遺産分割調停のメリットとデメリットとは?有利に進める方法を解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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相続が起こったら、まず「遺言書」があるかどうかを確認します。
遺言書が見つかれば、遺産の相続は遺言書の指示に従って行います。
ですが、遺言書がない場合は相続人同士が集まり、誰がどの財産をどれだけ相続するかを話し合います。

話し合いで円満に決着が着けば良いのですが、必ずしもそうとばかりは限りません。では、話し合いで決着が着かなかった場合はどうすれば良いのでしょうか?

今回は、遺産分割調停について解説していきます。

遺産分割調停とは?

冒頭でお話ししたように、遺産を分割するためにはまず相続人同士で話し合いを行います。これを「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」と言います。

しかし、遺産分割協議で必ずしも決着が着くとは限りません。そのような場合は、裁判所に間に入ってもらい、調停委員に各相続人の主張をそれぞれ聞いてもらった上で当事者間の意見の調整をしてもらい、遺産の相続がスムーズに行えるようにしてもらいます。これを「遺産分割調停」と言います。

遺産分割調停は家事審判官(裁判官)と民間から選出された調停委員で構成されており、中立公正な立場で相続人双方の意見を聞いた上で調整を行います。調停ではさまざまな解決策を提案され、最終的に話し合いで解決することを目指します。

遺産分割調停の特徴

遺産分割調停は調停委員が当事者間に立って相続人の意見を聞いていくため、相続人同士が顔を合わせることはありません。調停委員には自分の意見を伝えた上で相手を説得してもらいますが、逆に調停委員に説得されることもあります。

なお、遺産分割調停は平日の日中に月1回程度のペースで行われ、短ければ3ヶ月で終わりますが、長ければ2年ほど続く場合もあります。

遺産分割調停のメリットとデメリット

ではまず、遺産分割調停のメリットとデメリットを整理してみましょう。

メリット

遺産分割調停のメリットは、おもに以下のようになります。

  • 冷静な話し合いが出来る
  • 公平な解決が出来る
  • 解決策を提示してもらえる

冷静な話し合いができる

遺産相続の話し合いは当事者間で一度こじれてしまうとなかなか解決することが難しく、最悪の場合相続そのものが完全にストップしてしまいます。

遺産分割調停を活用すれば、間に調停委員が立ってくれるため、感情的にならず冷静に話し合いを進めることが出来ます。

公平な解決が出来る

遺産分割調停は双方の意見を調停委員が聞き、お互いに納得のできる形での決着を目指して進められます。したがって、相続人同士の力関係で押し切られるようなことはなく、公平な解決をすることが出来ます。

解決策を提示してもらえる

調停委員は弁護士や民事もしくは家事の紛争に有効な専門知識経験を有する人物が選出されます。したがって、相続人同士では思い浮かばないような専門的知識に基づく解決方法を提示してもらうことが出来ます。

デメリット

いっぽう、遺産分割調停のデメリットは、おもに以下のようになります。

  • 手間も時間もかかる
  • 必ずしも自分の意見が通るわけではない
  • 全員が合意しない限り解決できない

手間も時間もかかる

まず、遺産分割調停の申し立てを行うためには、申立書をはじめとするさまざまな書類を用意しなければなりません。

また、遺産分割調停は平日の日中に行われるため、そのための時間を作らなければなりません。さらに、遠方に住んでいる場合は交通費なども必要になります。しかも、遺産分割調停は、長ければ2年以上かかる場合もあります。

必ずしも自分の意見が通るわけではない

遺産分割調停は、調停委員が間に入って相続人の言い分を調整していきます。したがって、自分の意見が通る場合がある反面、自分の意見が通らない場合もあります。

全員が合意しない限り解決できない

遺産分割調停は、相続人全員が合意にすることによって成立します。したがって、一人でも合意しない相続人がいると、調停に手間や時間をどれだけかけたとしても、調停は不成立となります。

