アパート経営とは?知っておきたい基礎知識を税理士が解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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アパート経営を検討するとき、一番はじめに知りたい情報をわかりやすくまとめた記事です。一読すると、アパート経営のメリット・リスク・手順・税金などのポイントが効率的に理解できます。なかでも、リスクや税金についての部分は、アパート経営を本気で考えている人は必見です。

アパート経営の特徴

最近は、ビジネスパーソンや富裕層に不動産投資が注目されています。

不動産投資にはいくつかの種類がありますが、その中でアパート経営にはどんな特徴があるのでしょうか。それをまとめたのが下記の表です。

アパート経営とワンルーム投資や戸建投資との比較

種類 特徴
アパート 所有する部屋数が多いのが特徴。主なメリットは、不労所得を安定的に得やすい、相続税対策に効果的、レバレッジ効果が高いなど
ワンルーム 少額から投資できるのが特徴。主なメリットは、好立地物件が多い、比較的売却しやすいなど
戸建 小さい規模で始めやすいのが特徴。主なメリットは、ファミリーがターゲットのため、長期入居につながりやすいなど

アパート経営の3大メリット

アパート経営の3大メリットとして、下記の3つが上げられます。

  • 不労所得を安定的に得やすい
  • レバレッジ効果が高い
  • 相続税対策に効果的

メリット1:不労所得を安定的に得やすい

賃貸経営は、景気の影響を受けにくい家賃が収入源。そのため、不労所得を安定的に得やすいのが魅力です。賃貸経営にはいくつかの選択肢があります。主なものはワンルーム(マンション)、戸建、アパートなどですが、アパートは所有する部屋数が多いので空室リスクを最小限に抑えやすい魅力もあります。

例えば、ワンルームや戸建を1物件所有していて、空室が発生すると空室率は100%。同様に2物件を所有していて、空室が発生すると空室率は50%。いずれにしても大きなダメージです。一方、部屋数10室のアパートの1居室が空室になっても空室率は10%、2居室が空室になっても空室率は20%で済みます。

メリット2:レバレッジ効果が高い

アパート経営のメリットには、手元資金の3〜10倍前後の金額を動かすことで、効率的にリターンを得られるというものもあります。

アパート経営は、手元資金が潤沢にあってもローンを利用して初期費用をまかなうのが一般的です。初期費用は物件の取得価格の15〜35%(自己資金+諸費用)が目安。このスキームを活用することで、手元資金にレバレッジを効かせて資産運用ができるようになります。

メリット3:相続税対策に効果的

アパート経営は、富裕層の相続税対策として活用されるケースも多いです。理由は、相続税の額は相続税評価額に基づき算出されますが、資産を現金からアパート(建物と土地)に替えると、この相続税評価額が下がるからです。

なぜ、このようなことが可能かというと、資産の種類によって相続税評価額の基準となる評価方法が異なるためです。

例えば、資産を現金・預金で保有していると課税される評価額は時価の100%ですが、アパートにすると課税される評価額が時価と比較して数十%下がることもあります。この他、アパート経営は固定資産税などの減額につながることもあります。

アパート経営における3大リスクとその対処法

アパート経営には、ここまで紹介してきたようなメリットがある一方、リスクもあります。主なリスクは、空室・災害・老朽化です。

アパート経営の空室リスクと対処法

空室リスクとは?

空室リスクはアパート経営の一番のリスクです。見込んでいた家賃収入が入ってこなければ、経営計画が破綻します。ただし、通常の退去による一時的な空室は必ず発生するものです。警戒すべきは数ヶ月以上などの長期空室。とくにアパート経営の場合、所有する部屋の大半が空室になるような状況は絶対に避けなければなりません。

空室リスクの対処法

そもそもアパート建設予定地の入居者ニーズを確認することが重要です。不動産会社から提供されるデータだけでなく、自身でも周辺物件の空室状況などリサーチするのが賢明です。加えて、対象エリアの今後の人口推移も確認しましょう。ネット検索すれば、人口動態予測データが出てくる自治体がほとんどです。一定の入居者ニーズが見込め、さらに極端な人口減少が起きない場合のみ(人口減少社会なのである程度の人口減少は仕方ありませんが)アパート建築をするのが安全です。

アパート経営の災害リスクと対処法

災害リスクとは?

アパート経営における災害リスクの代表は、火災や地震による建物の焼失・倒壊です。さらに最近では、大型台風の増加による水害の被害も増えています。こういった災害が起こると、アパートの建替や修繕に莫大な費用がかかります。

災害リスクの対処法

アパート経営のリスクのなかでも、災害リスクはもっとも回避しやすいです。火災・地震・水害などの保険に加入しておけば、被害額を最小限に抑えられます。火災保険はアパート経営を始めるときに加入が必須なので問題ないでしょう。地震や水害の保険は火災保険のオプションとして加入することがほとんどです。自治体のハザードマップなどで、河川の氾濫状況や地盤を確認した上で必要な保険に加入してください。

アパート経営の老朽化リスクと対処法

老朽化リスクとは?

