賃貸併用物件とは?収益モデルやメリット・デメリットを解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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賃貸併用物件とは?

賃貸併用物件とは、1つの住宅に自分が居住する区画と第三者に貸し出す区画が混在した不動産のことを言います。
賃貸併用物件の代表例は、自宅兼アパート・マンションです。
最上階は自宅として使用し、下層部に関しては第三者に貸し出すということです。

賃貸併用物件にはさまざまな特徴がありますが、一番の特徴としては住宅ローンを借りて住宅を建てて一部を第三者に賃貸し賃料を得ることで、実質、住宅ローン返済がゼロ円になることです。
その他にも賃貸併用物件を所有することにはメリットがあります。
このメリットをメリット思えるような人はどのような考えの人なのか紹介します。

賃貸併用物件での土地活用に向いている人の特徴

賃貸併用物件での土地活用に向いている人の特徴は、次のような特徴を持つ人です。

  • 自宅で収入を得て住宅ローンの返済を楽にしたい人
  • 2世帯以上が住んでも問題ない広い土地を所有している人
  • 第三者に賃貸したのちに二世帯住宅にする可能性がある人
  • 相続税対策をしたい人

賃貸併用物件を所有することにより、賃貸した部分から賃料を得ることができます。
他人に貸すわけですから建物内の生活スペースを分離しなければなりません。
ただ、生活スペースを完全分離することで2世帯住宅と同じ構造になるため、将来2世帯住宅にしたい人にとっては生活スペースが分離した建物を建築することはメリットになります。

また、建物を第三者に貸すことにより土地が貸し付け地扱いになります。
貸し付け地扱いになると、相続税の計算に利用する評価額が低く評価されるようになるため、相続税対策になります。

なお、建物を賃貸併用物件にする場合、2家族分以上が同じ敷地を利用することになるため、賃貸併用物件の敷地は広くないと使い勝手が悪くなってしまいます。
使い勝手が悪くなると、自身もストレスですし借り手も少なくなるため、敷地面積に余裕がないと賃貸併用物件を運用することが難しくなります。

賃貸併用物件の間取り

賃貸併用物件にするには建物内の間取を完全に分離する必要があります。
例えば一戸建てで賃貸併用物件を運用する場合は、1階は貸し出しスペース、2階は自分が居住するスペースです。
不動産表記で表すならば、1階3LDK 2階2LDKなどとなります。
つまり、1階にも2階にも水回りが備わっており、それぞれ独立したスペースということです。

上下でスペースを区切る間取り以外にも、長屋タイプのように左右で間取りを分けることもあります。

賃貸併用物件の収益モデル(収入と支出)

賃貸併用物件を運用すると収益を得ることができるのと同時に、建物を管理するために必要な支出が発生してしまいます。
賃貸併用物件で得られる主な収益と主な支出を表にまとめました。

収入 支出
家賃
礼金
更新料
固定資産税・都市計画税
修繕費
管理費
住宅ローン返済費用
通信費
保険料

これらの収入・支出について一戸建てを賃貸併用物件にした場合のシミュレーション例を紹介していきます。

なお、シミュレーションの設定条件は次のとおりです。

【シミュレーション設定条件】
2階建て(1階:賃貸部分 2階:自宅部分)
延べ床面積:60坪(1階:30坪 2階:30坪)
建築坪単価:90万円(水回りが倍になるため単価は高くなります)
諸費用は建築費の10%と仮定

収入

1階を10万円で貸した場合で住宅ローンを5,000万円、35年、金利0.5%で借りた場合
・月々返済額約13万円 – 賃料10万円 = 月々の実質返済額3万円
・3万円 × 12ヶ月 = 年間の実質返済額36万円

賃貸併用住宅でなかったときの年間返済額
・約13万円 × 12ヶ月 = 約156万円

このように賃貸併用物件と自宅のみの住宅ローンの差額は年間で100万円以上変わってきます。
なお、 賃貸部分が空き家になることを想定しておく必要があることには注意が必要です。

支出

  • 初期費用
  • ランニングコスト

次に賃貸併用物件の支出を見ていきましょう。
支出は建築費用などの初期費用とランニングコストに分かれます。

【初期費用】
賃貸併用物件建築費用
建築坪単価90万円 × 延べ床面積60坪 = 建築費5,400万円
建築費5,400万円 × 10% = 建築諸費用540万円
5,400万円 + 540万円 = 初期費用5,940万円

