親から子へ1000万円を贈与する際にかかる贈与税の額と節税手段を解説
目次
相続税対策として、生前に親から子へ財産を渡す家庭も多いですが、親子間の贈与も贈与税の対象です。
贈与税は贈与財産の金額が大きいほど税率が高くなりますので、高額贈与を行う際は特例制度を活用するなどの対策は必須です。
本記事では、贈与税の計算方法と、親子間の贈与で利用できる特例制度について解説します。
親から子へ贈与する際の贈与税の計算方法
贈与金額によっては贈与税対策が不要な場合や、贈与する時期を変えるだけで節税効果を得られるケースもありますので、贈与税の仕組みを理解することは大切です。
贈与税の概要
贈与税は、個人から個人へ財産が贈与された際に課される税金です。
贈与とは無償で財産を渡す行為であり、贈与税の申告手続きを行うのは財産をもらった「受贈者」です。
1月1日から12月31日までの間に受贈者が贈与を受けた金額が贈与税の対象となるため、同じ年に複数回の贈与を受けた場合、贈与財産を合算して税額計算をする必要があります。
贈与税には、「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」の計算方法があり、原則は暦年課税制度を用いて贈与税を計算します。
申告期間は贈与を受けた翌年2月1日から3月15日までの1か月半で、贈与税の納付期限は申告期限と同じ3月15日です。
暦年課税制度とは?
暦年課税制度とは、1年間でもらった財産の金額から、110万円の基礎控除額を差し引いた金額に対して贈与税を課す計算方法です。
贈与財産が110万円以内であれば、基礎控除額を差し引いた後の金額はゼロになりますので贈与税は発生しませんし、申告手続きは不要です。
贈与財産が110万円を超えた場合には、超えた部分の金額に対して税率を乗じ、税額を算出します。
贈与税の税率には、「特例税率」と「一般税率」の2種類あります。
特例税率は贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上(※)の人が、直系尊属(親や祖父母など)からもらった財産に対して適用する税率で、一般税率は特例税率の対象とならない贈与財産に対して適用する税率です。
※令和4年3月31日以前の贈与の年齢基準は「18歳」ではなく「20歳」です。
【特例税率の速算表】
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
【一般税率の速算表】
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
暦年課税制度の節税ポイント
暦年課税制度の110万円控除は、毎年利用できるため、基礎控除額を活用して贈与税を節税することも可能です。
贈与した回数が1回であれば110万円控除は1度しか適用できませんが、複数年に分けて贈与した場合、「贈与した年分×110万円」を控除額として用いることができます。
たとえば1,000万円を1度に贈与すれば、課税価格890万円に対して贈与税が課されます。
しかし100万円の贈与を10年行った場合には、贈与した年ごとに110万円控除を適用し、1,000万円分の贈与財産を無税で渡せますので、贈与税を節税するためには贈与するタイミングも重要です。
親から子へ1000万円贈与した際にかかる贈与税額とは?
親から子へ1,000万円の財産を贈与した際に課される贈与税額は、適用される税率が「特例税率」と「一般税率」のどちらに該当するかによって変わってきます。
親が18歳以上の子へ1,000万円を贈与する場合には特例税率、親子間贈与でも受贈者の年齢が18歳未満であれば一般税率で贈与税の計算を行います。
<【特例税率】1,000万円を贈与した際にかかる贈与税額>
1,000万円-110万円(基礎控除額)=890万円
890万円×30%-90万円=177万円(贈与税額)
<【一般税率)1,000万円を贈与した際にかかる贈与税額>
1,000万円-110万円(基礎控除額)=890万円
890万円×40%-125万円=231万円(贈与税額)
110万円の基礎控除額を差し引いた後の課税価格300万円までは、一般税率と特例税率の税率は同じです。
しかし300万円を超えてからは特例税率の方が税率は低く設定されているため、子や孫に贈与する際は、受贈者の年齢が18歳以上になってから贈与した方が節税になります。
1,000万円の贈与の場合、適用する税率の違いだけで、贈与税の金額は54万円も変わります。
なお、受贈者の年齢は贈与を受けた年の1月1日時点で判定するため、贈与を受ける時点で18歳に達していたとしても、その年の1月1日時点で18歳未満の場合には一般税率で計算することになるので注意してください。
現金手渡しの贈与は税務署にバレる?