遺産分割調停の手続きと流れ

それではここで、実際に遺産分割調停を行うための手続きと、遺産分割調停を行った場合の流れについて見てみましょう。

遺産分割調停の手続き

遺産分割調停を行うためには、裁判所に申し立てを行わなければなりません。そのための手続きは、以下のように行います。

  • 相続人の誰かが申立人となる
  • 申し立てをする裁判所を探す
  • 申し立てするための費用を用意する
  • 申し立てをするための書類を用意する

相続人の誰かが申立人となる

遺産分割調停を行う場合は、相続人の誰か(もしくは複数人)が申立人となって他の相続人を相手取り裁判所に調停の申し立てを行います。

申し立てをする裁判所を決める

調停の申し立てを行う裁判所は、以下の2つのうちどちらかを選択することができます。

  • 申立人の相手方となった相続人のうち、誰か一人の住所地を管轄する家庭裁判所
  • 当事者間で決めた家庭裁判所

申し立てをするための費用を用意する

遺産分割調停を行うための費用は、以下の2つです。

  • 被相続人(亡くなった方)一人につき収入印紙1,200円
  • 連絡用の切手代

申し立てをするための書類を用意する

遺産分割調停を申し立てるために必要な書類は、以下のようになります。

  • 遺産分割申立書
  • 当事者目録
  • 遺産目録
  • 相続関係図
  • 申立ての実情
  • 特別受益目録

これらの書式は、提出する裁判所のホームページからダウンロードすることが出来ます。

また、申立書に添付する資料としては、おもに以下のものが必要となります。
【身分関係書類】

  • 全戸籍謄本
  • (1)相続人が配偶者・子・親の場合・・・ 被相続人の出生から(被相続人の親の除籍謄本又は改製原戸籍等)死亡までの連続した全戸籍謄本
    (2)相続人が(配偶者と)兄弟姉妹の場合・・・(1)のほかに,被相続人の父母の出生から(被相続人の父方祖父母及び母方祖父母の除籍謄本又は改製原戸籍等)死亡までの連続した全戸籍謄本
    (3)相続人のうちに子又は兄弟姉妹の代襲者が含まれる場合・・・(1)(2)のほかに,本来の相続人(子又は兄弟姉妹)の出生から死亡までの連続した全戸籍謄本

  • 相続人全員の現在の戸籍謄本(3か月以内の原本)
  • 被相続人の住民票除票(廃棄済の場合は戸籍の附票)
  • 相続人全員の住民票(3か月以内の原本)

【遺産目録記載の不動産についての資料】

  • 登記簿謄本又は登記事項証明書(3か月以内の原本)
  • 固定資産税評価証明書(3か月以内の原本)
  • 公図【法務局で取得】写しに建物配置を書き込んだもの、又は住宅地図(住居表示のされているもの)

遺産分割調停の流れ

申立書が裁判所に受理されると、家庭裁判所から調停の期日が指定され、申立人や相手方の双方が裁判所に集まって調停がスタートします。調停は、おもに以下の手順で行われます。

  1. 誰が相続人となるのかを確認する
  2. ・・・戸籍謄本などにより確定していきます

  3. 遺言の有無を確認する
  4. ・・・遺言が残されている場合は遺産分割調停が出来ません

  5. 遺産の内容や範囲を確認する
  6. ・・・財産目録以外の財産の有無を確認します

  7. 遺産の評価額を確認する
  8. ・・・相続人の評価が一致しない場合は鑑定人に鑑定を依頼します

  9. 生前の特別受益や寄与分を確認する
  10. ・・・被相続人からの特別受益の有無や、被相続人に対する寄与分の有無をそれぞれ確認していきます

  11. 全員が合意のもと各相続人の取得すべき財産を確定する
  12. ・・・これまでの話し合いを踏まえ、調停委員が各相続人の「相続財産」を確定させます

遺産分割調停が成立した場合

調停の内容に相続人全員が合意した場合は、裁判所が合意の内容を証明する調停調書を作成します。調停調書には裁判所の判決と同様の効果があるため、これで調停内容に基づく相続を行うことが出来るようになります。

遺産分割調停が成立しなかった場合

調停の内容に相続人の誰か一人でも反対した場合は、調停が不成立となります。その場合は自動的に遺産分割審判の手続きが開始され、最終的には裁判所が判断を下すことになります。

遺産分割調停を有利に進める方法

遺産分割調停は、相続人同士の意見を聞いた上で、法律的な知見に基づき相続人全員の合意を目指します。したがって裁判のように勝ち負けを争うものではありません。

しかし、遺産分割調停を有利に進める方法はいくつかあります。ここでは、それらを箇条書きでご紹介します。

  • 調停委員の心証を良くする
  • ・・・就活面接と同じように、まず調停委員に「この人の意見を聞いてみよう」と積極的に思ってもらうことが大切です。そのためには、身なりを整えて礼儀正しい態度で調停に望まなければなりません。

