きを行うケースもあります。こんなとき、代理人に委任をすることがよくあります。
金融機関の相続手続きで使う委任状の記載事項(例)は次の通りです。
- 代理人の住所、氏名
- 対象の預金口座の口座番号
- 委任する手続きの具体的な内容
- 委任状の作成年月日
- 委任者の住所、氏名、押印
金融機関の手続きで使う委任状のポイントは、「口座番号と委任内容をしっかり明記」することです。これらの情報がないと、「どの預金口座に対する委任状なのか」「委任の内容は何か」などを確認できません。
不動産の相続登記で使う委任状のポイント
不動産の相続登記の手続きで使う委任状は、役所や金融機関の手続きで使うものより情報量が多いです。記載事項(例)は次の通りです。
- 代理人の住所、氏名
- 登記の目的
- 原因
- 相続人
- 不動産の表示(不動産番号、所在、家屋番号など)
- 委任する手続きの具体的な内容
- 委任状の作成年月日
- 委任者の住所、氏名、押印
不動産の相続登記の手続きで使う委任状のポイントは、対象の不動産の情報をしっかり明記することです。
委任状を作成する際の注意点
注意点1.白紙委任は避ける
白紙委任とは、委任する内容を一切書いていない委任状をほかの人に渡してしまうことです。よくあるパターンが署名と押印だけの委任状を渡すものです。これでは相手が委任内容を自由に決められるため、悪用するされるリスクがあります。
たとえ相続手続きのための委任状だとしても、ほかの取引などで悪用される可能性もあります。相手のことを「信用できる」と感じていても、白紙委任は絶対に避けるべきです。
注意点2.代理権の内容を明確にする
代理権の範囲とは「その代理人にどのような手続きをどの範囲で任せるか」を限定することです。委任状の作成では、この「代理権の範囲」を明記することも大事です。
たとえば、不動産に関する手続きを委任する場合でも、「不動産のすべての手続きを委任するのか」「自宅のみの手続きを委任するのか」で代理権の範囲がまったく変わってきます。
代理権の範囲は、不必要に広く設定すると後々、トラブルの原因になりかねません。あくまでも、必要な範囲で設定することが大切です。
注意点3.書き間違えは訂正印を使う
委任状を作成するときには、委任する内容を明確かつ正確に記載することも大事です。委任する内容を誤って記載してしまう、あるいは、違う解釈ができる内容で記載してしまうと、委任状を作成した本人が損失をこうむる可能性もあります。
委任する内容に加えて、委任状を作成した年月日、委任者の氏名や住所などの基本情報も正確に記載しましょう。内容に誤りがある場合は訂正印を使って修正するのが無難です。
※法改正によって訂正印が認められていないケースもあります。
まとめ
今回は、相続手続きを進めるにあたって大切な役割を担う「委任状」について解説してきました。内容を振り返ってみましょう。
委任状とは「本人しか行使できない権限」をほかの人(代理人)に与えるための書類です。代理人としては、親族のほかに弁護士、司法書士などが考えられます。相続手続きで代理人に委任するケースとしては、不動産の相続登記、公的書類の取得などが挙げられます。
委任状を作成するとき、絶対してはいけないのは「白紙委任をすること」です。白紙委任とは、任せる内容を書かない委任状を相手に渡すことです。合わせて委任状では「代理権の範囲を明記」することも大事です。委任状は、任せる内容を明確にした上で、すべての情報を正しく記載しないとトラブルになる可能性があります。
「委任状はこの内容で問題ないか」少しでも不安があるようでしたら、代理人に委任状を渡す前に専門家(弁護士、司法書士など)にチェックを依頼することをおすすめします。