アパートの建物は築年数とともに傷んだり劣化したりします。これを放置しておくと段々と入居率が低下し、キャッシュフローが悪化しやすくなります。その結果、手元資金が枯渇し、ますます必要な修繕ができなくなり、さらに入居率が悪化する……そんなスパイラルにハマるのは避けたいものです。

老朽化リスクの対処法

まずはアパート経営を始める段階で、適切な大規模修繕計画を立案する必要があります。これは不動産コンサルタントやリフォーム会社にサポートしてもらいながら作成しましょう。アパートの運用中は、この計画に沿って大規模修繕費をストックしていくことが重要です。併せて、その都度発生する修繕にも柔軟に対応できるよう、手元キャッシュを十分に貯めておくことも意識してください。

アパート経営を始めるまでの6つの手順

アパート探しからアパート経営開始まで、長い場合は1年以上の期間がかかります。その間に行う主な手順は次の6つです。

手順1:アパートを探す

一口にアパート経営といっても、いくつかの選択肢があります。そのなかから、ご自身に合うタイプのアパートを探すことが大切です。

まず大きく中古アパートと新築アパートがあります。中古の方が高利回りですが、築年数が経っている分、修繕費かかりやすいです。
また構造は、木造・鉄筋コンクリート造・鉄骨造などがあります。一般的に木造アパートは、建築費の坪単価が割安、鉄筋コンクリート造や鉄骨造は割高な傾向があります。

さらに同じ構造でも、自宅との併用アパートにするか否かで使えるローンが変わってきます。賃貸併用アパートは低金利の住宅ローンが使いやすいですが、賃貸専用だとアパートローンまたはプロパーローンになります。ちなみに、アパートローンで借りられる目安は年収の10〜30倍程度。これも考慮して、ご自身に合うタイプのアパートを選択してください。

手順2:買付証明書の提出(中古)、 収支計画を策定(新築)

中古アパートの場合、「これぞ!」と思う物件があればスピーディーに「買付証明書(※)」を出して物件を抑えることが重要です。買付証明書とは「その物件に申し込みを入れた」という意思を示す書面です。
※買付証明書をキャンセルしても金銭的なペナルティはありません。

新築アパートの場合、不動産会社などの見積りや見込利回りをもとに、詳細な「収支計画」を立案します。甘い想定利回りになっていないか、シビアにチェックしましょう。

手順3:ローンの本審査を受ける

金融機関の融資審査は、事前に仮審査を受けておき「ほぼ確」の状態で受けるのが一般的です。本審査が売買契約を締結した後になる場合、融資審査に通らなかったら売買契約を解除できる特約をつけた上で、審査を受けるのが必須です。

金融機関は不動産会社から紹介されることもありますし、ご自身で探してくることもあります。ローンは2種類あり、パッケージ商品である「アパートローン」は審査が早い傾向があり、個別審査の「プロパーローン」は審査に期間がかかるケースが多いようです。

手順4:売買契約(中古)、建築請負契約(新築)を交わす

中古アパートなら「売買契約」、新築アパートなら「建築請負契約」をそれぞれ交わします。新築アパートの完成までの工期は、木造であれば数ヶ月程度、鉄筋コンクリート造であれば7ヶ月程度が目安です。

手順5:管理会社を探す

※オーナー自ら物件管理をする自主管理なら手順5は不要

管理会社は、清掃や修繕をはじめ、入居者募集・トラブル対応まで行ってくれる賃貸経営のビジネスパートナーです(業務領域は管理会社によって異なります)。中古アパートは、前オーナーから管理会社を引き継ぐケースも多いですが、自身で探してきた管理会社に委託することも可能です。新築アパートは、建築した不動産会社の管理部門で物件管理を行なってくれるケースも多いです。

手順6:入居者付け

一定期間の満室保証する「サブリース契約」を管理会社と交わしている場合、オーナーが入居者付けをする必要はありません。
一方、管理会社への委託や自主管理の場合、入居者募集・内見対応・契約対応などをする必要があります。

関連記事:不動産投資にサブリース契約は必要?仕組みやメリット・デメリットを解説

アパート経営を行うときに注意すべきポイント

では、事前にどのような対策を講じればリスク回避できるのでしょうか。ここからは、アパート経営を行うときに考えるべきポイントについて解説していきます。

ポイント1.どんな物件を購入するか

まず、はじめに考えるべきことは、どのようにして物件を入手するかです。

すでに土地を所有している人以外は、「新築アパートと中古アパートのどちらを購入すべきか」という選択肢で頭を抱えると思います。

できるだけ条件のいい物件を選ぶために、新築と中古、それぞれのアパート選びの基準を記載しました。

アパート選びの基準

新築物件の場合
  • 駅チカなどの好立地
  • 周辺にスーパーや学校があるか
  • 予定利回りを確認
中古物件の場合
  • 修繕の必要がない建物
  • 融資がつく物件かどうか
  • 入居率がいいか