【ランニングコスト】
ランニングコストは建物の立地や建物構造などにより変動するため、目安を掲載します。
・固定資産税・都市計画税:30万円
・損害保険料(地震保険付):20万円
・借入金利子:80万円
・通信費:4万円
・光熱費(電力、水道):30万円

管理費、修繕金について賃貸物件の状況によります。
新築時にはほとんどランニングコストとして見ておく必要はありませんが、築年数が経過したときに外壁塗装や屋根塗装が必要になります。
かなりの築年数が経つと、屋根の吹き替えや樋の交換なども発生するため、管理費や修繕費は積み立てておくことをおすすめします。

土地活用で賃貸併用物件を行うメリット

賃貸併用物件を活用することでさまざまなメリットを受けることができます。
ここからは賃貸併用物件のメリットを紹介していきます。

住宅ローン利用可能

賃貸物件を建築するときには住宅ローンが利用できずアパートローンを利用しますが、賃貸併用物件の場合は一定条件を満たすことにより住宅ローンを利用することができます。

アパートローンではなく住宅ローンを利用できるとローン金利が変わり、利息額が大きく変わります。
アパートローンと住宅ローンの金利差は次表のとおりです。

アパートローン金利目安 1~5%
住宅ローン金利目安 変動金利:0.3~0.7%
固定金利:0.9~1.7%

例えば、賃貸併用物件建築のときにローンを35年返済5,000万円借りるとして、金利3%であれば利息総額は約3,081万円、金利0.5%であれば約451万円です。
35年一括繰り上げせず返しきったときには、利息差が約2,630万円になるわけです。

ローン返済

前述したように、ローンを借りて賃貸併用物件を建築した場合は、賃貸部分の収入をローンの返済に充てることができます。
そのため、ローン返済計画が非常に楽になるため、生活も楽になります。

もし賃料などで余剰金が出た場合はローンを繰上返済するなどし、より返済を楽にすることも可能です。

節税対策

賃貸併用物件を建築して住むと、相続税と固定資産税の節税になります。
具体的にどのような節税になるのか見ていきましょう。

★相続税の節税
賃貸併用物件を相続すると、貸し付け地となり土地の相続税評価が下がります。
建物に関しても土地と同じく、貸していることを理由に土地の相続税評価が下がります。
相続税評価は相続税を計算する基となる数字のため、相続税評価が下がると相続税額も下がります。

また、相続税評価が50%~80%減額される小規模宅地等の特例も一定条件を満たすことにより適用可能です。
このように賃貸併用物件は相続税の節税ができます。

★固定資産税の節税
固定資産税は土地上に住宅がある場合、土地の固定資産税の減税を受けることができます。
住宅がある土地の減税措置は次のようになっています。

  • 住宅1戸あたり200㎡以下の土地の部分:固定資産税課税標準額が1/6
  • 住戸1戸あたり200㎡超の部分:固定資産税課税標準額が1/3

このように住戸1戸あたりで減税できる幅が変わってきます。
敷地に自宅しかない場合、固定資産税課税標準額は200㎡までしか6分の1になりませんが、賃貸併用物件で自宅1戸と賃貸1戸あり場合には400㎡まで6分の1の減額を受けることができます。

安定的な収入

賃貸部分に長期入居してくれる賃貸人がいると、安定的に収入を得られるようになります。
長期入居してくれれば退去のたびに室内をリフォームする必要がなくなり出費も抑えることができます。

土地活用で賃貸併用物件を行うデメリット

賃貸併用物件を運用すると多くのメリットを受けることができますが、一部デメリットもあります。
ここからは、賃貸併用物件を運用するときのデメリットを紹介していきます。

プライバシーの確保

賃貸併用物件に住むと賃貸部分を借りている第三者に会うことになったりするため、プライバシーの確保が難しくなります。

また、生活スタイルや家族構成によっては、深夜に賃貸人が帰ってくる、子どもがいて騒がしいなどの問題が発生することもあります。
そのため、賃貸併用物件を建築するときには防音性を高くしたり、賃貸人と会いにくいような構造などにしたりしておく必要があります。

売却しにくくなる

賃貸併用物件は一般物件と違い買い手の需要が少ないため、売却しにくくなることがあります。
また、利回り物件としても自宅部分は必ず空き家になってしまうため、利回りが低く良い物件にはなりえません。
このことにより、賃貸併用物件を売却するには時間がかかります。