贈与税の確定申告が必要なケースで、申告・納税手続きを怠った場合、税務調査により指摘されることがあります。
税務調査は、税務署が無申告である事実を把握したときに実施しますので、証拠が残りにくい現金手渡しによる贈与であれば、税務署にバレないと思われるかもしれません。
たしかに贈与者と受贈者との間だけで現金のやり取りが完結した場合、税務署であっても贈与の実態を把握するのは難しいです。
しかし手元に多額の現金を保管している人は少ないため、多額の現金贈与を行う際は銀行からお金を引き出すことになりますし、受贈者も現金を自宅に保管するのは危険が伴うため、もらったお金は銀行に預けることが多いです。
銀行の入出金情報は記録として残りますので、税務署は銀行口座を調べれば多額の入出金の証拠は容易に把握できます。
贈与者の銀行口座からの出金時期と受贈者の入金時期が近ければ、贈与が行われたか疑われますし、税務調査では使途不明の出金や出所不明な入金についても聴取されます。
また贈与税の税務調査は、相続税の税務調査と一緒に行うことが多く、相続税の調査で贈与税の無申告が指摘されることも珍しくありません。
税務調査で申告漏れを指摘された場合、本税だけでなく、加算税・延滞税といった罰金を支払うことになりますのでご注意ください。
なお、次章で説明します贈与税の非課税特例や相続時精算課税制度などを活用すれば、1,000万円の贈与を受けたとしても、贈与税の納税額をゼロにすることも可能です。
現金贈与であっても税務署に見つかりますし、無申告が指摘された場合のリスクは高いため、脱税行為ではなく合法的な方法で贈与税対策を講じてください。
親子間贈与で高い節税効果が見込める4種類の特例制度
贈与税には様々な特例制度がありますが、親から子へ贈与する際に利用できる制度を4種類ご紹介します。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、最大2,500万円までの贈与が無税になる特例です。
60歳以上の親または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対して贈与した財産が対象で、特例を適用するためには贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に、贈与税の申告書を提出する必要があります。
本特例は贈与する財産の種類は問いませんので、現金・預金だけでなく、不動産や同族会社の株式を贈与する際に用いることも可能です。
令和5年度の税制改正により、令和6年以降の相続時精算課税贈与については、2,500万円の枠とは別に、110万円までの基礎控除が設けられています。
この新たに加わった110万円の基礎控除には、贈与税がかからず、また、相続財産として精算されることもないため相続税もかかりません。贈与税の申告もいらないですが、そもそも相続時精算課税を選択する必要があるため、届出書の提出を忘れないようにしてください。
また、相続時精算課税制度を適用した贈与した財産は、贈与者が亡くなった際、相続財産に加算して相続税の計算をすることになります。
不動産など1回の贈与で高額の財産を渡すときには有効な制度ですが、贈与者が一定以上の財産を保有している場合には、相続税として税金を支払うことになるため、メリット・デメリットを踏まえた上で利用することが求められます。
住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置
住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置は、直系尊属(親や祖父母など)から18歳以上の子などが住宅を購入する資金を支援してもらった際に適用できる非課税制度です。
令和6年度税制改正大綱により、令和6年1月1日から令和8年12月31日までの間(現行:令和4年1月1日から令和5年12月31日)に、住宅購入資金の贈与を受けた場合、購入する住宅が省エネ等住宅であれば1,000万円、それ以外の住宅の場合には500万円までの贈与が非課税となります。
特例を適用するためには、購入住宅の面積要件や受贈者の所得要件などを満たし、申告期限内に贈与税の申告手続きをしなければなりません。