新築の場合は、入居者が入っていたという実績がゼロなため、「予定利回り」がどのくらいになるのかを確認します。

一方で、中古物件の場合は「すぐに修繕の必要性があるのか」という点に着目しなければいけません。上記でも紹介したように、修繕もリスクのひとつ。建物の損傷をチェックし、必要であればホームインスペクションを実施しましょう。

ポイント2.管理方法について考える

管理方法を大きく分けると、「自主管理」「委託管理」「サブリース」の3つに分かれます。オーナーの家庭の都合に合わせ、どの管理方法であれば負担が軽減されるのか比較検討してみてください。

自主管理 管理委託 サブリース
オーナー自ら管理する方法。時間や精神的な労力がかかるが、大家としてのノウハウが身に着く。 管理会社に管理を委託する方法。プロに管理を委託するため、時間や精神的にゆとりができる。 サブリース業者に一棟丸ごと借りてもらう方法。一度契約すると解約しにくいが、家賃保証や空室保証などが利用できる。

アパート経営では、入居者(ヒト)建物(モノ)家賃(カネ)の管理が必要です。

オーナーに時間的余裕があり、入居者と向き合いたいというのであれば、自分たちで管理する「自主管理」もいいでしょう。しかし、サラリーマン大家や主婦オーナーのように本業が他にあり、不動産投資はあくまで副業という場合は、不動産会社や管理会社を頼り、共に管理をしていくという方法がおすすめです。

アパート経営で押さえておきたい税金の知識

アパート経営をすると、さまざまな税金が発生します。細かい税額の計算は税理士に依頼するのが確実ですが、オーナーも経営者として税金の内容を知っておく必要があります。

賃貸経営でかかる税金の種類

アパート経営にかかる税金は、取得時・運用中・売却時などのタイミングで次のような内容が発生します。

タイミング 税金の内容
取得時 不動産所得税、登録免許税、印紙税
運用中 所得税及び住民税(+事業税)、固定資産税及び都市計画税
売却時 所得税及び住民税 ※譲渡所得が発生した場合

賃貸経営の所得税の計算方法

上記表の税金のうち、とくに理解しておきたいのが「運用中の所得税」の仕組みです。アパート経営の所得税は、アパート経営で得られた収入(下記の表A)から、経営にかかった経費(下記の表B)を差し引いた所得をもとに計算します。この結果、不動産所得が赤字になった場合、他の所得(例:事業所得や給与所得)と相殺して所得税を計算(損益通算)することもできます。

A:アパート経営の収入例

  • 家賃
  • 駐車場
  • (入居者からもらう)管理費
  • 更新料
  • 礼金
  • 敷地内の自販機収入

B:アパート経営の経費例

  • 減価償却費
  • 修繕費
  • (管理会社に払う)管理委託費
  • ローン金利
  • 広告費
  • その他、雑費や固定資産税など

確定申告と青色申告特別控除について

所得税の確定申告とは、その年(1月1日〜12月31日)の所得にかかる税金を計算し、管轄の税務署に納めるべき税金を申告する手続きのことです。確定申告は原則、翌年の2月16日から3月15日の間に受付しています。

この期限内に規定の方法で申告をした青色申告者には、55万円(※)の青色申告特別控除が適用されます。併せて e-tax による電子申告または電子帳簿保存を行うと、青色申告特別控除が65万円にアップ(※)します。
※令和2年分以降改正された内容

まとめ

この記事では、アパート経営をしたい人が知りたいポイントを解説してきました。前半ではアパート経営のメリットとリスクについてお話してきました。他の資産運用や投資と同じように、アパート経営にもメリットとリスクの両方があります。これを熟知した上で選択することが大切です。

記事の後半では、アパート経営を始めるまでの手順や関連する税金について解説してきました。とくに注意したいのは税金です。アパート経営を始めるときには、収益を上げることにばかり意識が行きがち。税金のことを後回しにすると、正確な利益を把握しにくくなります。また、いざアパート経営が始まってから税理士を探すと、月々の収支管理や初回の申告で不都合が起きやすいです。

そう考えると、アパート経営を始めるときには、不動産会社や建設会社探しと並行して税理士探しを進めるのが無難です。賃貸経営にくわしい税理士に相談すれば、「どのように収支の管理をすべきか」「確定申告時に節税するためにどのようなことをしておくべきか」までアドバイスしてくれます。

「マルイシ税理士法人」では、不動産に強い税理士事務所として、不動産オーナーへの無料相談を行っています。まずは一度相談してみるのも1つの手でしょう。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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