もし賃貸併用物件を売却するときには、長めの売却スケジュールを組んでおくと良いでしょう。

空室リスク

賃貸併用物件の賃貸部分が1戸の場合、空き家になったときのリスクがかなり大きくなります。
そのため、空き家が長期続いたことを考えて住宅ローンを借り入れることをおすすめします。
賃料ありきの資金計画で住宅ローンを借りてしまうと、返済できなくなる可能性が高くなってしまいます。

また、賃貸人が出ていった場合はリフォームして再度貸し出すため、費用面についても注意を払わなければなりません。
賃貸人からは敷金を預かり退去のときのリフォーム代金支払いに備えますが、敷金を超えるようなリフォームが必要となった場合、差額を賃貸人から受け取ることができるかは分かりません。

手間がかかる

賃貸併用物件は貸し出す戸数が少ないため、賃貸管理会社へ管理を委託しないことがほとんどです。
賃貸管理会社に委託しない場合、賃貸人からの家賃徴収、賃貸人からの緊急連絡などに対応しなければなりません。
これにはかなり手間がかかります。

また、家賃を滞納されたなどのトラブルに発展した場合、賃貸人がいる場所と自宅が同じなため住み心地が悪くなってしまいます。
このようなことにならないためにも、できれば賃貸管理会社に管理を委託する方が良いでしょう。

賃貸併用物件の建築までの流れ

賃貸併用物件を建築するまでにはいくつかの行程があります。
ここからは賃貸併用物件を建築するまでの流れを紹介していきます。

土地探し

賃貸併用物件を建築するためには、まず建築する土地を探すことになります。
自分の住みたい場所を優先して探す自宅用の土地と違い、賃貸併用物件の土地は周りの利便性に特に気を付ける必要があります。

賃貸物件は便利か便利ではないかで、賃貸人の入居率が大きく変わります。
自分は車で移動するため駅から遠い土地でも良いという考えがあったとしても、賃貸人が同じ考えとは限りません。
そのため、駅から徒歩圏内の土地、生活に必要なものが売っているスーパーなどが近い立地かどうかなどを考慮する必要があります。

ハウスメーカーに相談

土地探しをしてある程度良い土地が見つかったときには、土地購入前にハウスメーカーに相談します。

ハウスメーカーに相談する前に土地を購入しては絶対にいけません。
土地には建築制限があり、賃貸併用物件が建築できるかわからなかったり、建築できでも大きさに制限を受けたりします。
そのため、土地購入の前にハウスメーカーに相談し、建築プランまで確認し、土地も建物も自分の希望通りのものになったときに初めて土地の購入契約をします。

土地の契約と建物の契約

ハウスメーカーから建物プランの提示を受け、建築できる建物に納得できたら土地の購入契約を締結します。
そして、土地の購入契約が終了したらすぐに建物の建築請負契約を締結します。
その後、細かな建物打ち合わせをおこなっていきます。

土地の引き渡しと建物着工

土地の引き渡しを受けたらすぐに建物着工に入ります。
できる限り完成の時間を早め、すぐに賃貸人に入居してもらいたいからです。
賃貸人の入居が早くなればなるほど、賃料収入を得られるのも早くなります。

また、建物建築中に入居者募集もおこなってしまいます。
こうしておくことにより建物完成したときに、入居者がすでに決まっているという状態を作り出します。

建物完成・入居・運用開始

賃貸併用物件が完成したら引っ越しをします。
また、賃貸人が決まっているのであれば入居してもらい運用も開始していきます。

まとめ

賃貸併用物件とは、建物の一部を自宅として利用し、自宅以外の部分は賃貸スペースとして貸し出す物件のことを言います。
賃貸併用物件は土地の値段が高いところで良く利用されており、高額になる住宅ローンの支払いを賃料で軽くする効果があります。

ただ、賃貸併用物件には住宅ローンを軽くするメリットはあるものの、運用するデメリットもあるため、メリットとデメリットを知ったうえで賃貸併用物件を建築しなければなりません。

もし賃貸併用物件に興味はあるが、どのようなデメリットがあるのか知りたいというときには、ハウスメーカーに相談しに行くと良いでしょう。
そうすればデメリットの把握と同時に、どのような土地探しをしたら良いのかアドバイスをもらえるかもしれません。

賃貸併用物件の入居には土地の立地も関係してくるため、ハウスメーカーと土地探しからすることにより、運用が上手くいく賃貸併用物件を手に入れることができる可能性が上がります。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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