  • 最低限の法律的な知識を身に着けた上で自分の主張を展開する
  • ・・・調停委員は法律的な知識を身に着けた専門家であり、法律的な知識を屈指して問題を解決しようと考えます。したがって、調停委員に自分の意見を理解してもらうためには、最低限の法律的な知識を身に着けた上で論理的に筋道の通った話を展開していかなければなりません。

  • 隠し事はせず譲り合う余地を残す
  • ・・・自分に不利なことを隠しても、相手の不信感を募らせていたずらに解決を遅らせるだけです。隠し事はせず、あえて譲り合う余地を残すことにより最終的な合意がしやすい素地を作る努力をしましょう。

遺産分割調停と相続税の申告について

相続税」は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行うことになっています。ですが、遺産分割調停が長引き、相続税の申告期限内に間に合わなかった場合はどうすれば良いのでしょうか?

法定相続分で仮の申告を行う

遺産分割調停が長引いて相続税の申告期限に間に合わない場合は、法定相続分で相続したものとして未分割のまま仮の申告を行い、それに基づいて算出された相続税をいったん納付します。

その後調停が終わり、遺産の分割が無事に終了したら、その時点で改めて相続税の申告をやり直します。相続する財産が法定相続分よりも少なくなった場合は、更正の請求を行い払いすぎた相続税を還付してもらいます。

逆に、相続する財産が法定相続分よりも多くなった場合は、修正申告を行って不足分を納付します。

そうであれば「遺産分割調停が長引いても安心!」と思われるかもしれませんが、残念ながら違います。なぜなら申告期限に間に合わず未分割の状態で申告を行うと、多くのデメリットが生じてしまうからです。

未分割で申告した場合のデメリット

未分割で申告した場合は、以下の特例を用いることが出来ません。

  • 配偶者の税額軽減の特例
  • ・・・配偶者の相続分が法定相続分か1億6千万円のどちから多い方までは相続税が非課税になる特例です

  • 小規模宅地等の評価減の特例の適用
  • ・・・被相続人の自宅等の土地を8割引きで評価してもらえる特例です

  • 物納
  • ・・・相続税をお金でなく土地などで納めることが出来る制度です

  • 農地の納税猶予の特例
  • ・・・被相続人が農業を営んでいた場合は、一定の条件下で納税額の一部(もしくは全部)を猶予してもらえる制度です

未分割で申告するとこれらの特例が使えなくなってしまうため、たいていの場合相続税の税額が増えてしまうことになります。

未分割で申告せざるを得ない場合の対策法

未分割で申告する時に、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておきます。こうすると、相続税の申告期限から3年以内に未分割の財産を無事分割することが出来れば、「配偶者の税額軽減の特例」と「小規模宅地の評価減の特例」を遡って受けることが出来るようになります。

ただし、「物納」と「農地の納税猶予の特例」については、残念ながら諦めざるを得ません。

3年以内に分割が終わらなかった場合の対処法

申告期限後3年が経過してもまだ未分割だったとしても、3年が経過した日の翌日から2ヶ月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署長に提出すると、さらに特例期間を延長することが出来る場合があります。

ただし、そのためには税務署長の承認を受ける必要があるため、いずれにしても未分割になってしまう前には一度税理士の意見を聞いてからどうすべきか考えた方が良いでしょう。

まとめ

遺産の分割を巡る話し合いに決着が着かなかった場合は、家庭裁判所で遺産分割調停を行うことが出来ます。遺産分割調停でも解決しない場合は、遺産分割審判によって最終的には裁判所が判断を下すことになります。

ですから、たとえ相続人同士が揉めたとしても、時間さえかければ必ずいつかは解決することが出来ます。

しかし、そうなると相続税の申告期限を過ぎてしまい、本来納める必要のない相続税まで納めることになってしまう場合があります。こうなってしまっては、誰にとっても得にはなりません。

したがって、このような事態になる前に、税の専門家である税理士からアドバイスをもらい、その上で全員が損をしない遺産の分割方法について話し合う方ことが必要でしょう。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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