教育資金の一括贈与に係る非課税措置
教育資金の一括贈与に係る非課税措置とは、30歳未満の受贈者が教育資金として受贈者の直系尊属(祖父母など)から金銭等の贈与を受けた場合、最大1,500万円まで非課税になる特例です。
適用期間は平成25年4月1日から令和8年3月31日までとなっており、特例を適用する際は、金融機関等の営業所等を経由して、教育資金非課税申告書を提出することになります。
贈与でもらった財産を教育資金として充てることが要件となっており、教育以外の目的で贈与資金を用いた場合、贈与税の課税対象となる点には注意してください。
また、受贈者が30歳に到達する時点で使い切っていない教育資金については、その時点で贈与があったとみなされますので、教育資金として使用する予定の金額を贈与するのがポイントです。
結婚・子育て資金の贈与税の非課税措置
結婚・子育て資金の贈与税の非課税措置は、結婚・子育て資金管理契約を締結する日において18歳以上50歳未満の方が、結婚・子育て資金に充てるために受贈者の直系尊属から贈与を受けた場合に適用できる特例です。
平成27年4月1日から令和7年3月31日までの贈与財産が対象で、結婚・子育て資金として最大1,000万円まで贈与税が非課税になります。
特例を適用する場合は、取扱金融機関の営業所等を経由して結婚・子育て資金非課税申告書を提出することになり、手続きをしないと特例は適用できません。
非課税申告書を提出しても、贈与財産を結婚・子育て以外の用途に使用すれば贈与税の課税対象になりますし、50歳に到達する時点で未使用の結婚・子育て資金については、その時点で贈与があったとみなされます。
また平成31年4月1日以後の贈与からは、受贈者の所得制限が追加されていますので、適用する際は要件を十分に確認してください。
不動産税理士が教える!親から子へ贈与する際の注意点
贈与税は、申告時点において受贈者が住んでいる場所を管轄する税務署に、受贈者が申告書を提出することになります。
贈与金額が110万円以内であれば申告は不要ですが、特例制度を適用する際は、納税額がゼロであったとしても申告手続きは必須です。
特例制度は期限内に申告することも条件となっており、申告書を提出するのが期限から1日でも遅れてしまうと、本記事でご紹介しました特例制度は一切適用できません。
また贈与財産が現金ではなく不動産の場合には、贈与税以外に「登録免許税」と「不動産取得税」が課されます。
贈与税の特例は贈与税のみが非課税・減額になる制度ですので、贈与税が無税だとしても、登録免許税と不動産取得税を支払うことになるケースは多いです。
なお、相続等で相続財産を取得した人が、被相続人(亡くなった人)から相続開始前7年以内に暦年課税制度で贈与を受けていた場合、その贈与財産は相続税の対象となります。
親が子3人に100万円ずつ贈与したときは、受贈者がもらった贈与財産(100万円)は贈与税の基礎控除額以内に収まるため無税です。
しかし、贈与してから7年以内(※)に親が亡くなった場合、計600万円の贈与財産は相続税の計算に加算しなければならないのでご注意ください。
※令和5年度税制改正により生前贈与加算が3年から7年となりました。
令和6年の贈与から影響を受けることになり、令和9年の贈与から1年ずつ年数が加算され、令和13年からの贈与は、7年以内の加算となります。ただし、以前に比べ4年の延長がなされておりますが、延長された4年間に受けた贈与は、合計100万円まで相続税が課税されません。
まとめ
贈与税は受贈者が支払うことになるので、贈与税の納税額が発生する場合、受贈者はあらかじめ納税資金を準備してください。
特例制度は要件をすべて満たしている場合に限り適用できますので、贈与する前に特例の要件を確認するのもポイントです。
また贈与税の特例制度は、適用する年が違うだけで非課税控除額の上限が変更になる場合や、特例制度自体が廃止になることも珍しくありません。
一方で、教育資金の一括贈与に係る非課税措置のように、大きな節税効果が見込める特例制度が新設されるケースもあります。
そのため相続税対策として生前贈与を行う際は、利用できる特例制度等を確認するために、税理士へ相談することをオススメします。